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【独自手法で小説を面白く】福永武彦のおすすめ作品を紹介

1918年に、福岡県に生まれ、高校在学中から詩作を始め、のちに多くの詩集も発表しています。東京帝国大学仏文科出身で、フランス文学の翻訳を多数こなしておりフランス文学研究者としても活躍していました。小説においても詩的な世界観と哲学者のような深い考察が福永作品の魅力となっています。生涯を通して、愛と孤独について深い考察を繰り返した福永武彦のおすすめ作品をご紹介します。

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草の花

草の花
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4575239054

福永武彦の代表作としてあげられる、非常に人気の高い作品です。主人公の汐見茂思は結核を患い、無謀とも言える手術に挑みますが失敗に終わり、亡くなってしまいます。そして彼の死後に残された2冊のノート。1冊には下級生の男子学生、藤木に対する思いが綴られていました。どんなに愛しても決して身を結ぶことがないであろう思いを胸に、孤独に打ちひしがれる主人公の思いがノートには記されています。そしてもう1冊にはある女性に対する思いが綴られていました。愛と孤独について描かれた名作です。

研ぎ澄まされた理知ゆえに、青春の途上でめぐりあった藤木忍との純粋な愛に破れ、藤木の妹千枝子との恋にも挫折した汐見茂思。彼は、そのはかなく崩れ易い青春の墓標を、二冊のノートに記したまま、純白の雪が地上をおおった冬の日に、自殺行為にも似た手術を受けて、帰らぬ人となった。まだ熟れきらぬ孤独な魂の愛と死を、透明な時間の中に昇華させた、青春の鎮魂歌である。

忘却の河

忘却の河
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4575239054

福永武彦作品の中で最も人気が高いといえる作品の一つです。中年の父親、その妻、長女、次女、家族それぞれの独白というスタイルで物語は進んでいきます。家族がそれぞれ、いろいろな悩みや迷いを抱えながら生きています。そしてそれぞれの思いが交錯していくストーリー構成も見事です。愛や孤独、迷いについて書かれていますが、最後には絶望や悲観ではなく、希望を持てるような傑作小説です。

「忘却」。それは「死」と「眠り」の姉妹。また、冥府の河の名前で、死者はこの水を飲んで現世の記憶を忘れるという―。過去の事件に深くとらわれる中年男、彼の長女、次女、病床にある妻、若い男、それぞれの独白。愛の挫折とその不在に悩み、孤独な魂を抱えて救いを希求する彼らの葛藤を描く。

愛の試み

愛の試み
出典:http://www.amazon.co.jp/dp/4575239054

恋愛がテーマのエッセイと挿話として9つの短編恋愛小説が収録されています。嫉妬、錯覚、自己犠牲など愛につきものの感情についての深い洞察が哲学的な文章で表現されており、そして福永武彦の考える、理想の愛についても書かれています。愛と孤独についての作品です。愛とは、恋愛とは、何なのか。つらい時、迷った時に答えになるような1文に出会えるはずです。人を愛するということについて考え直すきっかけを与えてくれる作品です。

人間を豊かにする愛の諸相を分析し、また愛の陥り易い錯覚にも鋭い視線を向けて、愛の問題に直面する人々に多くの示唆と力を与える名著。

海市

海市

物語は主人公の画家、渋太吉が伊豆へと一人旅に出ることから始まります。伊豆の海岸で太吉は安見子という美しい女性に出会い惹かれていきますが、後に、その女性は太吉の親友の妻であることがわかります。妻子がありながらも若い女性との関係がやめられず三角関係に悩む太吉。この作品では、語り手が次々と入れ替わり、時間が交差するカットバック手法が取り入れられています。しかもそれが誰なのかはっきりと明言されていないので読んでいると混乱することもありますが、状況や語り手を予測しながら読むのも楽しみのひとつとなるような作品となっています。

妻子ある画家・渋太吉は、伊豆の海村で蜃気楼のように現れた若き女性・安見子との道ならぬ恋に溺れていく。

夜の三部作

夜の三部作

人の心の中に潜む暗い部分をテーマにした作品の短編集です。『冥府』『深淵』『夜の時間』の3編が収録されています。1つ目は死後の世界が舞台となっている『冥府』。死後の世界で死者が裁かれる裁判があるというSF的ストーリーです。2つ目はクリスチャンの女性と正反対の男性との恋愛を描いた『深淵』。男女それぞれの語りで構成されるこの物語はサスペンスドラマを見ているかのように一気に読ませてくれます。3つ目は三角関係の恋愛を過去と現在の2つの視点から描く『夜の時間』。『忘却の河』で用いられていた独白のスタイルで物語が進んでいきます。

「僕は既に死んだ人間だ。これは比喩的にいうのでも、寓意的にいうのでもない。僕は既に死んだ」という書き出しで始まる『冥府』は、死後の世界を舞台にした幻想的な作品。

最後に

母親がキリスト教の伝道師であったことから福永武彦も定期的に教会に通う時期があったようです。愛や生死がテーマの作品が多いのは宗教観も影響しているのでしょうか。深い考察も魅力ですが、独白によるストーリー展開や過去と現在を行ったり来たりするカットバック手法など取り入れて小説を読む面白さを追求することも忘れませんでした。どの作品も愛について考えさせられるとともに小説としても楽しめる作品となっています。

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