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【ドクター・ドリトル公開記念】いま改めて読みたい、『ドリトル先生』シリーズの魅力

映画『ドクター・ドリトル』の公開が迫り、映画ファンの話題を集めています。今回は、映画の原作である、ヒュー・ロフティングによる名作児童文学『ドリトル先生』シリーズの魅力を紹介します。

『アイアンマン』などで人気のロバート・ダウニーJr.が主演を務める映画『ドクター・ドリトル』が、いよいよ6月19日に公開されることとなりました。

『ドクター・ドリトル』の原作は、イギリス出身の小説家、ヒュー・ロフティングによる『ドリトル先生』シリーズ。1920年に第1巻が刊行されたこの児童文学作品は、シリーズ完結から60年以上の時を経てもなお、世界各国の子どもたちから愛され続けています。

今回はそんな『ドリトル先生』シリーズの魅力や誕生秘話と、おすすめ作品のあらすじを紹介します!

「動物語がわかる」獣医、ドリトル先生の誕生秘話

『ドリトル先生』(原題は『Doctor Dolittle』)シリーズは、動物の言葉が理解できる腕のいい獣医、ジョン・ドリトル先生と、ドリトル先生の屋敷に住む動物たちの活躍を描いた児童文学作品です。

土木技師であったヒュー・ロフティングが『ドリトル先生』の着想を得たのは、第一次世界大戦中。イギリス陸軍の将校としてフランダースに出征していたロフティングには、家に残してきた2人の幼い子どもたちがいました。ロフティングは負傷した軍用馬が殺処分されていく光景に心を痛め、戦地から子どもたちへ送る手紙の中に、動物語を理解する獣医が動物たちと仲睦まじく暮らすという短い物語を挿絵つきで送るようになります。特にこの物語が気に入った息子のコリンは、自分自身がドリトル先生になりきったつもりで物語にのめり込み、「ドリトル先生」を自称するようになりました。

イギリスに帰国したロフティングとその一家は1919年、戦火を逃れるためにアメリカへの移住を決意します。アメリカ行きの船内でロフティングと知り合った小説家兼詩人のセシル・ロバーツという男性が、ロフティングが毎晩同じ時間に船室に戻ることに気づきその理由を尋ねると、ロフティングは「ドリトル先生に会いにいくんです」と答えたと言います。

「ドリトル先生」こと息子・コリンを紹介されるとともに、ロフティングによる自作の物語の存在を知って感銘を受けたロバーツは、ニューヨークの出版社で本を出版することをロフティングに勧めます。そして、1920年にはその物語が『ドリトル先生アフリカゆき』として刊行され、ロフティングは児童文学作家としての活動を始めたのです。

人気作品化と、日本での広まり

『ドリトル先生アフリカゆき』に続いて発表された第2作『ドリトル先生航海記』は特に人気を博し、ロフティングは1923年、本作で、アメリカにおいてもっとも優れた児童文学の著者に贈られるニューベリー賞を受賞します。

以後、次々と刊行されていく『ドリトル先生』シリーズはアメリカで高い人気を得続けていましたが、ロフティングは1927年に妻を亡くし、翌年再婚した相手をも病気で亡くすという不幸な経験をします。3度目の結婚後はカリフォルニアに転居するものの、今度はロフティング自身が健康を損ねてしまい、『ドリトル先生』シリーズの執筆も途絶えがちになりました。ロフティングは第10作目である『ドリトル先生と秘密の湖』を書き上げた1947年に、61歳でその生涯を終えています。

『ドリトル先生』シリーズが文芸評論家の大槻憲二によって日本で最初に訳されたのは1925年、少年向け雑誌『少年世界』の連載作品としてでしたが、こちらは残念ながら単行本化されることはありませんでした。初めて日本語訳の本を手がけ、『ドリトル先生』シリーズの名前を日本中に轟かせたのは、小説家・井伏鱒二です。

井伏鱒二は第二次世界大戦中、近所に住んでいた児童文学作家の石井桃子に『ドリトル先生』を薦められ、それが縁となって本シリーズの翻訳を始めたと言います。

このお話があまりおもしろかったので、じぶんひとりで楽しむには、もったいなくなり、御近所に住んでいらっしゃる作家、井伏鱒二さんのところに伺っては、ドリトル先生の筋書をお話ししたものでした。
そのようなとき、井伏さんは、目をパチパチさせて、「いい話ですね、いい話ですね。」とおっしゃるのでした。
──石井桃子『「ドリトル先生物語」について』より

