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【図書館司書が兵士の娘に転生?】この異世界ものがスゴい!

近年、一大ブームが起きている“異世界(転生)もの”。死後、架空の世界で新たな生を受けた主人公が、前世での知恵や特殊スキルを活かし、奮闘する様子が描かれます。今回はそんな“異世界もの”の中から、特にユニークな展開・設定を楽しむことのできる小説を4作品ご紹介します。

近年、メディアミックス化される作品が次々と登場し、さらに注目を浴びるようになっているジャンル“異世界もの”。“異世界もの”とは、現世界ではない架空の世界を舞台にしたライトノベルや漫画作品の総称ですが、最近は特に、小説投稿サイト「小説家になろう」で発表される作品を中心とした、設定に意外性のある異世界小説が人気を集めています。

今回はそんな、“異世界(転生)もの”にスポットを当て、特にユニークなおすすめ小説を4作品ご紹介します。

『転生したらスライムだった件』(伏瀬)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4896374592/

『転生したらスライムだった件』は、異世界で“スライム”として生まれ変わってしまった30代の男・三上悟を主人公とする、異世界転生ものの名作です。原作は「小説家になろう」で2013年から連載され、翌年2014年には大幅な加筆を加えてノベライズされたほか、漫画化・アニメ化などが次々進み、メディアミックス作品として“転生もの”ブームを盛り上げる先駆けともなりました。

主人公の三上は、会社の爽やかな後輩・田村に恋人を紹介されたその直後、通り魔に刺されて死ぬという不遇すぎる最期を迎えます。薄れていく意識の中で、三上が田村に頼んだのは、「自分が死んだらPCの中身を破壊してくれ」という願い。大手企業に勤め、独身を存分に謳歌していた三上には、生涯恋人ができませんでした。

そんな彼ですが、転生先で意識を取り戻すと、自分の体に手足らしきものがないことに思い至ります。

“腹? の横辺りを撫でるように、草らしきものが触れていた。
その辺りに意識を集中すると、自分の身体の範囲がおぼろげながらに理解出来た。たまに、葉の先っちょが自分の身体にツンツンと刺さる感触がある。”

“面白くなって、その草に向かおうとすると──
ズルリ。
這いずるように、自分の身体が動くのがわかった。
動いた……だと!?
この時、はっきりと、自分が病院のベッドの上にはいないと判明した。自分の腹? の下の感触が、ゴツゴツとした岩のような形状をしていると感じたからだ。(中略)
その上、目も耳も機能していない。
どこが頭かわからないが、草に向けて移動する。
接触している部分に意識を向ける。
匂いは全く感じない。恐らく、嗅覚もないのではなかろうか?
というか、自分の身体の形状がわからない。
認めたくないが、流線型のぷよぷよした、あの“モンスター”の形状をしているような。”

やがて、自身がスライムに転生していることに気づいた三上。始めは無為に草を食べるだけの生活をしていた彼ですが、相手を身体に取り込むと、その能力がコピーできるようになる“捕食者”、そして“世界の言葉”にアクセスし、さまざまな知識を得ることのできる“大賢者”というふたつのユニークスキルを持っていることが判明してから、彼の生活は一変します。彼はその能力を駆使し、モンスターたちが跋扈する異世界で、闘いの主導者として活躍していくのです。

モンスターの中で最弱とも言われるスライム。圧倒的な身体のハンデを持ちながら、知恵と戦略という優秀なスキルを三上がどのように活かしていくかが本作の最大の読みどころです。

『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』(香月美夜)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B00TKIAMYW/

『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~』は、香月美夜による異世界転生小説です。本作は2013年の「小説家になろう」連載開始直後から注目を集め、2015年にはコミックス化、2019年にはTVアニメ化も果たすなど、人気の高いメディアミックス作品として知られています。

本作の主人公は、卒業を間近に控えた大学生・本須麗乃うらの。彼女は無類の本好きで、その博識さと知的好奇心の旺盛さを活かし図書館司書になることを夢見ていました。念願叶って大学図書館への就職が決まり、ひと安心していた麗乃でしたが、ある日彼女が父の書斎で読書をしていると、ぐらりと視界が揺れます。麗乃は不運にも、小さな地震で倒れてきた本の山の下敷きになり、現世での生涯を終えてしまいます。

