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【映画化記念】『屍人荘の殺人』原作・今村昌弘の作品の魅力

映画『屍人荘の殺人』が2019年12月13日より全国公開されます。『屍人荘の殺人』の原作は、小説家の今村昌弘による同名のミステリ小説。今回は、『屍人荘の殺人』の読みどころとともに今村昌弘作品の魅力をご紹介します。

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今村昌弘によるミステリ小説『屍人荘の殺人』が映画化され、2019年12月13日より全国公開されます。本作の主演を務めるのは神木隆之介と中村倫也、そして浜辺美波という錚々たる俳優陣です。

原作小説は第27回鮎川哲也賞を受賞しただけでなく、このミステリーがすごい!2018年度版、週刊文春ミステリーベスト10、2018 本格ミステリ・ベスト10において第1位を獲得、第18回本格ミステリ大賞も受賞して国内のミステリ小説賞の4冠を達成するという偉業を達成。著者の今村昌弘は本作がデビュー作ということもあり、大きな注目を集めました。

今回は、映画化する『屍人荘の殺人』を中心にそのあらすじと読みどころを解説しつつ、今村昌弘作品の魅力をご紹介します。

【魅力その1】ミステリファンも唸る、王道の本格派ミステリ

屍人荘の殺人
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4488025552/

『屍人荘の殺人』は2017年に発表された今村昌弘のデビュー作。本作は、葉村譲明智恭介というミステリマニアの大学生ふたり、そして剣崎比留子という謎の探偵少女が、同じ大学の映画研究会の夏合宿に参加する──というところから始まります。

「神紅大学のホームズ」を自称する明智は、大の事件好き。映画研究会がいわくつきのペンションを借りて心霊映像を撮影しようとしているという話を聞いた明智は、探偵助手的な存在の葉村とともに、なんとかしてその合宿に同行しようと苦心していました。

悩む葉村の前に突如現れた剣崎は、その合宿の本来の目的は撮影ではなく映研のOBたちを中心としたコンパであること、前年には合宿に参加した女子部員が自殺するという事件があり、『今年の生贄は誰だ』と書かれた謎の脅迫状が届いたという経緯もあって、退部をする部員が後を絶たなかったこと──を告げます。そして剣崎は、映研の部長である進藤から参加者不足に悩んでいるという相談を受け、葉村と明智をその合宿に誘ってきたのです。

合宿の舞台である避暑地のペンション「紫湛しじん荘」に集まったのは、葉村たち3人の他に映研の合宿に参加する部員やその知人たち、そして映研のOBを含む計14人でした。

彼らが紫湛荘からほど近くの神社に肝試しに出かけた合宿初日の夜、とある事件が起こり、葉村たちは紫湛荘に立てこもらなければならない状況に陥ってしまいます。ペンションのすぐそばは森と湖、外部との連絡手段もないという中で、あっけなくクローズドサークルが完成してしまうのです。そして翌日には、なんと映研部長の進藤がペンション内の密室で凄惨な他殺死体となって発見されるのでした。

いわくつきのペンションを舞台に突如起こる密室殺人、そしてその中に取り残された探偵たち──という展開だけで、ミステリ好きの方であれば胸が高鳴るのではないでしょうか。その期待を裏切らず、翌日からはペンションを舞台にした連続殺人事件が続いていき、葉村たちは繰り返される事件の犯人を探すべく奔走します。

事件にはそれぞれ犯人からのメッセージ不可解な殺害方法といった謎がついて回り、日が経つにつれ宿泊者たちが減ってゆく緊迫感の中で謎解きが進んでゆくさまは、まさに王道の本格派ミステリ。徐々に解明されてゆく殺人のトリックも鮮やかかつ意外性のあるもので、本格ミステリファンならば一気読みしてしまうこと請け合いです。

【魅力その2】本格ミステリに掛け合わされる、意外すぎるエンタメ要素

(※注意※ ここから先の解説には、『屍人荘の殺人』の重大なネタバレが含まれます)

前述したように、『屍人荘の殺人』は本格的なミステリ小説。しかし今村昌弘作品の最大の魅力は、そのミステリ要素に掛け合わされる、まったく別ジャンルの要素の意外性と面白さにあるのです。

『屍人荘の殺人』の中で、合宿の参加者たちが初日の夜の肝試しで遭遇した事件──。それはなんと、ゾンビの群れとの遭遇という衝撃的なものでした。

目を凝らすと、山の方からいくつかの人影が下ってくるのが見えた。先に出発したペアが戻ってきたのだろうと思い、声をかけようとしたのだが。
おかしい。人影が三つある。地元の人だろうか。(中略)
山から下りてきた人影は走れば五秒とかからない距離まで近づいている。足を引きずりながら低い呻き声を漏らす何者か。(中略)
「おおお、ぁああーーー」
道路灯に顔が照らし出される。焦点を失った目。だらしなく開けたまま意味のない呻き声を漏らす口。赤黒い血を顔と衣服にばったりと塗りつけている。中には服が裂け、裸身を晒している者もいた。

