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フレドリック・ブラウンのおすすめ作品5選

フレドリック・ブラウンは、SF黄金期を代表するアメリカの作家で、特にショートショートの名手として知られています。日本では星新一や筒井康隆がブラウンの作品に影響を受けたと自著で語っており、SF発展の源になった作品を多数発表しています。そんな彼の作品の中から短編集3作、長編2作を紹介します。

フレドリック・ブラウンのおすすめ作品5選

フレドリック・ブラウンという作家を、皆さんはご存知でしょうか。彼はSF黄金期を代表するアメリカの作家で、特にショートショートの名手として知られています。日本では星新一筒井康隆がブラウンの作品に影響を受けたと自著で語っており、SF発展の源になった作品を多数発表しています。
ブラウンの作品の特徴は、読者の予想を裏切る展開です。時には「ふざけた」と言ってしまいたくなるようなユーモア溢れる設定や結末もしばしば。今回はそんな彼の作品の中から短編集3作、長編2作を紹介します。

 

1.『さあ、気ちがいになりなさい』

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https://www.amazon.co.jp/dp/4150120978/

2016年に復刻され、最も入手しやすいと思われるこの短編集。訳は「ショートショートの神様」星新一が担当しています。

『電獣ヴァヴェリ』

「ちきしょう。電話はなくてもやっていける。電灯のかわりに、ろうそくやオイル・ランプってのも悪くない……だが、稲妻が見られないと、淋しくなるな、ぼくは稲妻がとても好きなんだ。ちきしょう」

地球に飛来した侵略者は電波と電気を食べる怪物でした。世界は電気のない世界へと変貌し、蒸気機関や馬が動力として活躍するようになっていきます。電気に囲まれた現代の私たちからは、電気のない世界に順応していく人々の姿は、楽しそうでもあり、どこか物悲しくも感じられます。

『ノック』

地球上で最後に残った男が、ただひとり部屋のなかにすわっていた。すると、ドアにノックの音が……

冒頭のこの文章自体が一つのショートショートにもなっている作品です。地球最後なのに誰が? という疑問はすぐに説明されますが、最後まで読むとノックの意味が全く違うものになる不思議な作品です。

 

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2.『闘技場』

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https://www.amazon.co.jp/dp/4834024245/

こちらも星新一訳の短編集。福音館書店の10代向けSFシリーズ「ボクラノSF」から2009年に刊行されました。『さあ、気ちがいになりなさい』と重複する作品も多いですが、ユーモア溢れる作品が収録されています。また、解説は作家の椎名誠が担当。平易な言葉でブラウン作品を解説しつつ、SFの楽しさを教えてくれます。

『星ねずみ』

そのねずみは生まれつきミッキーという名だったわけではない。あるぼろ邸宅の天井裏や壁の裏に住みついている、なんの特徴もない平凡きわまる一匹のねずみにすぎなかった。

こんな冒頭ではじまるこの物語。読者が想像してしまうかもしれない、有名なねずみとは何の関係もありません。名前を付けられ、ロケットに乗せられた一匹のねずみ。ロケットは小惑星に不時着、異星人によってねずみの知能は高められ、地球に送り返されてしまうのです。

「前とうしろに、でかい黄色いボタン、二つずつついた、あざやかな赤の半ズボン。あと足には黄色の靴。前の足、いまとなれば手かな、そこに黄色い手袋。ズボンのけつのほうには、尻尾を出す穴がございます」

オーストラリアなる小さな大陸、あまり人は住んでおらない。あそこの人たち、よそへ移ってもらうにする。人類の大損失にもならんじゃ。ねずみの国とする。マウストラリアと呼び、首都は記念にシドニーを変え、ディズニーと改称し…

……星ねずみの活躍は楽しく痛快です。

『闘技場』

「……いずれは、わたしのようになれるのだ。きみらが侵入者と呼んでいる連中にも、その可能性はある。だからこそ、この起こりかけた戦いに口出しをしようとした。両軍の戦力は、ほとんど同じ。とも倒れははっきりしている。せめて、どちらかの種族は生き残らなければならない。そして、進化し、高い段階へ達すべきだ」

異星人の侵略軍との艦隊決戦を目前に控えた地球防衛軍。その隊員であるカーソンは、謎の存在によって、いきなり異星人と種族の未来を賭けた、一対一の戦いをすることになってしまいます。自らを「進化の極限」と呼ぶ謎の存在によって、コミュニケーションもとれないまま、二つの種族の代表が疲弊しながら戦い続ける姿は理不尽さを感じずにはいられません。この作品の発表は1944年であり、第二次世界大戦の頃であることを考えながら読むと、より一層相手を殺すしかないこの戦いの悲しさが際立ちます。

 

3.『まっ白な嘘』

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https://www.amazon.co.jp/dp/4488146074/

こちらはSFではなく、ミステリー系の作品を集めた短編集です。奇抜な着想、驚きの結末はミステリーでも変わりません。ただしこの本を読むときに一つだけ注意が。最後の作品『うしろを見るな』だけは一番最後に読むこと。これを守らないとこの本を楽しめなくなってしまいます。

『闇の女』

「メアリ・ウェスタマンという名を使っているんです。あの人がいつも二階の部屋で暗闇の中でじっとしているものだから、ミス・ダークネスと呼んでいるんですよ」

ある下宿に泊まりにきた謎の女。彼女がやってきたのが、銀行強盗事件の直後だったため、下宿の面々は段々と疑いを深めていきます。彼女は何者なのか、事件と関係はあるのでしょうか。彼女が暗闇の中にいる理由について、想像をたくましくしてゆく下宿の人々の会話にも楽しまされる作品です。