彼女が目を覚ますと、そこは異世界の貧民街に建つ家の中でした。麗乃は5歳の病弱な少女・マインに転生していたのです。マインの家族は、兵士の父・ギュンターと母のエーファ、そしてマインの姉のトゥーリの4人。家族の目を盗んではベッドを抜け出し、「絵本くらいならあるだろう」と本の在りかを探すマインでしたが、どうしても見つけられません。そのうち、家に本が一冊もないことに気づいた彼女は、泣き出してしまいます。

“本が存在しない世界なんて、わたしの頭にはこれっぽっちも存在しなかった。ここでマインとして生きるための意味が見出せず、自分の中が空っぽになったように感じられた。
涙が止まらない。
「マイン! なんで寝てないの? 靴もないのにベッドから降りちゃダメでしょ!」
いつの間にか帰ってきたトゥーリが、台所の床にへたりこんでいるわたしを見つけて、青い目を吊り上げて、声を張り上げた。
「……トゥーリ、『本』がない」
「どうしたの? どこが痛いの?」
「トゥーリ、わたし、『本』が欲しい。『本』が読みたい。こんなに『本』が読みたいのに、『本』がないんだよ」”

どうやら、“本”の存在そのものを知らない様子のトゥーリ。後日、エーファに連れられて市場を訪れたマインは、この世界では本がまだ売り物にはなっておらず、貴族階級の人間だけが読むものだということを教えられます。一度は絶望したマインでしたが、すぐに「手に入らないなら、自分で作るしかない」と奮起し、現代知識を活かして本作りを目指すのです。

“手段を選んでいられません”というサブタイトルにもある通り、ときにマインは狡猾ともとれるさまざまな手段を駆使しながら、本を手に入れて読むというただひとつの目標に向かって邁進していきます。そのがむしゃらさ、必死さに、本好きの方であれば思わず共感してしまうはず。ほとんどの市民が本を読んだことがない世界の描写を通じ、読書という行為の存在意義や本質的な意味を問い直すような作品でもあります。

『異世界のんびり農家』(内藤騎之介)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B076Q19DSD/

『異世界のんびり農家』は、2016年より「小説家になろう」で連載され、翌年に書籍化を果たした異世界転生もの作品です。主人公は、過酷な会社勤めにより20代で体調を崩し、39歳で不幸にもこの世を去った主人公・街尾らく。彼は死後、対面した神様に“転移先”の場所でどのような生き方をしたいかを問われ、「健康な肉体を持ちたい」「人が少ない場所に転移したい」という願いを語ります。他にもないのかと神様に問われた火楽は、

“「そうですね……体が動くようになったら、やりたいと思っていたことが……あった! ありましたよ!」
「そうか。言ってみよ」
「農業です」
「……」
「アイドルが農業をやってる番組があるんですよ。それを見て農業をやってみたいなぁって……子供の頃、体験学習でクワを持ったことを番組を見ながら何度も思い出して……」
「そ、そうか、農業か……」
「はい。俺は農業がしたいです」”

と答えます。神様はその願いを聞き入れ、彼に“万能農具”なる道具を与えました。それはなんと、いつでも用途に応じた形に変化し、自分の体の中に収納できる上、その農具を使用している間は一切の疲れを感じないというすぐれもの。火楽は神様に与えられた“万能農具”を手に、転移先の森を少しずつ開拓していきます

“俺は自分の手にある『万能農具』を見る。今の形状はクワだ。効果は、耕した場所が土になっていく。
神様は他の形になると言っていた。例えば……ノコギリ。
俺は『万能農具』をノコギリの形にして、近くの木に当ててみた。
いや、木を切るのはノコギリじゃないな。ノコギリは木材の加工に使う物で、木を切るのは斧だ。
俺は『万能農具』を斧の形にして、近くの木に振りかぶってみた。
木を豆腐のようにスパッと切り裂いた。
おおっ!”