井伏鱒二は終戦後もシリーズの翻訳を続け、1962年には全12巻の翻訳を終えました。その後、50年以上が経過した現在でも井伏鱒二による訳は名訳と名高く、『ドリトル先生』シリーズの岩波少年文庫版は井伏訳で版を重ねています。

『アフリカゆき』『航海記』『月へゆく』──シリーズおすすめ作品

ここからは、実際に『ドリトル先生』シリーズの代表作やおすすめ作品をご紹介します。

1.『ドリトル先生アフリカゆき』

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出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4001140217/

まず、『ドリトル先生』の記念すべき1作目は『ドリトル先生アフリカゆき』。本作は、その昔、「沼のほとりのパドルビー」という町に住んでいた名医のジョン・ドリトルが、家で飼っているたくさんの動物たちを理由に町の人々から敬遠されてしまう──というシーンから始まります。

先生の妹さんは、先生にいいました。
「にいさん、こんなに動物ばかり飼っていたら、患者さんが、ひとりもこなくなるじゃありませんか。ハリネズミや、ネズミなど飼うなんて、ほんとに、医者らしくもない。(中略)にいさんが、いつまでもこんな調子なら、金払いのいいお客さんは、みんなほかのお医者にいってしまいます。」
しかし、先生はいいました。
「わしは、金払いのよい人間よりも、動物のほうが、かわいいのだ。」

ドリトル先生は次々と動物を飼い続け、それに比例するように患者は減ってゆくばかりでした。ある日、最後にひとり残った患者の男から「獣医になってはどうか」という提案を受けたドリトル先生は悩みます。すると、ひとりになったドリトル先生のところに、飼っていたオウムのポリネシアが飛んできて、

「動物も話ができることを、先生、ごぞんじでしたかしら?」

「私たちオウムは、二とおりの言葉が話せます、人間語と鳥語と。」

と知恵を授けたのです。
ポリネシアから鳥語、そして動物語を教えてもらったドリトル先生は、人間を診る医師を辞め、獣医に転身します。ドリトル先生の評判を聞きつけ、先生を慕ってやってきた世界中の動物たちで先生の屋敷は瞬く間にいっぱいになりました。一時期はお金持ちになったドリトル先生も、動物が増えすぎたことと、先生がサーカスから引き取ったワニを怖がって誰も動物を連れて来なくなったこと、身の回りの世話をしてくれていた妹が愛想を尽かして家を出てしまったことをきっかけに、これまでにないほど貧乏になってしまいます。

そんな先生を心配した屋敷に住む動物たちは、自分たちが“家事の手つだい”をすることを提案します。料理はサルのチーチー、床掃除は犬、寝床の始末はアヒル──というように分担して家事を始めた動物たちのおかげで先生の生活はなんとか成り立つようになっていきますが、ある日、サルのチーチーがアフリカで流行っているサルの疫病を治すために、ドリトル先生にアフリカに行ってほしいとお願いしたことで事態は一転します。
アフリカへ向かうドリトル先生一行の冒険のハラハラ感と、個性豊かな動物たちのキャラクターが徐々に確立されてゆく面白さが『ドリトル先生アフリカゆき』の最大の魅力です。

2.『ドリトル先生航海記』

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出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4001140225/

シリーズ2作目である『ドリトル先生航海記』も、非常に人気の高い作品です。特に、日本では『ドリトル先生航海記』が『ドリトル先生』シリーズの代表作として紹介されることも多く、子どもの頃に本作を読んだことがあるという方も多いのではないでしょうか。

『ドリトル先生航海記』は、パドルビーの町に住む靴屋の息子、トミー・スタビンズの回想記という形をとっています。あるとき、トミーは鷹に襲われて怪我をしたリスを保護したことをきっかけにドリトル先生と知り合いになり、先生に憧れ、助手としてドリトル先生の屋敷に住み込むようになります。

トミーが助手として少しずつ動物語を理解できるようになってきたころ、ドリトル先生は、半分は魚で半分は貝という不思議な生物、「イフ・ワフ」の言語を研究していました。そんな折、ミランダという名の紫ゴクラクチョウが、先生の尊敬しているインディアンの博物学者、ロング・アローが行方不明になっているというニュースを持って飛んできます。ドリトル先生はロング・アローを捜し意見交換をするため、ロング・アローが住むというクモサル島にトミーや動物たちを連れて向かうのです。

