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【直木賞&本屋大賞ノミネート】加藤シゲアキのおすすめ作品3選

アイドルグループ・NEWSのメンバー、加藤シゲアキは、2012年から小説家としても活動し、これまでに6作の小説と1冊のエッセイ集を発表しています。最新作『オルタネート』を含む、加藤シゲアキのおすすめ作品をご紹介します。

アイドルグループ・NEWSのメンバーとして活躍を続けている加藤シゲアキ。彼は2012年に長編小説『ピンクとグレー』でデビューして以来、小説家としてもコンスタントに執筆活動を続けています。2020年に発表した『オルタネート』は、第164回直木賞、2021年本屋大賞、第42回吉川英治文学新人賞の候補作にも選ばれるなど、非常に高く評価されました。

彼は、いまもっとも注目を集めている小説家と言っても過言ではありません。今回は最新作『オルタネート』を中心に、加藤シゲアキのおすすめ作品のあらすじと読みどころをご紹介します。

直木賞ノミネートの傑作青春小説、『オルタネート』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4103537310/

『オルタネート』は、加藤が2020年に発表した最新作。高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が大流行している現代を舞台に、若者たちの日常を描く青春群像劇です。

主な登場人物は、調理部の部長を務める高校3年生の新見いるる、蓉と同じ高校に通い、「オルタネート」を信奉している1年生の伴凪津なづ、大阪の高校を中退し、音楽家になる夢を追いかけようとする𪲨丘尚志の3人。

料理人の父を持つ蓉は料理が非常にうまいものの、その真面目で不器用な性格が災いし、周囲からはやや距離を置かれています。彼女は高校生を対象にした料理コンテスト番組「ワンポーション」での優勝を目指し、調理部の活動に熱を入れていますが、その背景には、前年度の「ワンポーション」に出場した際、審査員である料理研究家に“まるでガイドブック通りの旅行みたいだ”と料理を酷評された苦い経験がありました。蓉は、自分にはない自由な発想を持っている調理部の後輩・えみくに声をかけ、えみくと共にペアを組んで「ワンポーション」に臨もうとします。

同じころ、凪津は「オルタネート」のアプリを使い、自分にとって最も相性のいい相手に出会おうと躍起になっていました。親との軋轢に悩み、自分は“真実の愛”を追求したいと考える凪津は、「オルタネート」に追加された、遺伝子レベルで相性のいい相手を見つけるという新機能に期待をかけています。しかし、ジーンマッチと名づけられたその機能をどう思うか、と凪津に意見を求められた生物教師の笹川は、“私は、生き物ってそんなに簡単じゃないって思ってる”と答えます。

「(前略)ねぇ伴さん、そもそもあなたの思ういい相性って、どういうことなの?」
「合理的かつ持続的な関係です」
凪津は前の方のイスをひとつ引っ張り出し、そこに座った。
「お互いの利害が完全に一致していて、二人の人間性のいびつな部分でさえぴしっとはまる、その人以外いないというような相手。そんな人がいれば、ずっと一緒にい続けられると思うんです」
「でも人は変質するし、不定形とも言えるわ。あなたの条件を生物学的な裏付けに求めるのは難しいように思えるけど」
「そうかもしれません。でもオルタネートみたいな、膨大なデータを利用したAIなら、かなり近いところまでいけると思いませんか? 長く続いた夫婦の傾向は人間よりAIの方が知ってるはずです」

凪津は結局、この機能を使ってマッチした“遺伝子レベルで相性のいい相手”に出会いますが、いまひとつ会話が盛り上がらず、「オルタネート」への絶対的信頼が揺らぎはじめます。一方、高校を中退してしまった尚志には、「オルタネート」の利用資格がありません。尚志は仕方なく、弟のスマホの「オルタネート」を利用して幼馴染の豊を見つけ出し、豊に会うために単身で上京します。ドラマーである尚志は豊のギターの才能に惚れ込んでおり、一緒にバンドをやろう、とどうしても彼に伝えたかったのでした。

