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『オー!ファーザー』、『西の魔女が死んだ』ーー【大切な人と読みたい】家族の絆を描いた小説4選

家族とは、生まれた時からずっと一緒にいる、たとえ離れていても大切な存在。鬱陶しく感じることや嫌いになることこそあっても、かけがえのない存在であることには変わりはありません。今回は、仲の良い家族の日常からちょっと変わった家族の絆まで、様々な家族のかたちを描いた小説4編を紹介します。

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最近、家族と過ごしていますか? 
過干渉な親や気の合わない兄弟、反抗期の子供など、家族間での悩みは尽きないもの。一人暮らしを始めて、家族とほとんど顔を合わせていないという人もいるかもしれません。今回は、家族の在り方について考えさせられるような、家族の絆や葛藤などを描いた小説4編を紹介します。

俺には父親が4人いる。信じられるか?――『オー!ファーザー』(伊坂幸太郎)

オーファーザー
https://www.amazon.co.jp/dp/4104596043

【あらすじ】
ごく普通の高校生・由紀夫には、個性溢れる父親がいる。それも4人も。ギャンブル好き、女好き、博学卓識、スポーツ万能、そんな4人の父親に囲まれた由紀夫が遭遇するのは、知事選挙、不登校の野球部員、盗まれた鞄と心中の遺体、それらが引き起こす事件の数々。愛する一人息子を救うため、4人の父親が奮闘する!

 伊坂幸太郎本人があとがきの中で“伊坂ワールド”の第一期を締め括ると言及したほどの代表作、『オー!ファーザー』。2014年に映画化もされ、文章と映像の両方で人々に親しまれています。4人の父親がいる少年という突拍子もない設定から紡がれる、どこか優しく温かいサスペンス・コメディ小説です。

 4人の父親がいるということ以外はごく普通の高校生である主人公の由紀夫は、幼い頃から個性豊かな父親たちに振り回される生活を送っていました。そもそもなぜ父親が4人もいるのかというと、母親の千代が4人と同時に交際していて、4人全員と結婚しようとしたから。二股どころか四股です。千代は四股を巧妙に隠していて、子供を授かったときに初めて4人にそのことを告げたそうですが、揉め事にはならず、どういうわけか4人とも1対4の結婚を承諾します。

 母親と、父親と、自分の六人暮らし。小さな頃からその環境で育った由紀夫にとっては慣れたことでも、傍から見ればやはりかなり変わった家族のように思えます。

四人の父親のうち、本当に遺伝子が由紀夫とつながっているのは一人で、だから彼らはいつも、由紀夫と自分との類似点を探しては、安心する。(中略)それは、自分と由紀夫に血のつながりはないのかもしれないという不安の裏返しにも思えた。

 当然4人全員との血のつながりがあるはずもなく、本当の意味での父親は4人のうち一人だけです。ある日由紀夫がDNA検査をしてみればいいと提案するも、4人が4人とも言葉尻を濁してその提案を否定するのでした。

店を出ると勲が、「ファミリーレストランって名前がいいよなあ」と低い声で言う。
「確かに、そうだよな」と鷹が同意する。
「ファミリーだからな」悟がうなずいた。
「そんなにいいかなあ」由紀夫は言った。
「いい名前だよ。うん」葵が言い切った

 法律や遺伝子に定められた形ではなくても、4人とも息子である由紀夫と“家族”を大切に思っていることがわかる会話です。歪な関係に不安を持ちながらも、血のつながりをはっきりさせるのではなく、今のままの温かい“家族”のかたちを大切にしようとする4人の父親たち。そんな、個性豊かで賑やかで、誰よりも自分を思っている人たちと過ごす毎日は、たとえ他人には理解されなくてもかけがえのない大切な時間でしょう。

 由紀夫は、強引な女の子や中学時代の頼りない同級生と関わるうちに、街で起こる事件に少しずつ巻き込まれていきます。そんな由紀夫を助けようと奮闘するのは、もちろん、4人の父親。笑いあり感動ありの、サスペンス・コメディ小説です。

