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【『人生なりゆき』『九十歳。何がめでたい』】「人生100年時代」だから読みたい。歳をとるのが怖くなくなる本5選

いまの時代、長生きして自分が老人になることが少し怖い──という方も多いのではないでしょうか。今回は、“老い”に漠然とした怖さを感じる方のために、「歳をとることってそんなに怖くないのかもしれない」と思わせてくれるような珠玉の5冊をご紹介します。

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人生100年時代、という言葉をいたるところで耳にするようになった昨今。いまはまだ若くても、おそらくは自分も70代、80代まで生きるのだろう──と想像すると、嬉しい半面ちょっと“怖い”気もするという方が多いのではないでしょうか。

若さには何物にも勝る価値がある、なんて考え方は古いとわかっていても、体力の衰えや、だんだん10代や20代の若者の文化に追いつけなくなることを考えると、どうしても「歳はとりたくない」と思ってしまうもの。

しかし、小説やエッセイの中には、歳をとったからこそ味わえる楽しみや、歳をとったからこそ心を開放することができることについて説いてくれる作品も多くあるのです。今回は、「歳をとることってそんなに怖くないのかもしれない」と思わせてくれるような、選りすぐりの5冊の本をご紹介します。

「欲なんてきりがない」と諦めること──『一切なりゆき ~樹木希林のことば~』

樹木希林のことば
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4166611941 

2018年9月に惜しまれつつ亡くなった女優の樹木希林さん。『一切なりゆき ~樹木希林のことば~』はそんな希林さんの死を受け、生前に彼女が遺したコラムやエッセイ、インタビューの中から選りすぐりの“ことば”を収録した1冊です。

希林さんの語る言葉はどれも軽妙かつフランクでありながら、日々の中のふとしたシーンで思い出し、噛みしめたくなるような強度があります。たとえば、過去のインタビューの中で「子供」という存在について、こんなことを語っています。

うちは父母ともに芸能界で問題を起こす路線をずっときてて(苦笑)、立派な家庭は築けなかったから、子供は読み書きソロバンができて友達がいればそれでいいやと思った。だけどいまの女の人って、子供を踏み台にしちゃうでしょう。子供も自分の飾りを満足させるナニカだと思ってる。だから人と比較して落ちこんだりするんであって、子供は飾りの材料にしないほうがいい。
(「この女性の軌跡」2001年7月より)

たとえ肉親であっても、他人には他人の人生がある──。希林さんは“他人と自分を比べる”ことの無意味さを、文章の中で頻繁に説きます。

年をとってパワーがなくなる。病気になる。言葉で言うといやらしいけど、これは神の賜物、贈りものだと思います。終わりが見えてくるという安心感があります。年を取ったら、みんなもっと楽に生きたらいいんじゃないですか。求めすぎない。欲なんてきりなくあるんですから。足るを知るではないけれど、自分の身の丈にあったレベルで、そのくらいでよしとするのも人生です。
(「家族というテーマは無限大です。」2008年7月より)

若い頃には簡単にできたことを辛く感じるようになったり、体調を崩すことが増えたりすると、どうしても「昔とは違う」と気分が落ち込んでしまうもの。しかし、希林さんのように「欲なんてきりなくある」と考えると、できないことがひとつやふたつ増えるくらい、大したことではないと思えてきます。

2046年の橋本治が思い描くディストピア──『九十八歳になった私』

98歳
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4062209144 

『九十八歳になった私』は、小説家・評論家の橋本治さんが、2046年を98歳の小説家として生きる自分自身の姿をフィクションとして描いた近未来SF小説です。

この小説の中で橋本さんは、“三行以上の文章を読めなくなった”人間だらけの近未来で、半ば嫌々ながら文章を書き続けています。「希望を捨てないでください」と言う若者に対し、橋本さんは“希望は幻想だよ”と返すのです。