「オルタネート」のマッチングを信奉している凪津、利用資格を失ってしまったものの、やはりいまでも「オルタネート」のことが気にかかっている尚志、そして唯一「オルタネート」をダウンロードしていないことで、どこか変わり者のように周囲から見られている蓉──。アプリへの思い入れは三者三様ですが、彼らの日常の中心には、常に「オルタネート」があります。

しかし本作は、安易な“SNSでのもろいつながり”批判には落ち着きません。作中で描かれるのは、「オルタネート」のある現代を否応なしに生き、時にはそのアプリに翻弄されて疲弊しながらも、目の前の壁を壊そうと必死にもがき続けている等身大の若者たちです。アプリに夢中になり、リアルなつながりを蔑ろにしようとする定型化された10代の姿ではなく、叶わない夢や恋愛を前に思い悩みながらもどうにか前進しようとする、生き生きとした人物たちを加藤は真正面から描いています。

高校生限定のマッチングアプリという題材は現代的ですが、本作は非常に普遍性の高い、どの年代の方にもおすすめしたい青春小説です。テンポのよい会話と爽やかな読後感も心地よく、何度でも読み返したくなるような、加藤の代表作になるであろう1冊です。

スターの葛藤と苦しみを描いたデビュー作、『ピンクとグレー』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/404101218X/

『ピンクとグレー』は、加藤が2012年に発表したデビュー作。2016年に行定勲監督によって映画化もされ、大きな話題を呼んだ本作は、河田大貴と鈴木真吾という、ふたりの俳優を主人公にした物語です。

ストーリーは、大貴による回想という形で進みます。9歳で関西から東京に引っ越してきた大貴は、同じマンションに住む真吾、石川、木本という同級生と仲良くなります。4人は、「まるでスタンド・バイ・ミーのよう」と親に言われるほど常に一緒にいる存在となり、『スタンド・バイ・ミー』の出演者リヴァー・フェニックスと、主人公ゴードンの名前から、大貴は「りばちゃん」、真吾は「ごっち」といつしか呼ばれるようになります。石川と木本がやがて転校してしまっても大貴と真吾の友情は続き、高校生になったふたりは、スカウトをきっかけに芸能活動をするようになりました。

あるとき、エキストラとしてドラマに参加した真吾の演技がプロデューサーの目に止まり、真吾は連続ドラマに出演することに。「白木蓮吾」という芸名で活動するようになった真吾は一躍スターになりますが、大貴は依然としてアルバイトを掛け持ちしながら小さな仕事に出演することしかできず、ふたりの距離は徐々に離れていってしまいます。

25歳になり、高校の同窓会でようやく再会を果たした大貴と真吾。大貴は真吾への嫉妬心を隠せずにいますが、真吾は昔と変わらず、大貴のことを唯一の理解者と捉えているようでした。しかし、ふたりが再び心を通わせることができたのもつかの間、真吾は自宅のマンションで、首をつって自殺をしてしまいます。真吾はかつて自ら命を絶った姉に強く影響されており、姉が頻繁に口にしていた、

やるしかない。やらないなんてない

という言葉を体現するかのように、死という道を選んでしまうのでした。大貴は真吾の死後、迷いながらも真吾の人生について綴ったノンフィクション本を発表し、時の人となります。本の映画化が決まり、主人公である真吾を自ら演じることになった大貴は、撮影の過程で初めて真吾のスターとしての苦悩と葛藤を知ることになるのでした。

真吾がひとりで抱えざるを得なかった複雑な思いを大貴がなぞるように紐解いていく後半の展開が、本作の最大の読みどころです。スターであるがゆえの「いくら僕が真実を語ろうと、僕の言葉はいいように素材として扱われる」「もう止まれない」という苦しみは非常にリアルで痛々しく、親友を亡くした大貴の悲しみと合わさって、強く読者の胸を打ちます。