これは、誰も愛せなくなった僕の、衝撃の“愛”の物語。――『ひきこもりの弟だった』(葦舟ナツ)

ひきこもりの弟だった
https://www.amazon.co.jp/dp/4048927051

【あらすじ】
『質問が三つあります。彼女はいますか? 煙草は吸いますか? 最後にあなたは――』雪の日の駅のホームで突然そう問いかけてきた見知らぬ女。僕は、その女・大野千草と夫婦になった。互いのことを何も知らないまま過ごす白昼夢のような生活は、僕に過去を追憶させていく……。

 第23回電撃小説大賞〈選考委員奨励賞〉を受賞した葦舟あしふねナツのデビュー作である『ひきこもりの弟だった』。三つの質問だけで結ばれた夫婦生活の中で、大嫌いな母や唯一心を許せた親友、そしてひきこもりの兄と過ごした過去を追憶しながら、穏やかに愛を学んでいく物語です。衝撃のラストは、読む人に“幸せとはなにか”を問いかけます。

 主人公の啓太は、ある雪の降る夜、駅のホームで電車を逃して眠ってしまっているところを、知らない小柄な女性・千草に話しかけられます。千草は矢継ぎ早に啓太に3つの質問を投げかけ、啓太が戸惑いながらもそれに答えると、千草はその返答に満足したかのように、突然結婚を申し込むのでした。

 突拍子もない出来事なのになぜか、すとん、と在るべき所に収まったような感じがした、と啓太は後に語ります。その場で千草の申し入れを承諾し、互いに名前だけの自己紹介を済ませ、数週間のうちに入籍するのでした。千草はもともと啓太が住んでいた狭いアパートに越してきて、“妻”としての役割を日々全うします。

僕たちはたぶん、普通の夫婦ではないのだろう。僕は千草を好きじゃない。でも、無理に好きになる必要はない。(中略)僕が大切に思っているのは、千草ではなく、あくまで僕の妻としての千草で、多分彼女はそれを許してくれる。だって、妻だってそうだろうから。そういう契約なのだから。

 一目惚れや熱烈な恋愛をしたわけでもなく、互いを恋愛の対象としては見ないまま結婚生活をはじめた啓太と千草。2人を結ぶのは、初めて出会った日に千草が啓太に投げかけた3つの質問だけでした。それでも、大きなトラブルが起きることも無く、2人の歪な関係と穏やかな日々は続きます。

「啓太さんがどんなに憎んでいても、私はお兄さんに感謝しているの。啓太さんと出会わせてくれた人だから。啓太さんのお父さんとお母さんにも感謝してる。どんな人だったとしても、啓太さんを生んでくれた人だから」

 過去を清算するために2人で向かった、自分の人生を壊した“ひきこもり”の兄の墓前で立ち尽くす啓太に、千草はそう告げます。長年寄り添った恋人や伴侶のいる人なら、千草の気持ちがわかるのではないでしょうか。結婚したいと思える程の相手に出会えた時、例えどんなに嫌な人だったとしても、きっと相手の両親や兄弟に対しても愛しい気持ちや感謝を抱くでしょう。

幼少期から学生時代まで、事ある毎に自分に突っかかってきては嘲笑し作業や生活を妨害する兄と縁を切ることもできず、ただただ耐えていただけの日々。忌まわしいと感じる程の過去も最低な家族もひっくるめて自分を大切に思ってくれる千草に、啓太は次第に愛しさを募らせますが、もともと歪だった2人の関係は、少しずつ明かされる互いの過去によって綻び始めるのでした。2人を繋いでいた3つの質問とは、そして、衝撃の結末とは……。“幸せとはなにか”を考えさせられる、本当の愛を知る物語です。

大好きな「西の魔女」と過ごした、忘れもしない初夏の日々――『西の魔女が死んだ』(梨木香歩)

