本との偶然の出会いをWEB上でも

【『六人の嘘つきな大学生』ほか】“伏線の狙撃手”浅倉秋成のおすすめ作品

就活生たちが繰り広げる心理戦を描いた2022年本屋大賞ノミネート作『六人の嘘つきな大学生』。著者の浅倉秋成はこの作品で話題となり、いまもっとも注目を集めている若手作家のひとりです。代表作『教室が、ひとりになるまで』や最新長編『俺ではない炎上』などを含むおすすめ作品を、4作品紹介します。

2022年本屋大賞にノミネートされ、先の読めない圧倒的な面白さで大きな話題を集めたミステリ小説『六人の嘘つきな大学生』。本作の著者、浅倉秋成は“伏線の狙撃手”の異名を持ち、伏線を至るところに散りばめた本格ミステリを得意とする作家です。

浅倉の作品は近年、ミステリファンのみならず、エンタメ小説ファン・純文学ファンからも強い支持を受けています。今回は、そんな浅倉秋成のおすすめ作品のあらすじと読みどころをご紹介します。

『六人の嘘つきな大学生』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041098793/

『六人の嘘つきな大学生』は、浅倉秋成が2021年に発表した長篇小説です。本作はタイトル通り、“嘘つき”な6名の大学生たちの駆け引きを描いた本格ミステリ作品で、2022年本屋大賞、第12回山田風太郎賞、第43回吉川英治文学新人賞にもノミネートされた話題作です。

物語の舞台は2011年。高い競争率を勝ち抜いて残った優秀かつ個性豊かな6名の大学生たちが、有名IT企業・スピラリンクスの新卒採用に臨もうとしていました。最終選考はグループディスカッションだと人事担当者に告げられた彼らは、選考の本番までに最高のチームを作り上げ、6人全員で内定を勝ち取ろうと誓い合います。

ところが、最終選考を間近に控えたある日の夜、スピラリンクスから6人の元に、最終選考の選抜方法を変更するというメールが突如届きます。

“先月十一日に発生いたしました東日本大震災による被害、当社の運営状況を鑑みた結果、残念ながら今年度の採用枠は「一つ」にすべきという判断が下りました。これに伴い、当日のグループディスカッションの議題は「六人の中で誰が最も内定に相応しいか」を議論していただく、というものに変更させていただきます。そして議論の中で選出された一名に、当社としても正式に内定を出したいと考えています。”

このルール変更により、最高のチームを作ろうとしていた6人は、たったひとつの内定の座を奪い合うライバル同士となってしまいます。それでも選考当日、彼らはあくまで穏やかに話し合いを進めようとしますが、ディスカッションの中盤、6人のうちのひとりが、面接室内に置かれていたある封筒の存在に目を留めます。自分宛ての封筒を見つけた学生が思わずそれを開くと、封筒の中には、こんな“告発文”が入っていました。

“袴田亮は人殺し。高校時代、いじめにより部員「佐藤勇也」を自殺に追い込んでいる。
(※なお、九賀蒼太の写真は森久保公彦の封筒の中に入っている)”

文書の中で名指しされた袴田亮は、最終選考に残った6名の学生のうちのひとりでした。この告発はデマだと袴田は訴えますが、他の5人は強く動揺します。封筒は他にも5通用意されており、この時点で袴田以外の全員が、誰かが持っている封筒の中に、自分に対する告発が封入されているであろうことに気づくのです。疑心暗鬼になった6人の議論は加熱していき、封筒が開封されるたびに、6人の学生の“裏の顔”が明かされていきます。

封筒を面接室内に置き、最終選考を撹乱させた犯人はいったい誰だったのか──。6人の学生のうちのひとりによって事件の調査が始まったのは、最終選考から8年もの時を経てからでした。調査者は、時を経て新たに明かされる真相の数々に戦慄するとともに、自らが大きな誤解をしていたことに思い至るのです

本作の中でも多々見られる、意外性のある点と点が繋がっていき、思いもよらない真実が姿を表す気持ちよさは、浅倉秋成作品の醍醐味です。就活で人の“本性”は見抜けるのか、という永遠のテーマに真正面から斬り込んでいる点も素晴らしく、まさに浅倉秋成の代表作と言える1作です。

『教室が、ひとりになるまで』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4041096855/

『教室が、ひとりになるまで』は、浅倉が2019年に発表した長篇ミステリ小説です。本作は第20回本格ミステリ大賞、第73回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にノミネートされ、浅倉秋成の名を世に知らしめるきっかけともなった1作です。

作品の舞台は、北楓高校の2年A組。この学校では、わずか1ヶ月のうちに、3人ものクラスメイトが自殺するという異常な事態が起きていました。主人公の垣内友弘はある日、担任から、同じマンションに住んでいるクラスメイト・白瀬美月の様子を見てきてほしいと頼まれます。美月は大人しくも友達の多い女子でしたが、彼女はすこし前から学校を休んでいたのでした。