2017年に発表された『チュベローズで待ってる』、最新作の『オルタネート』などと比べるとやや冗長な表現も目につく本作ではありますが、終盤のスピード感には、ページをめくる手が止まらなくなること間違いなし。言葉遊びを多用した表現やリズム感のある会話など、加藤の作家としての個性を堪能することができる1冊です。

“旅”をテーマにした著者初のエッセイ集、『できることならスティードで』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/4022516690/

『できることならスティードで』は、『小説トリッパー』での連載をまとめた、加藤初のエッセイ集です。本書のテーマは“旅”。パリやスリランカといった外国への“旅”の話はもちろん、2019年に亡くなったジャニー喜多川氏への思いを綴ったエッセイや、何気ない日常のなかで“旅”を考えるエッセイなど、その話題は非常に多岐にわたります。

なかでも素晴らしいのが、祖父の死について語った、『岡山』というエッセイ。加藤は祖父の訃報を仕事場から家に帰るタクシーのなかで聞き、祖父との思い出を回想します。加藤は、“行政や社会に不満を募らせ、常に誰かに怒って”いた祖父があまり得意ではなかった、と言います。

晩年、体を壊して施設に入居した祖父には認知症の気があり、家族のことをもうあまり思い出せないようでした。祖父に会いに故郷の岡山に行ってきた加藤の父は、加藤にこんな話を聞かせます。

特に僕が気に入ったエピソードは、祖父が父に「お前の息子二人おるやろ。最近はどうしとんじゃ」と尋ねた話だった。僕は一人っ子なので、いよいよ孫の顔もわからなくなったと思った父は、「誰と間違えとるんじゃ」と言い返したところ、「歌って踊る方と、書く方がおるじゃろ」と話したらしい。ちなみに祖父は読書家だったため、書く方の孫が好きなようだった。
父はそういった話をいくつもしてくれたが、最後には必ず「だから会えるうちに会っとけ」と言った。僕自身も、実際に対面したら祖父は「歌って踊る方」と「書く方」のどちらだと思うのか単純に興味があったので、なるべく早いうちに会いに行こうと思っていた。

その後、加藤は実際に広島でのライブ帰りに祖父に会いに行きますが、祖父は「歌って踊る方」でも「書く方」でもなく、加藤のことを忘れていました。昔の血気盛んだったころが嘘のようにすっかり穏やかな老人になった祖父を見て、加藤はどこか明るい気持ちで施設をあとにします。

このエッセイのなかでは、祖父の生前のエピソードを中心に、祖父の老いと死に動揺を隠しきれない父、変わらず穏やかに祖父に寄り添おうとする祖母など、加藤の家族の姿が淡々と描かれています。死というドラマチックな題材を扱いながらも、その筆致はどこまでも静かで、描写にも嘘やわざとらしさがありません

本書に収録されたエッセイはどれも、技巧や劇的なストーリーを強調したりせず、とても素直でありながら、思索的な作品ばかりです。旅行記としても面白いエッセイが多く、遠く離れた地に降り立ったときの高揚感や浮遊感を思い出させてくれる、魅力的な1冊です。

おわりに

加藤が小説を書き始めたのは2011年、NEWSメンバーの脱退が相次ぎ、グループとしての注目度も低迷しつつあった時期でした。当時、幼いころから好きだった“書くこと”がグループや自分自身の新たな強みになるかもしれないと考え、小説を書くことを決めたのだと加藤はのちに複数のインタビューや番組のなかで語っています。

2012年のデビュー以来、6冊の小説と1冊のエッセイ集を発表し、専業作家にも劣らないほどのペースで執筆活動を続けている加藤。『ピンクとグレー』と最新作『オルタネート』を読み比べると、その文体や構成が8年の歳月を経て格段に洗練されていることに驚く方も多いはずです。これからも、書き手としての加藤シゲアキからますます目が離せません。

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