西の魔女が死んだ
https://www.amazon.co.jp/dp/4101253323

【あらすじ】
中学に入学して1ヶ月もたたないうちに、学校へ足が向かわなくなった少女・まい。療養のため、初夏のひと月あまりを西の魔女のもとで過ごすことになった。西の魔女ことママのママ、つまりおばあちゃんから、まいは魔女の手ほどきを受ける。魔女修行の最も大事なことは、“何でも自分で決める”ということだった。

第28回日本児童文学者協会新人賞、第13回新美南吉児童文学賞、第44回小学館文学賞と、数々の賞を受賞した大ベストセラー。2008年には実写映画化もされ、こちらも多くの賞を受賞しています。梨木香歩の代表作とも呼べる、涙なしには読めない感動小説です。

 主人公のまいは、中学校に入ったばかりの、喘息持ちの女の子です。季節の変わり目にいつもの発作を起こし学校を数日休みますが、発作が治まっても、まいの足は学校へ向かおうとはしませんでした。「あそこはわたしに苦痛を与える場所だから」というまいの言葉を聞いて、ここまで言うなんてよっぽどのことだ、と判断した母親は、「西の魔女」が住む閑静な田舎へまいを預けることにしたのでした。

 「西の魔女」とは、まいのおばあちゃんのこと。もちろん本当の魔法が使えるわけではありませんが、落ち着いていながらも凛とした雰囲気で、ストレートな言葉を発して周りの人を惹きつける、不思議な魅力がありました。まいは大きなボストンバッグに身の回りの物を全部詰め、長い峠の坂道を母親の車で揺られて、おばあちゃんの住む森の中に到着します。

突然、おばあちゃんの力強い声が響いた。
「まいと一緒に暮らせるのは喜びです。私はいつでもまいのような子が生まれてきてくれたことを感謝していましたから」

 母親がおばあちゃんに登校拒否のことを説明しているのを少し離れたところから聞いていたまいは、母親やおばあちゃんに幻滅されてしまうのではないかと怯えますが、おばあちゃんの力強い言葉に救われた気持ちになるのでした。自分が生まれてきたことに喜び感謝してくれる家族がいるだけで、辛い状況でも心を折られることなく頑張れることもあるでしょう。

「何でパパはわたしが学校に行かないのか聞かないんだろう」
「ママは聞きましたか?」
「ううん。そういえばおばあちゃんも聞かなかったね」
「みんな、まいのことを信頼しているからでしょう。まいが行かないと言うからには、きっとそれなりの理由があるからだとみんな思っているんですよ」

 おばあちゃんのうちで数週間を過ごしたある日、単身赴任をしていたまいの父親が様子を見にやってきます。久しぶりに会う父親を交えて、少し緊張しながらも3人での時間を過ごしたまいは、家族のだれ一人として自分の行動を責めないことに気づくのでした。何も言わずに自分を信じてくれている、家族だからこその信頼関係。いくら親しい仲でも、他人とは築けない、かけがえのない関係です。

 おばあちゃんと共に1ヶ月余りを過ごし、日々の「魔女修行」を通して、行動も意思も幸せも、何でも自分で決めるということを学んだまい。父親の転勤の都合でおばあちゃんのもとを離れることになりますが、新しい学校にもすぐ馴染み楽しい毎日を過ごします。ところがある日の授業中、青ざめた顔をして学校へ迎えにきた母親が言うのでした。「魔女が――倒れた。」と……。ラスト3ページで涙が止まらない、感動の大ベストセラー小説です。

ちょっと変わった幸福な家族の、温かく静かな物語――『流しのしたの骨』(江國香織)

