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2019年2月、藤田菜七子騎手GI初騎乗! その活躍を予言した小説があった!! 『風の向こうへ駆け抜けろ』、『蒼のファンファーレ』の著者・古内一絵インタビュー

2/17(日)のフェブラリーステークスで、JRA女性騎手で初のGI騎乗に挑む、藤田菜七子。日本の競馬史上の大きな転換期ともなるこのレースに、注目が集まっています。そして、それを予言したかのような小説が、『風の向こうへ駆け抜けろ』、『蒼のファンファーレ』の2部作。ここまで現実とリンクするとは著者も予想していなかったという、リアリティに満ちた作品の創作秘話を初めて明らかに!! 

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あらすじ

文庫『風の向こうへ駆け抜けろ

文庫-風の向こう*

廃業寸前の厩舎に、ある女性騎手がやって来る。バラバラだった彼らは、彼女の純粋な努力と想いによりいつしかひとつとなり、大きな夢を持つようになる。愛すべきはみ出し者達の挑戦は、ここから始まった――!

単行本『蒼のファンファーレ

文芸-蒼ファン*

藻屑の漂流先と揶揄されていた廃業寸前の厩舎。芦原瑞穂という女性騎手の真摯な姿勢と情熱でメンバーがひとつになり、大きな夢であるGI桜花賞に挑戦、惨敗した翌年。場違いな超良血馬がやってくる。馬主はメディアでも有名な風水師。一体、なぜ……?

女性騎手のめざましい活躍……、“予言小説”になることはまったく想像していなかった!

――まさに“予言している”と言われるような展開が現実に続いている『風の向こうへ駆け抜けろ』と『蒼のファンファーレ』ですが、ご自身では率直にどう感じていらっしゃいますか。

古内一絵さん(以下、古内): まさかこんなことになるとは、という気持ちです。作品を書くにあたって、2011年から1年間取材を行ったのですが、その時は、藤田菜七子騎手は、まだ競馬学校にも入学していなかった頃。その後、2016年に彗星のように登場して、作品の主人公・瑞穂に重なるところがとても多くて、書き手としては驚きの連続ですね。

――女性のジョッキーに注目したのにはきっかけがあったのですか?

古内:取材を始めたのは2011年の年末だったのですが、この時に「レディースジョッキーシリーズ」(日本の地方競馬全国協会が主催し、2006年から2011年まで行われた女性騎手のための騎手招待競走シリーズ)というのをやっていたんです。当時JRAには女性騎手が一人だけ。しかも後に引退され、0になってしまいました。でも、地方競馬には何人かいるんだ、ということをこの時に初めて知って。男性社会で戦う女性ジョッキーは、どんなに苦労をしていることだろう、と思い、興味をひかれました。競馬の世界はとても複雑なので、相当取材をしないとわからないことだらけでしたが、多くの方の協力を得て深く取材ができ、2013年に執筆を始めました。

――ご自身でも乗馬をされるそうですね。

古内:そうなんです。馬に触れ合うことは好きでしたが、競馬には全く興味がなくて。やはり、競馬はギャンブル、という印象が強かったからです。それが、ある時TV番組「アメトーーク!」の「競馬大好き芸人」の回を観ていたら、函館記念しか勝てないエリモハリアーという馬がいる、ということがわかったんです。それを知って、競馬って馬の個性を生かして走らせているんだ、ということを知りました。馬に乗る時は気をつけなければいけないことがたくさんあることに気がついて、まさに目から鱗が落ちましたね。

――女性ジョッキーについての、競馬ファンでの間の見方はどうだったのでしょうか。

古内:まず、勝てないと見られていましたね。女性は腕力が弱いことなどから、勝つのは難しいと考える人がほとんどでした。これだけ男女平等社会と言われていながら、女性ジョッキーがいることさえあまり知られていない。しかしある時、物凄い倍率で女性騎手(岩永千秋騎手)が勝った地方(福山)の交流レースがあったんです。「なんだ、男女は関係ないんだ!」と、この時強く感じました。

――主人公の瑞穂に重なる活躍ですね。

古内:そうですね。地方競馬って、客席がコースにとても近いので、迫力があるんです。目の前を、女性のジョッキーが長い髪をなびかせて走っていくのを目の当たりにして、これは小説になるぞ、と強く感じ、少しずつ瑞穂のキャラクターができていきましたね。

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主人公・瑞穂と重なる藤田菜七子騎手の活躍

――女性騎手に光が当たり始めて、どう感じましたか。

古内:心から嬉しかったです。競馬って、スポーツとして面白いんだと強く感じましたし、男性じゃないと勝てないというのは偏見だと思います。そして、藤田菜七子騎手がそれを体現してくれている。ひとつひとつ、勝ちを積み上げて、頑張っていて本当にすごいなと思いますね。真摯に競馬と向き合っているところ、ひたむきさ、情熱。すべてを尊敬しますし、応援しています。美しい女性なので、そこにばかり注目されがちですが、藤田騎手なら、話題先行ではない素晴らしい結果を残してくれるはずです。

――かつて、「女性のGI挑戦なんてメルヘンだ」、と言われたとのことですが?