「人は希望がないと生きて行けないというのは、正確じゃなくて、人は幻想がないと生きていけないの。だから、みんな勝手にぼやんとして、自分らしく生きるとか言ってるだろ。自分らしく生きてるっていうのも、そういうもんだと思ってる人の幻想なの。だから、三行以上の文章が読めなくても、大丈夫なやつは大丈夫なの。世の中にバカはいくらでもいるんだよ」

あまりにもストレートで笑ってしまいそうになる一節ですが、「自分らしく生きる」という言葉が呪いのように氾濫している昨今、それさえも自分の“幻想”なのだと思うと少し肩の力が抜ける、という方は多いのではないでしょうか。

歳を重ねると、限られた時間の中で毎日を精一杯生きなければならない……、という強迫観念に囚えられてしまいそうになることも増えます。しかし橋本さんは、歳をとったら「俺もディストピアなら周りもディストピアだ」というどこか明るい気持ちでこの本を書いた、とあとがきの中で述べています。

橋本さんは残念ながら2019年1月に永眠されましたが、彼が遺したユーモラスながらも前向きすぎない言葉の数々は、現代を生き歳を重ねている私たちにとって、少し立ち止まり、ホッとひと息をつかせてくれるような存在です。

残された人生を“ひとり”で生きる楽しさ──『おらおらでひとりいぐも』

おらおらでひとり
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小説『おらおらでひとりいぐも』は、70代で夫に先立たれた桃子さんという主人公が、初めてのひとり暮らしの中で自分のこれまでの生き方を省みつつ、これから先の生き方について考えるというストーリー。第158回芥川賞を受賞した本書は、作者の若竹千佐子さんが63歳の新人(芥川賞受賞時)であったことも話題になりました。

タイトルの『おらおらでひとりいぐも』とは東北弁で、「私は私でひとりで行くから」という意味。伴侶を失い、新たな人生への第一歩を踏み出した主人公の桃子さんの決意ともとれる、本書を象徴するような言葉です。

桃子さんは夫と子どものことを心から愛していましたが、だからこそ、家族で暮らしていた頃は、周りに尽くし続ける日々を送っていました。夫を失った桃子さんの頭の中にはいつからか東北弁の“声”が聞こえるようになり、彼女はその声に導かれながらさまざまな内省を繰り返すうちに、自分自身がこれからどう生きるべきかに思い至るのです。

もう今までの自分では信用できない。おらの思っても見ながった世界がある。そごさ、行ってみって。おら、いぐも。おらおらで、ひとりいぐも。

歳を重ね、いつしか人生の伴侶を失う日のことを想像すると恐ろしくてたまらない……、という人もいるかもしれません。しかし『おらおらでひとりいぐも』は、人が本質的にはひとりであるということ、そしてたとえひとりでも、これまでに人生で出会ったさまざまな他者の言葉や自分自身の経験は、いつでも自分を慰めてくれるということを教えてくれるような1冊です。

94歳の料理研究家が語る、生涯現役の秘訣──『「ばぁばの料理」最終講義』

ばぁばの料理
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「ばぁば」の愛称で親しまれ、数々の人気番組にも現役で出演されている94歳の料理研究家・鈴木登紀子さん。『「ばぁばの料理」最終講義』は、そんな「ばぁば」が記した料理や台所にまつわるエッセイに、定番料理のレシピを合わせた1冊です。

94歳(本書執筆時は90歳)の料理研究家のエッセイと聞いて説教臭い言葉をイメージされる方も少なくないかもしれませんが、「ばぁば」の言葉はどれも、台所に立つ人たちに優しく寄り添ってくれるものばかり。
たとえば、料理教室の生徒から聞いた「手指を怪我していたときに洗いものを嫁に頼んだところ、一点ものの器などを割られてしまい、“もう洗いものはイヤです”と言われた」という話の中では、

ばぁばは生徒さんにこういいました。
お嫁ちゃんは、大役を仰せつかって、さぞかし緊張なさっていたと思います。でも、その心持ちこそ大切なの。ほどほどの緊張感を忘れずに繰り返し手を動かしているうちに、お作法も身について、ちゃんとできるようになります。そう、お伝えして