流しのしたの骨
https://www.amazon.co.jp/dp/4838707967

【あらすじ】
夜の散歩が習慣の私・こと子、おっとりしていて頑固な長女のそよちゃん、妙ちきりんで優しい次女のしま子ちゃん、笑顔が健やかな“小さな弟”の律の4人姉弟。そして、詩的で生活にこだわりのある母と、規律を重んじる父の6人家族。ちょっと変わっているけれど幸福な毎日を過ごす、宮坂家の日常とは。

 『きらきらひかる』や『号泣する準備はできていた』など、数々の名作を世に送り出してきた江國香織による、ちょっと変わった6人家族の日常を淡々と綴っていく物語です。大きな事件などは起こりませんが、何気ない日常がとてもきらきらした素敵なものに思えてくる小説です。

 主人公の宮坂こと子は19歳の女の子。大学には進学せず、就職もせず、家事の手伝いをしています。友人同士の付き合いで仲良くなった青年・深町直人が学校に行かない理由を尋ねると、こと子は「学校はもうたくさんで、好きなようにぼんやり暮らしてみたいと思ったから」と答えます。自分の意思を尊重した生き方を許してくれる家族はこと子が大好きで、そしてまたこと子も家族のことが大好きでした。

 宮坂家の仲がよいことはこと子の友人の間でも知れ渡っているほどでした。お正月やクリスマスはもちろん、お花見や家族の誕生日などの行事には必ず家族全員が顔を合わせ、母が腕を振るって作った豪華な食事を楽しみます。長女のそよちゃんはお嫁に行って普段は宮坂家にはいませんが、家族の行事の時には必ず顔を見せにやってくるのです。

誕生日だお月見だ来客だ、とそのたびにそよちゃんを呼びよせるくせに、父も母も、そよちゃんがうちに泊っていくことを好まない。(中略)母によれば問題は「心の在り場所」で、そよちゃんの心が津下さんのところにある以上、「三百六十五日いつでもそこに帰るべき」なのだった。

 この父と母の主張から、宮坂家で如何に“家族”や“家庭”が大切にされているかがわかるでしょう。家族や夫婦とは、血の繋がりや、書類や法律上で定められただけの存在ではなく、「心」が「そこに帰るべき」場所なのです。

 宮坂家の母は、姉弟が小さい頃にはよく絵本を読んで聞かせました。簡潔で臨場感のある母の語りのなかでも特に姉弟の印象に残ったのは、かちかち山。物語の山場の、「流しのしたの骨をみろっ」という低く太い声は、十数年経っても姉弟の心に突き刺さったままでした。

「私、もし誰かを殺してしまったら、骨は流しのしたにかくすと思う」
 しま子ちゃんがぽつんと言った。小さいけれどつよく光る星がいくつか、濡れたようにまたたいている。
「私も」
奇妙な確認をもって言った。

 幼い頃の印象的な出来事や家族間での共通の認識は、時間が経っても決して忘れないものです。ふとした瞬間に、家族と過ごしたかつての日や思い出が蘇る経験は、誰しもしたことがあるでしょう。

 家族の淡々とした日常と、周りの人達との交流の中で、より宮坂家の仲のよさや一人ひとりが家族全員を大切に思っていることが伝わる、温かい気持ちになる日常小説です。家族と会えなくて寂しい夜や、家族と喧嘩してしまった日に、ぜひ読んでみてはいかがでしょうか。独特の雰囲気と穏やかな日常に引き込まれる、魅力的な作品です。

おわりに

 今回は、様々なかたちの家族を描いた小説4編を紹介しました。家族とは、誰よりも近い存在で、誰よりも自分のことをわかってくれる存在です。煩わしいと感じることや、時には存在を負担に思うこともあるかもしれませんが、それでも、かけがえのない存在であることに変わりはありません。

 ちょっと変わった家族、忌々しい家族、形だけの家族……。“家族”のかたちは、きっと“家族”の数だけあることでしょう。家族が大好きな方も、家族が嫌いな方も、ぜひ今回ご紹介した小説を手に取って、自分の家族の在り方、そして家族への接し方についてじっくりと考えてみてはいかがでしょうか。

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