本との偶然の出会いをWEB上でも

「読んだつもり」で終わらせない。じっくりと本を味わうための“読書術”本4選

近年、ビジネス書の内容を数分の内容にコンパクトにまとめて紹介するYouTube動画や、本の要点を簡単に読み解く方法を説いたノウハウ本などが支持を集めています。しかし一方で、そういった読書法は本を「読んだつもり」にさせ、すぐに記憶から薄れさせてしまう可能性も持っています。今回は、そういった“ファスト読書”ではなく、本を読む行為をじっくりと味わい、内容を定着させるためのコツや極意を紹介している良質な「読書術(読書法)」本を選りすぐり、4冊ご紹介します。

『人生の土台となる読書』(pha)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B09B9LMVMT/

『人生の土台となる読書』は、“日本一有名なニート”として知られ、『しないことリスト』『がんばらない練習』などの著書を持つブロガーのphaによる1冊です。

本書のなかで、phaは読書を「すぐに効く読書」と「ゆっくり効く読書」というふたつの種類に分類しています。そして、“一見、すぐに効くほうがよさそうに思えるけれど、そうとは限らない”、“すぐに効く読書は、いまの状況をちょっとだけ改善するには有効だけれど、大きく人生を変えてはくれない”と語ります。本書で紹介されるのは、後者の「ゆっくり効く読書」──つまり、時間はかかるものの、遅れてじわじわと読み手の人生に影響するような読書の仕方です。

本書では、多岐にわたるジャンルの本の解説を通じ、それらの本から得られる“効用”が紹介されていきます。たとえば、phaは、読書を通じて自分の“ロールモデル”を見つけることの重要さを、このように説きます。

“成功した人の話を読むと、爽快でスカッとする。
だけど、自分もマネをして同じようにやってみようとしても、そんなに簡単にうまくはいかない。(中略)
だから、本当に人生の参考になるのは、成功した人のことを書いた本ではなくて、たくさん失敗をしたことのある「ダメ人間」について書いた本だと思うのだ。”

そして、学生時代に出会い、衝撃を受けたという中島らもの小説やエッセイ作品を紹介した上で、

“人間はみんなどこかが欠けている欠陥品だ。
世間がいう「正しさ」なんてあやふやなものに過ぎない。
絶対に正しいものなんて存在しないこの世界の中で、人間は自分の中の欠落を埋めるために、正義や名誉、恋や酒など、自分を酔わせてくれるものを求め続けているだけなのだ。
らもさんの本からそうしたメッセージを受け取った僕は、「普通」にうまく馴染めない自分でも、自分なりのやり方で生きていけばいいのだ、という自信を持つことができたのだった。”

と、そこから受け取ったメッセージを語ります。本書ではこのように、押しつけがましくない形で、“ゆっくり効く”本の魅力とそこから得た学びの内容が綴られていきます。phaの愛読書は小説や詩歌といったフィクションからエッセイ本、社会学や生物学の本に至るまで幅広く、初心者のための読書案内としても非常に魅力的な書籍です。

『読んだら忘れない読書術』(樺沢紫苑)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B00W723I3U/

『読んだら忘れない読書術』は、精神科医・映画評論家の樺沢かばさわ紫苑しおんによる、15万部突破のベストセラーです。

本を多く読んでいても、読了から時間が経つとその内容をどんどん忘れていってしまう──という人は多いのではないでしょうか。本書は、「知識」として自分のなかに定着しない、記憶にとどまらないような読書をやめ、自分自身の成長につながるような読書をするためのノウハウを解説する本です。

樺沢は30年以上、習慣として月に20~30冊ほどの本を読み続け、年間3冊以上の本を発表しつづけていると言います。そんな彼の圧倒的なインプット・アウトプットを支えているのが、“記憶に残る読書術”。具体的には、読んだ本の内容を定期的にアウトプットすることと、スキマ時間を活用することを推奨しています。

アウトプットは、週3回以上することでより深く記憶に定着すると樺沢は語ります。そのための方法として、

・マーカー読書術(重要な点、気になった点にマーカーを引きながら読み進める)
・テレビショッピング読書術(友人・知人などに本のよかった点を話し、薦める)
・ソーシャル読書術(SNS上で、本のよかった点を引用した上で感想を添えてシェアする)

といったことをまずは習慣化するとよいと言います。これらのアウトプットに慣れたら、特に人に薦めたい本・感銘を受けた本のレビューライティング(書評)に挑戦し、それをWeb上に公開することで、知識がさらに自分のなかに定着していくのです。このようなアウトプットに加え、スキマ時間を活用した効率的な読書を続けていくと、しだいに本を読んでいるときは自然に内容に集中できるようになると言います。

身近な習慣をすこし変化させることでより記憶に残る読書ができる、という樺沢の読書術は、なかなか集中力が持続しない人・読書を続けることに苦手意識がある人にこそおすすめです。

『読書について』(ショウペンハウエル)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4003363221/

