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【夢水清志郎、怪盗クイーンetc.】作家・はやみねかおるのおすすめ作品

『名探偵夢水清志郎』シリーズや『怪盗クイーン』シリーズなどの作者で、児童文学作家として幅広い世代のファンから愛され続けているはやみねかおる。今回は、そんなはやみねかおるのおすすめ作品と読みどころをご紹介します。

子どもの頃、ものぐさで忘れっぽい名探偵と3姉妹が活躍する『名探偵夢水清志郎』シリーズや、「怪盗の美学」に従って盗みを働く『怪盗クイーン』シリーズに夢中になった──という思い出がある方も多いのではないでしょうか。同シリーズの著者である小説家・はやみねかおるは、2020年にデビュー30周年を迎えました。

今回は、そんなはやみねかおるの児童向け小説を中心に、おすすめ作品のあらすじと読みどころをご紹介します。

『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズ


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4061473921/

『名探偵夢水清志郎事件ノート』シリーズは、大の自信家で自分のことを“名探偵”と呼ぶ年齢不詳の男・夢水清志郎と、彼の隣の家に住む三つ子の姉妹、岩崎亜衣・真衣・美衣を主人公とするミステリ作品です。

シリーズ1作目にあたる『そして五人がいなくなる』は、1994年に発表されました。本作では、名探偵・夢水清志郎と三姉妹たちの出会いと、オムラ・アミューズメント・パークという遊園地を舞台にした失踪事件が描かれます。

夢水清志郎は、三姉妹の隣の家に引っ越してきたその日から、表札に「名探偵 夢水清志郎」という文字を掲げるような変わった人物でした。亜衣たち3人は、彼がどんな人物であるかを確かめるために、4日間の“調査”をおこないます。実はこの調査は、亜衣・真衣・美衣の3人が三つ子であることを隠し、あたかもひとりの女の子であるように見せかけて日替わりで夢水清志郎の家を訪れる──という作戦だったのですが、彼はあっさりと「きみたちは、とってもよく似た三つ子だろ」とそれを見破ってしまいます。

「最初におかしいなって思ったのは、くつなんだ。」
「くつ?」
「そう二日にきた亜衣ちゃんは、玄関で、くつをちゃんとそろえてぬいだだろ。なのに、三日にきた子は、くつをいきおいよくぬぎちらかしている。そのとき、あれ? って思ったんだ。」(中略)
「くつをそろえてぬぐというような習慣は、一度身についてしまうと、なかなかかえることができない。だから二日にきた子と三日にきた子は、ちがう子なんじゃないかなって思いはじめた。それでくらべてみたら、ほかにもちがうところがあるのに気づいたんだ。亜衣ちゃん、そのソファーにすわったまま、本棚にはいってる本の背表紙、読めるだろ?」
わたしはうなずく。自慢じゃないけど、視力はいいほうだ。
「そうだね。二日に、その場所から読んでたもんね。でも、三日にきた子は、ソファーの場所からだと、遠すぎて読めなかった。」

3人の違うところをスラスラと述べていく夢水清志郎の様子に、他人から“3人でワンセット”であるかのように扱われることに慣れていた三姉妹は、感激します。このできごとをきっかけに、三姉妹は、頭脳明晰だけれど生活力や記憶力のない夢水清志郎を公私ともに見守り、支える助手のような存在になっていきます。

本シリーズの大きな特徴に、子供だましではない本格的なトリックと謎解きが楽しめるミステリ作品でありながら、殺人事件が起こらないことが挙げられます。また、夢水清志郎は常に「事件を解決すること」よりも「みんなが幸せになるように事件を解決すること」を優先する人物として描かれており、時には事件の関係者のことを思い、周囲からせがまれても事件の真相を語ろうとしないことすらもあります。

謎解きのワクワク感はもちろん、ジュブナイル小説(※ティーンエイジャーを対象とする小説)らしいやさしさやあたたかさが貫かれているのも本シリーズの魅力。どの時代の子どもにも読んでほしいと思える、児童文学の傑作です。

『怪盗クイーン』シリーズ


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4061485776/

『怪盗クイーン』シリーズは、年齢や性別、国籍も不明の神出鬼没の怪盗・クイーンを主人公とする冒険小説です。
もともとは名探偵・夢水清志郎のライバルとして作品に登場したサブキャラクターでしたが、『怪盗クイーンはサーカスがお好き』で単独シリーズとして再デビューを果たしました。シリーズ作品は2002年から現在に至るまで15作刊行されており、いずれも、怪盗クイーンが狙った獲物を手に入れるまでの攻防が描かれています。

本シリーズの魅力はなんといっても、怪盗クイーンというキャラクターが持つギャップ。普段は趣味の野良猫のノミとりに精を出したり、こっそり隠しているワインを昼から飲んだりする気まぐれで怠惰な人物で、「怪盗の美学」に見合う仕事でないと活動をしません。クイーンは、仕事上のパートナーでよき友人でもあるジョーカーと人工知能のRDに催促をされ、自分の興味が向く獲物が見つかるとようやく動き出します。