『屍人荘の殺人』は、本格ミステリ×ゾンビパニックホラーというふたつの要素を併せ持った作品なのです。しかもさらに予想外なことに、冒頭で圧倒的な存在感を放ち葉村の相棒として活躍していた明智は、初日にあっけなくゾンビに襲われてゾンビ化してしまいます。

勘のいい方ならお気づきかもしれませんが、タイトルの『屍人しじん荘』とはゾンビの館という意味。ゾンビは世界的なバイオテロによって生まれ、不幸にも紫湛荘の近くで局地的に大量発生しているのでした。葉村と剣崎たちは残された探偵コンビとして殺人事件の謎を解きつつ、同時に密室の中でゾンビから生き延びるために試行錯誤するのです。
第27回鮎川哲也賞の選考委員を務めた小説家の北村薫は、選評の中で本作の衝撃を

野球の試合を観に行ったら、いきなり闘牛になるようなものです。それで驚かない人がいますか?

と例えています。

“ゾンビ”という奇想天外な舞台装置を加えることで、物語を一気に予想のつかないものにしてしまった『屍人荘の殺人』。本作に続く『屍人荘』シリーズ2作目の『魔眼の匣の殺人』では、本格ミステリに“超能力”や“予言”といったオカルト要素が組み合わされます。

魔眼の匣
出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4488027962/

『魔眼の匣の殺人』は、「魔眼の匣」と呼ばれる超能力研究所を舞台にしたミステリ小説。1作目に続き、葉村・剣崎の探偵コンビがこの施設に潜入し、施設内で起こる殺人事件の謎を解き明かそうとします。『屍人荘の殺人』と同じくクローズドサークルの中に閉じ込められてしまった葉村たちは、本作では「あと2日のうちに、この地で男女が2人ずつ4人死ぬ」という恐ろしい予言を阻止すべく奮闘するのです。

今村昌弘作品の真髄はまさにこの、本格ミステリに組み合わされる、意外すぎる別ジャンルの圧倒的なエンタメ性にあると言ってよいでしょう。

【魅力その3】探偵コンビの関係性の変化

『屍人荘』シリーズに共通して登場するのが、剣崎比留子と葉村譲の探偵コンビ。実は、剣崎は警察さえ手を焼いた難事件、怪事件の数々に類まれなる推理力で挑み、さまざまな事件を解決に導いてきた探偵少女であることが『屍人荘の殺人』で明かされます。剣崎はゾンビに襲われた明智亡きあと、葉村を自身の探偵助手としてスカウトし、ともに事件に向き合うようになっていきます。

謎に包まれた美少女である剣崎を最初は訝しむ葉村でしたが、剣崎が向かう先々でさまざまな事件に巻き込まれてしまう厄介な体質であることを知ったあとは、少しずつ剣崎に心を開き始めます。そして、剣崎はそんな葉村のあたたかさとミステリへの知識に惚れ込み、葉村に恋するのでした。

ペンションの外ではゾンビがうろつき、室内では連続殺人事件が起きているという絶体絶命の状況の中で、剣崎と葉村は徐々に距離を縮めていきます。

「葉村です。今いいですか」
「うわ、と。ちょ、ちょっと待ってくれる?」
少しばたついた音が聞こえ、三、四分経った頃にドアが開いた。
「ごめん。お待たせ」
「どうしたんですか」
すると比留子さんは頬を赤らめ、着替えていたと答えた。(中略)
「裸か下着で寝てたんですか」
「馬鹿っ。ラフなシャツとパンツだよ」
「別にそれで出てきても気にしないのに」
「わ、私が気にするんだよ!」

前代未聞の事件の只中にいるということもあり、ふたりの会話はごくわずかではありますが、最初から最後まで緊迫感の漂う本作の中で唯一ホッとして読める微笑ましいシーンでもあります。剣崎・葉村コンビの恋が今後どのように発展してゆくかは、シリーズ3作目以降の見逃せないポイントであり、読みどころのひとつです。

おわりに

2017年に華々しいデビューを飾り、『屍人荘の殺人』と『魔眼の匣の殺人』の2作品を発表したばかりの今村昌弘。本格ミステリに奇想を掛け合わせる卓越した発想力の今村作品からは、今後とも目が離せません。

映画『屍人荘の殺人』は2019年12月13日から公開されます。原作の魅力の虜になったミステリファンやホラーファンの方々は、映画の公開をぜひ楽しみにお待ちください!

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