古内:はっきりそう言われたことがありました。かつては、日本人の野球選手がメジャーリーグに行くことも珍しかった。しかし今ではたくさんの選手が夢を叶えていますよね。だからきっと女性のジョッキーがGIに挑戦する時代が来ると、私は信じていました。「メルヘンに謝れ!」と思います(笑)。様々な困難があるに違いないけれど負けずに突き進んでいる藤田騎手は本当に凄いと思いますね。

――小説通りのことが現実に起き続けていますが、驚きませんでしたか?

古内:藤田菜七子騎手が現れたとき、「瑞穂がいる!」と思いました。対談をさせていただいたことがあるのですが、藤田騎手ご自身からも、本のことをリアルだと言っていただけて。とても冷静で、芯が強くて、心から競馬が好き、馬が好き、というのが伝わってきて、感動しましたね。女性騎手がダートGIに初めて挑戦をする、そんな時代が来たと思うと、胸が震えます。

――『蒼のファンファーレ』に、「ミスター・ワン」という風水師の馬が登場しますね。このことにはさらに驚かれたのでは?

古内:(ミスター・ワンは)実はちょっと、Dr.コパさんを意識して描いた人物だったんです。でも、まさか藤田菜七子騎手の初GIが、コパさんの馬(コパノキッキング)になるなんて、驚きです! 物語というのは面白いものだと強く感じますね。藤田騎手とも、不思議な縁を感じずにはいられません。

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なんと、リアル「フィッシュアイズ」も誕生!

――不思議な縁、といえば、作中で主人公の瑞穂が騎乗する馬、フィッシュアイズ。こちらも、(似た馬が)本当に誕生したそうですね。

古内:そうなんです! 両目がブルーの魚目さめ、そして白面。滅多にない風貌の馬として作中に登場するのですが、2017年に、両目がブルーの魚目、白面の馬が、現実に誕生したんです。両目がブルーの魚目というだけで10年に1頭、さらに白面となると天文学的数字を分母にした確率だそうです。こちらも、大きな話題を呼ぶような気がしています。
調教などがうまくいけば、今年の春以降、デビューするかもしれません。

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“リアル”フィッシュアイズ、「ボニーたん」。競争馬名「トーセンクッキー」。Twitter:@madrebonita2017

――まさに「予言の書」ですね!

古内:想像していなかっただけに、このことには腰が抜けそうなくらい驚きました。そんな出来事が詰まったこの作品を、藤田菜七子さんご自身にも絶賛していただけて本当に嬉しく思っています。

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藤田菜七子氏「私にとって大切な小説です。シーンも心情も、すごくリアル。登場人物みんなの勇気に心動かされ、自分も頑張ろう、という気持ちにさせてくれる一冊です」

――予言していることばかりが話題となっていますが、両作品ともに、ギャンブルという側面ではない競馬の魅力に満ちていますよね。レース中の描写も迫力が溢れています。

古内:厩舎の世話役の話とか、競走馬を陰で支える人たちのストーリーなど、普段はなかなか表に出てこないですが、そういう人たちがいてこその競馬です。それが伝わると嬉しいですね。
レース中の描写には1番苦労しました。迫力をどうやって再現したらよいか、好きなレースを何度も見直したりしながら、騎手の目線、馬の息づかいなどはどうなのかなど、細かく見て文章にしました。レースでの位置取りのかけひきや、合図の出し方。本当に奥が深いんです。知れば知るほど、競馬の魅力がわかると思います。

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――藤田騎手初のGI挑戦となる、17日のフェブラリーステークスには注目せずにはいられません。

古内:何か劇的なことが起きるのではないかと思ってしまいますね。フェブラリーステークス当日は東京競馬場に、藤田菜七子騎手の応援に駆け付けます!
それと、この作品は、競馬に興味がない人にこそ読んでほしいです。絶対に楽しんでもらえると思うので。

――次は、どのようなことが実現するのでしょうか。主人公・瑞穂さながらの、藤田菜七子騎手の活躍に期待ですね! 

<了>

プロフィール

古内 一絵(ふるうち・かずえ)

1966年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業。第5回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞し、2011年『快晴フライング』(ポプラ社)でデビュー。そのほかの作品に、『赤道 星降る夜』(小学館文庫)、『マカン・マラン―二十三時の夜食カフェ』(中央公論新社)、『花舞う里』(講談社)『フラダン』(小峰書店)などがある。『フラダン』は、第63回青少年読書感想文コンクールの課題図書(高等学校の部)に選出。2017年『フラダン』で第六回JBBY賞受賞。

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