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クリスマスに贈りたい、“大人のため”の絵本セレクション

子どもへのクリスマスプレゼントの定番である「絵本」。しかし絵本の中には、大人になってから読んでもなお魅力的に感じられる名作が数多くあります。今回は、クリスマスプレゼントに贈るのにぴったりな、大人のための絵本を紹介します。

子どもの頃、クリスマスプレゼントに親や親戚から絵本を贈ってもらっていた、という人は多いのではないでしょうか。絵本というと小さな子ども向けのもの、というイメージが強いかもしれませんが、実際には深みのある物語や美しい絵など、大人にこそ楽しめる作品が数多くあるのです。

今回はクリスマスに家族や恋人に贈りたくなるような、とっておきの“大人のための”絵本をご紹介します。

『ビロードのうさぎ』(マージェリィ・W・ビアンコ 文/酒井 駒子 絵)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4893094084/

『ビロードのうさぎ』は、イギリス系アメリカ人の作家、マージェリィ・W・ビアンコが1922年に発表した、古典とも言える名作絵本です。

物語の主人公は、タイトルのとおりビロードでできたうさぎのぬいぐるみ。ある年のクリスマス、親戚からのプレゼントとして“ぼうや”の家にやってきたうさぎは、その愛らしさでぼうやから大喜びされます。しかし、たくさんの人たちからさまざまなプレゼントをもらうぼうやの姿を見ていたビロードのうさぎは、部屋の隅で小さくなってしまいます。

肩身が狭くなったうさぎに話しかけてくれたのは、あるウマのおもちゃでした。ウマは、“子どもに愛されたおもちゃはいつかほんものになれる”とうさぎに説きます。ほんもののおもちゃとはネジで動いたりしかけが立派だったりするもののことか、と聞かれたウマは、そうではないと言うのです。

あるときから、ぼうやはうさぎと一緒に眠るようになります。

すぐにうさぎは ぼうやとねるのが すきになりました。
ぼうやは いつもやさしくて、
ふとんで“うさぎのあな”というのを つくってくれます。
そうして ふたりで いつまでも
ヒソヒソ おしゃべりを するのでした。

ぼうやがいつでも一緒にいたがるあまり、日に日に汚れていくうさぎ。しかしぼうやはそんなことは気にせず、お手伝いさんに「汚い」と言われてもうさぎを離そうとはしません。そんなぼうやの様子を見たうさぎは、

「ぼく、ぼく……ほんとうの うさぎに なったんだ!」

と感じます。

実は物語はこのあと、すこし悲しい展開を迎えます。しかし、“ほんとうのうさぎ”になったビロードのうさぎとぼうやの絆は、きっとこれからも続くのだろうと予感させるような結末で本作は幕を下ろします。

『ビロードのうさぎ』を大人が読むと、モノや友情の“ほんとう”の価値とはどこにあるのだろう、とつい考えさせられてしまうはずです。『金曜日の砂糖ちゃん』や『ゆきがやんだら』などの代表作を持つ絵本作家・酒井駒子のどこかほの暗く情緒的な絵も、本作の大きな魅力です。

『急行「北極号」』(クリス・ヴァン・オールズバーグ 作・絵/村上春樹 訳)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4751519999/

『急行「北極号」』は、映画化もされ有名になった『ジュマンジ』などの代表作を持つアメリカの児童文学作家、クリス・ヴァン・オールズバーグによる絵本です。本作は1986年、その年に出版されたもっとも優れた絵本に贈られる権威ある賞、コールデコット賞を受賞しています。

物語の舞台は、主人公がかつて子どもだった時代のクリスマスイブ。主人公の“ぼく”はまわりの友達から「サンタなんて本当はいない」と言われますが、それを信じられずにいます。“ぼく”は密かに、サンタクロースを乗せたソリの鈴の音が聞こえてくるのをベッドのなかで待っていました。すると、ソリの鈴の音ではなく、蒸気を出す汽車のような音が“ぼく”の家に近づいてきます。気づけば、家の外には大きな汽車が停まっていました。近づいていって車掌の手を掴むと、“ぼく”はその汽車に乗せられます。汽車は、北極点を目指すというのです。