本作で、ドリトル先生はついに貝類の言葉を理解できるようになります。

海カタツムリが話をしている間に、先生と私が、壁みたいな殻に、耳をあてていると、そのおしゃべりの音が、ほんとにはっきりとききわけられるのでした。それは、フィジットがいったように、深みのある、鈴のような声ですが、なにをいっているのか、私にはひとこともわかりませんでした。でも先生は、ずいぶんひさしく知りたいと望んでいた貝のことばを、いよいよ習うときがきて、とても興奮していました。(中略)それは、くるしい仕事ですが、数時間もするうちに、少しずつ成功してゆくようすが、先生の幸福そうな顔にあらわれてきました。

行方不明の学者を捜すために大航海に出る、という骨太なストーリーはもちろん、ドリトル先生が貝の言葉を理解するまでのさまざまな努力、物語の途中で語られる動物たちによる挿話、魚のフィジットとドリトル先生の一問一答など、ユニークなエピソードが次々と連なってゆくテンポのよさが『ドリトル先生航海記』を最高に魅力的な作品に仕上げています。

3.『ドリトル先生月へゆく』

月へゆく
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4001140284/

『ドリトル先生月へゆく』は、シリーズ8作目にあたる作品で、前作の『ドリトル先生と月からの使い』の続編となります。ドリトル先生は『ドリトル先生と月からの使い』の中で昆虫語の研究に心血を注いでおり、ある日、ドリトル家の庭に舞い降りた巨大なガとの出会いをきっかけに、そのガは月からの使いであり、どういうわけかドリトル先生を月に連れて行こうと迎えにきたのだ──ということをつきとめます。そして、親のいるトミーや家族のいる動物たちを置いて月へ行こうと画策するのですが、結局、ガの背中に乗ってトミーや何匹かの動物たちとともに月へ舞い降ります。

ドリトル先生たちは酸素を放出する草「月のツリガネソウ」などの助けを借り、なんとか砂漠や死火山の中を抜け、月での調査を進めていきます。すると、月の動植物はどれも地球のものよりひと回りもふた回りも大きいということが判明し、先生たちは月の謎を解こうと苦心します。

実はロフティングは、本作を執筆した1928年頃には『ドリトル先生』シリーズのマンネリ化を感じており、ドリトル先生を月に置き去りにしたままでシリーズを完結させる予定でした。しかし、地球に帰ってくるドリトル先生の姿が見たい、という多くの読者からの要望に押され、シリーズは結局続くこととなります。

本作には、生物の多様性や進化、生存競争の難しさについて書かれた箇所が多々あり、これまでどおりのワクワクするような冒険譚という要素は併せ持ちつつも、SFのような重厚なストーリー展開も楽しむことができる作品となっています。『ドリトル先生』シリーズを読み進め、いつもとちょっと違った雰囲気の作品も読みたいという方には特におすすめの1冊です。

おわりに

『ドリトル先生』シリーズは、イギリスやアメリカを越え、特に日本で長く愛され続けていると言われています。その理由のひとつには、『ドリトル先生アフリカゆき』の作中などに見られる黒人への差別的な記述が原因で、公共図書館に『ドリトル先生』シリーズを置かない方針をとっている国があったり、出版をとりやめている国があったりするためです。
このことについて、石井桃子は、

確かに、今日の目から見ると、誠実で、民族をこえて人間というものに愛情を抱いていたと思われるロフティングの作品のなかに、人種差別の気もちがなかったとはいえない箇所にぶつかると、私たちはびっくりさせられます。しかし、一方、私たちはまた、ロフティングが生まれ、育った時代を考えてみる必要があるようです。(中略)ロフティングも、いま生まれれば、心から人種差別に反対しただろうと、私には思えてなりませんが、一八八六年にイギリスに生まれた彼は、やはり、その時代の子であることをまぬがれなかったのです。
──『「ドリトル先生物語」について』より

と語っています。私たちはこのような背景も念頭に置いた上で『ドリトル先生』シリーズを読む必要があることは、間違いありません。

『ドリトル先生』シリーズは、動物たちと先生とのユーモラスで信頼に満ちたやりとりはもちろん、ドリトル先生がさまざまな生物へ向けるやさしさや、先の見えない冒険の緊張感、助手であるトミーとの友情など、数えきれないほどの魅力に溢れた作品です。映画化を機にシリーズに触れてみたくなったという方は、ぜひ『ドリトル先生アフリカゆき』から手を伸ばし、『ドリトル先生』シリーズの虜になってください!

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