と語ります。
歳を重ねていくと、自分よりも若い人や未熟な人に苛立ったりしてしまうことも増えるもの。しかし、「ばぁば」は若者を優しく見守り、寛容になることの大切さを説いてくれます。彼女はまた、あとがきの中で、

よく、「本当にお元気ですね」と感心されますが、それはばぁばがおいしいものに目がなく、食い意地が張っているからです。娘たちには「食べすぎよ」とたしなめられますが、ハイハイとよい返事をしながら、心の中では「人間、食べられなくなったらおしまいよ」と呟いております

とも書いています。『「ばぁばの料理」最終講義』は、歳を重ねても現役で仕事を続けられる人が持つ、優しさとしたたかさの秘密を教えてくれるような1冊です。

嘘偽りのない、等身大の“卒寿”──『九十歳。何がめでたい』

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『九十歳。何がめでたい』は、小説家・佐藤愛子さんが2015年から2016年にかけて、雑誌『女性セブン』で連載されたエッセイに加筆修正を加えた1冊です。
2014年に長編小説『晩鐘』を発表し、一度は小説家人生に“幕が下りた”と当時のインタビューで語った佐藤さん。そんな彼女が92歳(※現在は95歳)で再び筆を執ったこのエッセイ集は累計128万部を越え、2017年の年間ベストセラー総合第1位にも輝きました。

本書の魅力は、タイトル通りの歯切れのよさとパワフルさ。佐藤さんは、自身が卒寿と言われる歳を迎えたことに対して、

ああ、長生きするということは、全く面倒くさいことだ。耳だけじゃない。眼も悪い。始終、涙が滲み出て目尻目頭のジクジクが止らない。膝からは時々力が脱けてよろめく。脳ミソも減ってきた。そのうち歯も抜けるだろう。

と言い切ります。本書の中で佐藤さんは、テレビ番組の内容やスマホの使い方など、ありとあらゆることに歯衣着せぬ物言いで迫るのです。中でも、ニュースを読むアナウンサーの声が聞き取りにくくなってきたことに対し「腹から声を出せ」と叱りつける一節には、思わず笑ってしまいます。

また、『覚悟のし方』と題するエッセイの中では、新聞で見つけた「歳の離れた男性との結婚を家族から反対されている」という人生相談を取り上げ、人生における“覚悟”について、こんな風に語ります。

私はこの結婚に反対はしない。やがてこの熱病の熱が下がった時にどういう事態がくるか、だいたいの想像はつくけれど、「どうしても結婚したいのなら、すべての反対に目をつむって覚悟して進みなされ」という気持ちだ。しかし同じ「覚悟」でも(中略)「一生意志を曲げない覚悟」ではなく、長い年月の間にやがて来るかもしれない失意の事態に対する「覚悟」である。たとえ後悔し苦悩する日が来たとしても、それに負けずに、そこを人生のターニングポイントにして、めげずに生きていくぞという、そういう「覚悟」です。それさえしっかり身につけていれば、何があっても怖くはない。私はそんなふうに生きて来た。

“私はそんなふうに生きて来た”と言い切る佐藤さんの言葉の力強さに、勇気をもらえると感じる人も多いのではないでしょうか。自分で読むのはもちろん、両親や祖父・祖母、恩師など、ひと足先に90歳を迎える人たちにもおすすめしたくなる1冊です。

おわりに

歳を重ねるのはもちろん、楽しいことばかりではありません。皺やシミが増え、体は若い頃のように動かなくなり、時に、社会的な責任が重くなることもあるでしょう。
しかし、歳を重ねていくと、自分を悩ませている人間関係や自意識から解放される日もどこかでやってくるのかもしれない──。本を読んでいるとそんな風に感じられることがあり、それこそがまさに読書の醍醐味です。

いつの日かやってくるであろう数十年後の未来を楽しみに待てるように、今回ご紹介した5冊の本のページをめくってみてはいかがでしょうか。

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