汽車には、サンタクロースの存在を信じるたくさんの子どもたちが乗っていました。汽車は森を抜け荒野を走り山を越え、どんどん北へと向かっていきます。“ぼく”は汽車でクリスマスの歌を歌ったりお菓子を食べたり、サンタクロースの工場を訪れたり……と夢のような経験をたくさんします。そしてサンタクロースになにがほしいかと聞かれた“ぼく”は、ソリの鈴がほしい、と答えます。

そのとき時計が夜中の十二時を打った。サンタがぼくに鈴を渡し、ぼくはそれをローブのポケットに入れた。車掌がぼくをそりから下ろしてくれた。サンタはトナカイたちの名前を大声で呼んでから、ぴしりとむちを鳴らした。トナカイ隊はいきおいよく前に進み、空高くのぼっていった。サンタはぼくらの頭の上を一度くるりとまわってから、冷たく暗い北極の夜空に消えていった。

サンタにもらった鈴は、翌朝になっても“ぼく”の手元で、聞いたことがないくらい美しい音色を出すのでした。そして“ぼく”は、大人になったいまでもその音がきちんと聞こえるのだ──、と言います。

絵本としてはすこし珍しいくらい硬質な文体と、暗い光をまとった淡いイラストが特徴的な『急行「北極号」』。ストーリーそのものはとてもメルヘンチックで夢にあふれていますが、まるで映画のように緻密に構成された絵と文章のハーモニーは、大人にこそじっくりと味わってほしいものです。

『サンタクロースっているんでしょうか?』(ニューヨーク・サン新聞「社説」原作/東逸子 絵)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4034210109/

『サンタクロースっているんでしょうか?』は、1897年9月21日、かつて存在したアメリカの新聞『ザ・サン』に掲載された社説をもとに制作された絵本です。この社説は、バージニア・オハンロンという8歳の少女による「サンタクロースって、ほんとうに、いるんでしょうか?」という投書に答える形で、フランシス・チャーチという論説委員が執筆したものです。

バージニアは、まわりの友達に「サンタクロースはいない」と言われ、父親から「サン新聞に聞いてごらん」と助言を受けたことをきっかけにこの投書を送ったと言います。フランシス・チャーチは社説のなかで、まずは手紙に対するお礼を述べたあとに、

バージニア、おこたえします。サンタクロースなんていないんだという、あなたのお友だちはまちがっています。

と言います。そして、目に見えるものしか信じられないことの貧しさや、人間ひとりの知恵には限りがあることを説いた上で、

この世のなかにあるみえないもの、みることができないものが、なにからなにまで、人があたまのなかでつくりだし、そうぞうしたものだなどということはけっしてないのです。

そうです、バージニア、サンタクロースはいるのです

と語りかけます。

このあたたかい返答が読者の間で評判となり、『ザ・サン』は1920年代以降になると、クリスマスが近づくたびにこの社説を再掲するようになったといいます。いまではこの短い社説は信じることの大切さをやさしい言葉で説いた名文として、クリスマスには決まってさまざまな場所で引用されるものとなりました。投書をした少女・バージニアはその後、ニューヨークの学校教師として人生を送り、彼女が亡くなった際には「サンタの友だち バージニア」という見出しの追悼文が新聞に掲載されました。

『サンタクロースっているんでしょうか?』はとても短い作品ですが、一度読めばずっと手元に置いておきたくなる1冊のはず。目に見えるもの、価値がわかりやすいものの重要さばかりを追いかけてしまう毎日に疲れたときに、何度でも開きたくなる絵本です。

おわりに

子どもの頃は絵本が大好きだったという人でも、大人になるとなかなか自分のために絵本を選ぶことは少なくなるのではないでしょうか。人や自分のために買うプレゼントも「できるだけ日常的に使えるもの」という観点から選びがちだと思いますが、クリスマスくらいは、ロマンチックな絵本をプレゼントに選んでみるのも素敵なはずです。

一見実用的なものには思えなくても、すばらしい絵本は、疲れたときにこそ私たちの心をじわじわとあたためてくれます。クリスマスプレゼントに迷ったら、今回ご紹介した3冊の絵本を贈ってみてはいかがでしょうか。

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