マンションのドア越しに姿を見せた美月は、「ごめん、学校には行けない」と友弘に告げます。

“「人殺しがいる」(中略)
ほんの数秒、でも僕にとっては数十分にも感じられる沈黙の後、美月はようやく言った。
「助けて」
喉が震えていた。
「三人とも自殺なんかじゃない。燈花も、竜也くんも、健くんも、みんなあいつに殺されたの。このままじゃ、こずえも殺されちゃう」”

美月は、これまでに自殺したと見られている3人の生徒は実際には自殺ではなく、クラスの仮装パーティーの際に美月の前に現れた、死神のような人物の力によって命を落としたのだと語ります。はじめは美月の言葉をショックからくる混乱によるものと決めつけていた友弘ですが、あるとき、友弘のもとに北楓高校の卒業生を名乗る謎の人物から手紙が届いたことをきっかけに、事態は変化していきます。

手紙は、北楓高校には代々、4人の生徒たちによって受け継がれる特別な能力があり、その能力の“受取人”のうちのひとりに友弘が選ばれた──という奇妙なものでした。手紙によると、友弘は人の嘘を見破る能力を有しており、体に強い痛みを与えることでその能力が発動すると言うのです。さらに、能力の発動に関しては、厳しいルールが付随していました。

“■受取人について
1.校内には常時、あなたを含めて四人の受取人が存在しています。すべて生徒です。
2.彼らは、それぞれ異なる能力を有しており、その発動条件も異なります。
3.能力の内容と発動条件を他人に知られたり、言い当てられたりすると、力は瞬く間に失効してしまいます。よってあなたは能力の詳細を誰にも語ることはできません。力を人に見せつけるような真似もおすすめできません。
4.すべての能力は私立北楓高校の敷地内でしか発動しません。(後略)”

最初はその手紙をただのいたずらと捉えていた友弘ですが、教室の中で偶然足をぶつけてしまった際に能力が発動し、クラスメイトの言葉に隠された嘘に気づいてしまったことから、自分に受け継がれた能力が本物であることに気づきます。そして、美月の言う“死神”も同じく特殊能力を持つ“受取人”のひとりで、能力を発動させることで自殺に見せかけた連続殺人をしているのではないか──と考えるのです。友弘は自らの特殊能力を用いつつ、特殊能力を有している“犯人”の正体に迫ろうとします。

本作は本格的な特殊設定ミステリであると同時に、非常に良質な青春小説でもあります。いじめも仲間外れもない、最高のクラスだと誰もが言い合っていた2年A組で、なぜこのように凄惨な事件が起きたのか──。謎が解き明かされた先にも、“友達”という存在の本質について考えさせられるようなメッセージが待っています。

『失恋の準備をおねがいします』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4065218586/

『失恋の準備をおねがいします』は、恋愛をテーマとした連作短編集です。本書は、2016年に浅倉が発表した『失恋覚悟のラウンドアバウト』という同内容の作品集が入手困難になっていたことを受け、改題を経て2020年に発売された1冊です。本書には、6篇のコミカルかつ意外性のあるラブストーリーが収録されています。

『六人の嘘つきな大学生』や『教室が、ひとりになるまで』といった本格ミステリ作品で浅倉を知った読者であれば、この作品の軽快でポップな読み味に驚かれるかもしれません。たとえば1話目の『上京間近のウィッチクラフト』では、男子にされた愛の告白を断るために「自分は魔法使いだから」という突飛な嘘をついてしまった女子高生のその後が描かれますが、主人公・まっちょとその友人の佳奈との会話は、まるで漫才のように軽妙です。

“「まずもって、まっちょはどこのガンプラマニアに告白されたのよ?」
「……いや、別にガンプラマニアじゃないよ。何で勝手にキャラ設定を詰めていこうとしてるの? おんなじ予備校の男子だよ。趣味は家庭菜園」(中略)
「へぇ」佳奈ぶんは退屈そうな表情で最後のチキンナゲットを頬張る。「そりゃ結構なこって。んで、そんな幸せ絶頂なまっちょさんが、どうして悩む必要があるんですかね。彼のつくる野菜がなぜだか軒並み卑猥な形に仕上がるとか?」
「仕上がらないよ。よしんば仕上がったとしても、それが何だって言うの……って、そうじゃなくて」私は言う。”

思わず笑ってしまうようなテンポのよさで、ふたりの会話は進みます。この作品のみならず、全体を通じてライトで明るいトーンのお話ばかりが収録されていますが、そのテーマはラブストーリーとは言え一筋縄ではいきません。嘘発見器を用いた浮気調査の話、盗癖を持つクラスメイトに悩まされる小学生の話──など、収録作はどれもミステリの雰囲気をまとっています