『読書について』は、ドイツの哲学者・ショウペンハウエルが1850年代に発表した論考です。哲学者が読書について綴った本、というと難解なイメージを持つ人も多いかもしれませんが、本書が指摘していることは非常にシンプル。ショウペンハウエルは、本を闇雲に乱読するのではなく、“良書”を見極めて、思索しながら読めと語っているのです。

“読書は、他人にものを考えてもらうことである。本を読む我々は、他人の考えた過程を反復的にたどるにすぎない。(中略)
ほとんどまる一日を多読に費やす勤勉な人間は、しだいに自分でものを考える力を失って行く。つねに乗り物を使えば、ついには歩くことを忘れる。”

と、ショウペンハウエルは指摘します。つまり、読書という行為はあくまで受動的なものだからこそ、ただ“読む”だけではなんの学びも得られないというのです。重要なのは“考える”ことだと、ショウペンハウエルは繰り返し言います。

“したがって読まれたものは反芻され熟慮されるまでに至らない。だが熟慮を重ねることによってのみ、読まれたものは、真に読者のものとなる。食物は食べることによってではなく、消化によって我々を養うのである。それとは逆に、絶えず読むだけで、読んだことを後でさらに考えてみなければ、精神の中に根をおろすこともなく、多くは失われてしまう。(中略)
我々が徹底的に考えることができるのは自分も知っていることだけである。知るためには学ぶべきである。だが知るといっても真の意味で知られるのは、ただすでに考えぬかれたことだけである。”

本を一度通して読み、内容を“知った気”になるだけではなんの意味もない。2度以上本を繰り返して読むことで、“ひとつの対象を違った照明の中で見るような体験”ができ、はじめてその本が自分の血肉になる──と語ります。本書のおもしろさは、読書の魅力や効能ではなく、その功罪にスポットを当てている点。ショウペンハウエルは日々出版される“駄書”(悪書)を批判し、読むのは流行に左右されない名著のみにすべきだと指摘します。

読書の真髄は“読む”ことそのものではなく、読んだ内容を通じて自分がなにか新しいことを感じ、思索することにある──と思い出させてくれる、背筋の伸びるような1冊です。

『読書の価値』(森博嗣)


https://www.amazon.co.jp/dp/4140885475

『読書の価値』は、『すべてがFになる』『スカイ・クロラ』などの代表作を持つ人気作家・森博嗣による1冊です。本書のなかで、森は“本が苦手だった”、“作文の授業が大嫌いだった”という自分の子ども時代を振り返りながら、読書の極意について語っています。

“僕は、本というものを馬鹿にしていた。
教科書もそうだが、課題図書などで読まされる本が悉くつまらなかったからである。なによりも、物語というのは作り物であり、そこにどんな教訓が書かれていたとしても、まったくのご都合主義でしかない。そのテーマについて伝えたかったら、おそらく三行くらいの簡潔な文章にできるはずだ。それで十分ではないか。”

“この世界に入ってみてわかったことだが、小説家というのは、小説が好きで好きでたまらない人がなるものらしく、本好きが圧倒的多数である。読者ももちろん同じ嗜好の人たちだ。若いときから小説や物語が大好きで、架空の世界の中にすんなりと飛び込んでいける特性をもっている。したがって、僕は極めて異例の人材だったということになるだろう。”

本が大好きではない自身のことを“異例の人材”と語る森は、一方で、非常に多くのことを活字から学んできた、と綴ります。しかし、それらの本は他者からの推薦ではなく、自分自身で見つけたものであることが重要だと森は言います。

“文字がすらすらと読めないハンディを背負いながらも、とにかく本を読むしかなかった。知りたいことは、活字を追うことでしか得られなかったのだ。”

“自分で、百冊の本を選んでコメントを書いた本はあったけれど、誰某の選書なるものにも接した経験がない。そもそも、僕は人から本をすすめられて、そのとおりに読んだことがないのである。(中略)
僕が本から得た最大の価値は「僕が面白かった」という部分にある。だから、もし同じ体験をしたいなら、各自が自分で自分を感動させる本を見つけることである。同じ本が別の人間に同じ作用を示す保証はないからだ。”

このように、本書が示す読書の効能や魅力は、実用的な読書術を求めている方にとってはすこし肩透かしにも思える内容かもしれません。しかし、自身の体験を振り返りながら森が語る読書についての論考は、“本を読む”とはどんな行為であるかを根本から見つめ直し、個人個人にとっての読書の価値を問い直すようなものです。効率ばかりを重視する読書術に疑問を覚えている人にこそ読んでほしい良書です。

おわりに

日々、仕事や家事に追われていると、読書を通じたインプットの時間もできるだけ短く、効率的なものにしたいという気持ちが湧いてくるかもしれません。しかし、効率やコストパフォーマンスを重視した読書は、本の要点だけをつまみ出すというやりかたであることが多く、“要点”の周辺に存在している学びや魅力の可能性を遠ざけてしまうこともあります。

今回ご紹介した4冊の本は、本を自分の記憶のなかにしっかりと定着させ、人生の糧とするための考え方や方法を教えてくれるものばかりです。自分の読書の仕方に不安や疑問を持っている方は、ぜひ手を伸ばしてみてください。

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