「この世界のどこかに、わたしの犯罪美学を納得させるような獲物はあるんだろうか……。」
「RD、モニターに高価な美術品や宝石の所有者をリストアップしてくれ。」
憂いを楽しんでいるクイーンを完璧に無視して、ジョーカーがRDに指示をだす。
「『怪盗の美学を満足させるもの』という条件をつけてほしいね。」(中略)
「該当者、千六百七十四名です。モニターにうつします。」
「RD、六百二十八番めのデータを、もう一度うつしてくれないか。」
モニターを見ていたクイーンがいった。
一つのデータがしめされていた時間は、一秒にも満たない。しかしクイーンは、瞬間的にすべてのデータを見て記憶していた。(中略)
「六百二十八番目のデータです。」
モニターに、赤いダイヤモンドがうつしだされる。

クイーンはひとたび「怪盗の美学」を感じる獲物を盗もうと決めると、実に周到な準備をし、必ず予告状を出して華麗な犯行をおこなうのです。クイーンの「怪盗の美学」に殺人という項目はなく、人を傷つけることも好みません。

第1作にあたる『怪盗クイーンはサーカスがお好き』では、クイーンが盗もうとする “リンデンの薔薇”と名づけられた宝石をめぐり、セブン・リング・サーカスという名のサーカス団と対決をすることになります。サーカス団はさまざまなアクロバティックな芸を使ってあの手この手で宝石を盗み出そうとしますが、クイーンはたったひとりで、そんなサーカス団の団員たちを出し抜いてしまうのです。
クイーンとサーカス団の手に汗握る攻防はもちろん、変装の名人であるクイーンが、登場人物の中の誰に変装しているのか? という謎解きも楽しみながら物語を読み進めることができるのも、本作の大きな魅力です。

『めんどくさがりなきみのための文章教室』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4864106711/

『めんどくさがりなきみのための文章教室』は、はやみねかおるが2020年3月に発表した文章上達のための実用書です。中学2年生のたけしという男の子と、彼に文章のコツを教える奇妙な猫・ダナイを主人公に、小説形式で文章講座が進んでいきます。

第1章では作文の授業やレポート課題が苦痛で何も書けないという人に向けた文章の基礎、第2章ではそこから一歩進み、「うまい文章」を書くためのコツ、第3章では小説を1作書きあげるためのポイントが分かりやすく解説されています。

第1章では、文章が書けるようになるためのトレーニングとして、ダナイが健に「毎日200字以上の日記を書くこと」を勧めます。200字なんて多すぎる、と文句を言う健を、ダナイは

1回100文字のツイートを2回投稿したら、それだけで200文字になるじゃないか

と諭します。

毎日書き続けることは、とても重要。
続けているうちに、文を書くことが、ご飯を食べたりお風呂に入ったりするのと同じように、とても当たり前のことに思えてくる。
また、「日記に書くことはないか?」という目で周りを見ることで、気づかなかったことに気づいたり、見えていなかったことが見えてきたりする。
自然に、頭の中に文章が浮かぶようになる。

その言葉どおり、毎日無理やりにでも200字の日記を書くことを習慣づけた健は、文章を書くことへの苦手意識をすこしずつ手放していきます。第2章では、ダナイに“五感をフル活用して書く”、“気持ちは「記号」にしてから文章にする”といったアドバイスを受け、テーブルに置かれた1個のリンゴを目にしただけでも

ぼくの前に、皿に載ったリンゴがある。赤いリンゴだ。ただ、全体が赤いわけではない。かすかに白い斑点が散らばっているし、軸がついているところは黄色い。大きさは、ソフトボールぐらい。丸いというより、岩のようにゴツゴツしている。表面がワックスを塗ったようにピカピカで、よく見ると、部屋の様子が映り込んでいる。持ってみたら、想像していたより重い。ずっしりした重さが、手に伝わってくる。いい匂いがして、思わずかじりたくなった。

といった、表現豊かでわかりやすい文章を書けるようになるのです。

本書は、文章上達のための非常に実用的な指南書であると同時に、児童文学としてもとても魅力的です。さぼりがちではあるけれど素直でやさしい少年・健と、憎まれ口ばかり叩きながらも健のことを慕っているダナイのやりとりは、とても軽快かつユーモラス。ふたりの物語を楽しんで読み進めるうちに文章のスキルが身についてしまうという、まさに“めんどくさがり”な人のための1冊です。

おわりに

はやみねかおるは、自らの作品世界のことを“赤い夢”という言葉で呼んでいます。『夢水清志郎』や『怪盗クイーン』の世界はそれぞれすこしずつリンクしており、ひとつのシリーズの作品の中に別シリーズのキャラクターが登場することも珍しくありません。“赤い夢”の世界のストーリーやキャラクターは多種多様ですが、共通しているのは必ずハッピーエンドであること。ハラハラするような展開を経ても必ず全員が幸せになるような結末で物語をの幕を下ろすはやみね作品は、子どもが読んで面白いのはもちろん、大人が読み返しても素晴らしいものばかりです。

小学生のときに『名探偵夢水清志郎』シリーズに夢中になり、いまあらためて他の作品も読みたくなったという方も、自分の子どもの世代に読ませたいという方も、はやみねかおる作品を一度手にとれば、彼が見せてくれる“赤い夢”の虜になるはずです。

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