改題前のタイトルにもある“ラウンドアバウト”とは、中心の島の周囲を一方向に周回する環状交差点のこと。6篇のストーリーの前に意味ありげに置かれた序章の中には、こんな言葉があります。

“「すべて、ラウンドアバウトだったんだよ」
「ラウンドアバウト? ラウンドアバウトって、あの、交差点のラウンドアバウト?」
「そう。あのラウンドアバウト」(中略)
俺は笑った。「この『日の下町』で、おそらくはいくつもの恋模様が展開されたんだ。いくつもの『恋』が、まるでラウンドアバウトみたいに、一緒くたになってぐるぐると展開されていった──そして俺たちも巻き込まれた。結果、ある者は円滑に結ばれたかもしれない。ある者は、苦難の末に別れる道を選んだかもしれない。いずれにしても、そんな中で俺たちはこうやって回り回って再び結ばれることができた。いわば勝ち組だってことだよ」”

この言葉通り、物語の最後には、すべてのストーリーが“回り回った”結果訪れる、意外な結末が待っています。浅倉秋成らしい、遊び心のあるしかけの数々を楽しむことのできる1篇です。

『俺ではない炎上』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4575245194/

『俺ではない炎上』は、浅倉が2022年に発表した最新作。なりすましのSNSアカウントによって殺人逃亡犯に仕立てられてしまった男の逃亡劇を描いた長篇小説です。

主人公は、大手建築メーカーで営業部長として働く50代の男、山縣泰介。泰介は、ゴルフとジョギングが趣味で、インターネットやSNSについてはかなり疎い人物です。しかしある日、“たいすけ”を名乗るフォロワー数十人ほどのTwitterアカウントが、殺人を犯したことを示唆する発言とともに若い女性の無惨な死体写真を投稿します。そのツイートは瞬く間に拡散され、特定を試みたネット民たちによって、そのアカウントの持ち主は山縣泰介だというデマが広がってしまいます。

会社の上司からツイートの件を教えられた泰介は、はじめは事態の重大さに気づかず、そんなデマはすぐに嘘だとわかるだろうと楽観視していました。しかし、“たいすけ”を名乗るアカウントが10年前から日常的な投稿を続けていること、そしてそのアカウントが投稿する内容が、どれも泰介自身のプライベートなことに関する情報ばかりであることに気づくと、戦慄します。

“〈自慢のゴルフバッグ〉──数年前に買い替えてしまったが、間違いなく泰介が一時期使用していたゴルフバッグであった。(中略)
〈庭に花が咲きました〉──どこからどう見ても泰介の家の庭であった。
〈ゴルフは孤独なスポーツですが、だからこそやり甲斐があると信じています〉──他でもないそれは、泰介の口癖だ。
どこからどう見ても、山縣泰介が運営しているアカウントだ。
泰介のことをよく知らないから騙されてしまうのではない。泰介のことをよく知っている人間であればあるほど、泰介のものであると信じてしまうアカウントであった。”

さらに、“たいすけ”を名乗る人物が投稿していた写真の死体が実際に泰介の住む街の公園内で発見され、その身元が女子大生であることが判明すると、SNS上で、“無能な警察に頼らず犯人を捜し出そう”という動きが加熱していきます。妻と娘は実家に避難させたものの、YouTuberが自宅の前に押しかけたり、警察にも証言を信じてもらえないことに恐怖を覚えた泰介は、逮捕されないよう逃亡するという手段を選び、走り出すのです。

本作は、冤罪によって逃亡せざるを得なくなった男の姿を描くサスペンスであるとともに、承認欲求を満たすためにショッキングな情報や画像を拡散してしまう人々の軽率さや、“正義”の名のもとに行動がエスカレートしていくことの恐ろしさ、さらには特権の前にあぐらをかき、自分の非や責任を認めようとしない人の思い込みの強固さなどをえぐり出す強烈な社会派小説でもあります。重厚な作品ではありますが、先の読めない展開が続き、思わず一気読みしてしまうはずです。

おわりに

“伏線の狙撃手”の異名を持つ浅倉秋成。ミステリ小説に限らず青春小説やラブストーリーにおいても、張り巡らされた伏線を一つひとつ回収していく手つきの鮮やかさは、間違いなく浅倉作品の読みどころです。しかし、想定していた展開を裏切られる快感のみが魅力なのではなく、承認欲求や炎上、労働と搾取といった現代的なテーマを扱いながら、そのテーマに対する浅倉のメッセージが真正面から伝わってくるような結末が必ず用意されている点も非常に魅力的です。

浅倉秋成の作品には、本を読了して重要なトリックや犯人がわかってしまってもなお、何度も読み返したくなるような強度があります。いまもっとも新作が待ち望まれている作家のひとりである浅倉秋成に、今後も注目し続けたいと思います。

記事一覧
△ 【『六人の嘘つきな大学生』ほか】“伏線の狙撃手”浅倉秋成のおすすめ作品 | P+D MAGAZINE TOPへ