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【インタビュー】古内一絵 作家デビュー10周年! 『花舞う里』好評発売中!  「不公平さ、理不尽さに折り合いをつけながら希望を捨てずに進んでいきたい」

2021年、古内一絵さんが作家デビュー10周年を迎えました。その作品の数々は、人物の心情を丁寧にすくい取り、誰もが抱える悲しみや切なさを静かに浮かび上がらせ、読後には爽快感と感動を運んでくれます。作家生活の今までとこれから、そして、待望の映像化作品のニュースもお届けします。

――作家生活10周年、おめでとうございます。

古内一絵さん(以下、古内):ありがとうございます。あっという間の10年で、振り返ってみたら10年だった、という感じで。気が付いたら10年が経っていた、というのが実感です。

――デビュー当時を振り返ってみていかがですか。

古内:2011年の4月がデビューだったのですが、その前の3月11日に、東日本大震災が発生しました。その時私は、新浦安にいたんです。新浦安は、関東の中では被害が大きく、液状化が起きていました。そのあまりの被害の大きさに驚き、私は、てっきり東京も液状化していると思い込んでしまったんです。東京に帰ることもできず、避難所に避難して一晩を過ごしました。
「こんな状態の中で、新人作家の本なんて読んでいる場合ではない、自分のデビューは無くなったな」と思いましたね。そんな時期を経て、ここまで来ることができ、それは大変ありがたいことだと思っています。どうしても、震災の記憶と切り離すことができないんですよね。未だに大変な思いをしている東北の方々のことも、忘れることはありません。

 

――『花舞う里』が小学館文庫で刊行されましたが、こちらもその震災の記憶がきっかけだったそうですね。

古内:実はそうなんです。書いたきっかけは、震災のことが強く関わっていて。東京が液状化していると思い込んでいたのですが、「なんとかして浦安までいけば地下鉄が動いていて東京に戻ることができる」という情報を得て、新浦安から浦安まで移動したんですね。そこで、「人間って本当に凄いな」と心から感じたんです。べたべたの液状化の中、なんとバスが走っていて、浦安まで行くことができました。そうしたら、新浦安と浦安では全く状況が違う。液状化が起きたのは、新浦安の埋め立て地だけだったんです。その状況の違いに驚き、不公平さ、理不尽さに包まれて……。そしてその思いを、いつか何かの形で小説にしたい、と思っていたんです。

――『花舞う里』にも、その心境が込められているのですね。

古内:そうですね。『花舞う里』は、震災を直接描いている作品ではありません。でも、ものすごく辛いことが起きた時に、人間はどうやって折り合いをつけていくのか、を描きたかったんです。ほぼ24時間舞い続ける、美しいけれどすごく苦しい大神楽を通して、そして脈々と受け継がれ続けている神事を通じて、「理不尽さ、不公平さ、人間の凄さ」を伝えられればと。「神なき時代に神を舞う」というテーマで、物語を作っていきました。この作品を、10周年目の第1作として刊行できるのは、すごくありがたいことだと思っています。

――伝統行事を描く上で苦労されたことはありましたか。

古内:取材をした中での出会いにも恵まれ、珍しい資料を見せていただけたり、伝統を継承している方たちの話を聞けたのは本当に良い経験でした。花太夫さんが素晴らしい方で、色々なことを教えてくれたんですね。お話をする機会も十分に得られて、感謝しています。神楽を文章で描くのはとても難しかったですが、臨場感が伝わるように心がけました。

――10周年ということで、出版社の垣根を越えて、刊行ラッシュを盛り上げていく取り組みがされていますね。

古内:はい、これはとてもありがたいことで、そして偶然でもあるんです。10周年だからといってそれに合わせて作品を刊行するというわけではなくて、多くの方の協力のもと、実現したキャンペーンで、大変感謝しています。出版される作品が、それぞれ全然ジャンルが違って、戦中戦後ものからダークファンタジーまで幅広いので、ぜひ注目していただけたら嬉しいです。

――11月に文庫化される『蒼のファンファーレ』の前編となる、競走馬と女性ジョッキーの交流と活躍を描いた、『風の向こうへ駆け抜けろ』が映像化されますね。

古内:映像化の話をいただいて、「10年やってきてよかった!」ととても嬉しく思いました。
自分の書いた物語の中でも、正直、映像化がとても難しいと思う作品です。登場人物の半分は馬ですし、レースのシーンが多いので……、ドラマになるなんてすごいことだな、と思っていて、期待と希望でいっぱいです。関わっていただくスタッフの方々も、作品に愛情を持って下さっているのを感じているので、とても楽しみですね。

――女優で作家の中江有里さんによる解説でも語られていますが、多感な時期の少年の心境や成長過程をつぶさに描くにあたり、どのようなことに気を配られましたか。

古内:中江さんがおっしゃっているように、「縦(伝統芸能)と横(人々の絆)に伸びる糸が続く」というのは、本当だと思います。どちらが欠けても成り立たないし、とても良い言葉だと感じました。子供を描くということについては、作家を目指すのが遅かった私にできるかな、と思っていましたが、意外に子供の気持ちって残っているものなんですよね。自分の中にある少年少女の頃の思いが呼び起こされて、書くことができました。

――今後は、どのような作品を書いていきたいですか。

古内:テイストはどんどん変わってくるものだとは思うのですが、物語を読んだ時に、ちょっとでも心が軽くなるようなものを書いていきたいです。そもそも、小説というのは、あまりうまくいっていない時に読むことが多い気がするんですよね。ハッピーエンドでも、バッドエンドでも、その人にとって発見があれば良いなと。ハッピーエンドものだけを書いていくつもりはないですけれど、行き詰まっているときに、何かを見つけてもらえるような作品を書いていきたいと思っています。
私は、最初からヒット作を出してきたわけではありませんが、地道に一歩一歩、出版社さん、書店さんと読者の皆さまのおかげで、ここまで続けてくることができたと思っています。
これからも、良いものを1作1作丁寧にお届けしたい。応援していただけると嬉しいです。

<了>

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著者プロフィール

古内 一絵(ふるうち・かずえ)

1966年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年『快晴フライング』(ポプラ社)でデビュー。そのほかの作品に、『赤道 星降る夜』(小学館文庫)、『マカン・マラン―二十三時の夜食カフェ』(中央公論新社)、『花舞う里』(講談社)『フラダン』(小峰書店)などがある。『フラダン』は、第63回青少年読書感想文コンクールの課題図書(高等学校の部)に選出。2017年『フラダン』で第六回JBBY賞受賞。


https://www.shogakukan.co.jp/books/09406898

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