『カイン』

おれは人殺しをしたことを悔やんでいるのか?いるとも、そうだとも!だが、正直に言って、はたしてこれが本心からの悔悛であるか、それとも人を殺したために起こった今までの結果と、これから起ころうとしている結果ゆえの単なる後悔であるのか?これから起ころうとしている結果、それは椅子だ、電気椅子、じりじりと焼き焦がす……

弟殺しの罪で電気椅子での死刑を待つ男。刑までの最後の数時間ぐらい、なんとか平静でいたいと思いながらも、恐怖はどうやっても消すことができません。繰り返し描かれる死刑への恐れは、読む人までその立場に置かれているかのように思わせるほどです。そして、迎える結末。極上の恐怖小説です。

『うしろを見るな』

印刷工ジュスティンと暗黒街の大物ハーリーとの偽札作りからの顛末を描いた犯罪小説。なんの変哲もない小男だったはずのジュスティンが暗黒街に足を踏み入れ、さらに復讐を誓って危ない人間へと変化してゆく様に、読む人は必ずドキドキさせられるでしょう。

 

4.『天の光はすべて星』

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https://www.amazon.co.jp/dp/150116792/

これまでの作品とは雰囲気が違う、宇宙開発をめぐるドラマを描いた感動長編です。

13年たったらおれも70か、とわたしは思った。その前に、もう年寄りになっちまってるかもしれない。今までの生き方が生き方だし、おまけに片足はもう墓の中に突っこんでいるんだから。たとえではなく、実際に。

1997年、宇宙開発計画が中断された時代に、57歳の元宇宙飛行士マックス・アンドルーズは、いまだに星へのあこがれにとり憑かれていました。無為な日々を送っていたマックスでしたが、木星探査計画を公約にしたエレン・ギャラガーの立候補をきっかけに、彼の人生はまた動き始めます。
再び動きはじめたマックスは公約実現のため、エレンの対抗馬のスキャンダルを盗み出します。さらに探査計画の副監督になるため、空港長代理になり、猛勉強して工学の学位までとります。凄まじい行動力で自分の夢に近づいていく、彼の姿には胸が熱くなります。

彼女は言った。「あなた、わたしにはこんな星しか、あなたにさし上げられないのよ」
わたしは声をあげて泣きたかった。いや、じつはちょっぴり泣いたのかもしれない。ぼうっと目の前がかすんだところをみると。

そうだ、脱出だ。このちっぽけな世界から、誰もかも脱出したくてうずうずしている。この願望こそ、肉体的な欲望を満たす以外の方向にむかって人間がやってきたことすべての原動力にほかならないのだ。

ロケットは飛び立ちます。それを見守る人々に宇宙への憧れを与えながら。この物語は一人の男が夢を追いかける話であると同時に、継承されていく人類全体の夢進化への賛歌でもあるのです。マックスの粗雑な口調で語られる、純粋なロマンに惹きつけられずにはいられません。

 

5.『火星人ゴーホーム』

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https://www.amazon.co.jp/dp/4150102139/

かれらは一人の例外もなく、口が悪く、挑戦的で、こうるさくて、胸糞がわるくなるようで、横暴で、喧嘩好きで、辛辣で、不作法で憎ったらしく、礼儀もしらず、呪わしく、悪魔的で、軽口ばかりたたき、おっちょこちょいで、うとましく、憎しみと敵意にみち、お天気屋で、傲慢で、分別にかけ、おしゃべりで、人を人ともおもわない、やくざな、実にもって興ざめな輩だった。かれらは目つきがいやらしく、人をむかむかさせ、つむじ曲がりで、金棒曳きで、品性下劣、吐き気がしそうで、あまのじゃくで、ことごとに拗ねてみせ、ひねくれ者で、争いを好み、乱暴で、皮肉屋で、気むずかしく、平気でひとを裏切り、残忍このうえなく、野蛮で、ゆかしさにとぼしく、癇癪もちで、他星人(よそもの)ぎらいで、ぺちゃくちゃと騒々しく、わざと人間に嫌われるように、そして出くわす相手はだれかれの見境なく困らせてやろうと、互いにしのぎをけずっているのだった

いきなり地球にやってきた火星人たちは、どこまでも地球人を困らせる、いたずら好きの小人だった、というSF長編。この火星人たちは、壁をすり抜け、透視し、どこにでも現れます。人々は彼らに生活のすべてを覗かれ、馬鹿にされ続け、どんどんストレスを貯めてゆきます。そんな中、作家の主人公は発狂し、火星人を認識できなくなります。
みんなが見たくもない荒唐無稽な火星人をただ一人認識しないで生きる精神異常者。果たして主人公は本当に狂人なのか、それ以外の人々のほうがおかしいのではないか。「常識」とは何か、自分のいる場所がグラグラしてくる不思議な小説です。

 

おわりに

奇抜な発想に、切れ味鋭いオチ、バリエーション豊かなブラウンの作品にみなさんもぜひ触れてみてください。短編集にはほんの数ページの作品も入っているので、気軽に楽しめると思います。ただし、繰り返しになりますが『うしろを見るな』だけは最後に読むことを忘れないでください。

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