人気がないと思われた森は、人間以外のさまざまな生きものが住まう“死の森”でした。火楽は万能農具を味方にウルフやデーモンスパイダー(蜘蛛の魔物)、吸血鬼といった多種多様の生きものたちと交流しながら、やがてひとつの村の村長となっていきます。

本作はそのタイトル通り、“のんびり”と農業を楽しむ主人公の姿に焦点が当てられています。万能農具によって軽々と農地開拓や文明の発達を成し遂げていく火楽の姿には、行き過ぎたご都合主義的の雰囲気を感じる方もいるかもしれません。しかし、サクサクとストーリーが進み、ステージ制のゲームのように新たな展開が次々と待ち受けている点こそが、本作のおもしろさです。簡潔な文体はテンポもよく、気軽な気持ちで読み進めることのできる1作です。

『コボルドキング 騎士団長、辺境で妖精犬の王になる』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B07L2V78PL/

『コボルドキング 騎士団長、辺境で妖精犬の王になる』は、作者のsyousa.が2017年から「小説家になろう」上で連載している小説作品です。

本作の主人公は、異世界でかつて騎士団長の職に就いていた武人・ガイウス。彼は過去に隣国との凄惨な戦争で勇名を轟かせ、その強面・大柄な外見から、「五十人斬り」「人食いガイウス」などと影で呼ばれていました。

“怒りの精霊を身に宿して産まれた狂戦士とは違い、人間の凶暴さや残虐性、狂気が鍾乳石のごとく晶出した男……それが、あのベルダラス男爵だというのが、世間一般での認識であった。”

そんな彼が戦後、騎士を引退するとともに爵位を返上し、平民となって故郷の村に帰還するところから物語は始まります。ガイウスの故郷は森林にすっぽりと飲み込まれ、変わり果てた姿になってしまっていましたが、そこにはさまざまな生きものたちに混じり、犬のような姿をした生物“コボルド”が住んでいました。魔物に襲われていたコボルドのひとり・フォグをとっさに助けたガイウスは、その愛くるしい姿に思わず微笑んでしまいます。フォグの住む家まで案内してもらったガイウスは、他のコボルドたちから恐れられますが、

“両手をゆっくりと上げて、表情を崩し。敵意の無いことを伝えようと試みるガイウス。
友好を示すため、が半分。もふもふとしたコボルド達が集まってきたのを見て心が躍った、というのが半分の笑みだ。
勿論、「笑み」というのはあくまでガイウスの基準である。”

と、内心、心を躍らせていました。実はガイウスはその凶相に反し、勇敢でありながらも心優しく、なによりももふもふした動物が大好きな人物だったのです。

“緊張が解けたのだろう。互いの顔を覗き込みながら、わいわいと話し始めた。
可愛いらしいその様子を、目を細めて眺めるガイウス。
(何という目の保養だろう。これだけでも王都を出た甲斐があったというものだ。願わくばここにしばらく滞在させてもらって、この光景を記憶に刻み付けておきたいものだが……まあそれも図々しい話か)”

始めはガイウスを警戒していたものの、しだいに彼に心を開いていくコボルドたち。ガイウスは彼らのコロニーに滞在し、コボルドたちとの親交を深めていくこととなります。

本作は、近年の異世界ものの作品とは一線を画す、じっくりと読み進めていくほどにおもしろい小説となっています。ガイウスの性格を始め、キャラクターたちの内面や境遇は始めからすべて明らかにはされていません。緻密で豊かな描写によって登場人物たちが厚みを増していく点は、非常に魅力的。異世界ものライトノベルの淡白な描写にやや苦手意識を感じるという方にも、ぜひ読んでいただきたい1作です。

おわりに

今回は、ユニークでギャップのある設定・展開に重点を置いた“異世界もの”のおすすめを紹介しました。近年、ブームにより“異世界もの”小説が増え、どの作品がおもしろいのかわからない・どこから手を出していいかわからない──と感じていた方にとって、始めに手を伸ばす作品のご参考になれば幸いです。

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