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平成最後の東西アブない2大作家―木下古栗・佐川恭一!

一口に小説、と言っても、そのジャンルは千差万別。そこで、今回は、「平成最後の悪ふざけ」をテーマに2人の作家、木下古栗と佐川恭一の作品から4作品をご紹介。とんでもなく奇抜な発想を巧みな筆致で描き出すことでカルト的な人気を誇る2人の魅力に迫ります。とにかく小説で笑いたい、そんな方にオススメです。

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平成が終わるまであとわずか。この約30年間で、グローバリズムが拡大し、インターネットも当たり前に。人々の生活や思想は大きく変化しました。しかし、なかなか変わらないものもあります。それが小説に対するイメージです。

「趣味は読書です。特に小説を読むのが好きです」
などと言おうものなら、「真面目」である、とか「おとなしい」、というカテゴリーに否応無しに振り分けられることもしばしば。
しかし、小説の中には「真面目」も「不真面目」も「おとなしい」も「バイオレンス」も、もちろん「悪ふざけ」だって存在します。

そこで今回は、「不真面目」で「バイオレンス」、そして「悪ふざけ」に満ちたアブない作家、木下古栗ふるくり佐川恭一の作品の中から、それぞれ2作品をご紹介します。
約束された笑いと驚きを是非ご堪能ください。

シュールな笑いで読者の心を掴み取る作家、木下古栗とは

木下古栗は、平成も折り返し地点をすぎた2006年に、『無限のしもべ』で、新人作家の登竜門である第49回群像新人文学賞を受賞しデビューしました。さらに、2015年には、単行本『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』でTwitter文学賞の国内編で1位を獲得しています。

そんな華々しい経歴を持つ木下作品では、都会を生きる人々の日常が度々描かれています。さらに、作中では登場人物たちが、「クリスチャンルブタン」や「マルタン・マルジェラ」などのハイブランドを身につけるなど、一見おしゃれな“シティ派”小説の様相を呈しているのです。
しかし、その内容は“おしゃれ”や“華々しい”という言葉からかけ離れています。何しろ彼の放つ作品は「エロ」、「グロ」、「ナンセンス」なんでもあり。

彼の異色のセンスは、これまでに刊行された単行本のタイトルからも伺えます。例えば、『ポジティヴシンキングの末裔』、『いい女vs.いい女』、『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』など、どれを取っても個性的なものばかり。タイトルだけで、気になる、という人も少なくないのではないでしょうか?

どこにでもある日常から飛び出す“非日常”的な展開──木下古栗『グローバライズ』

グローバライズ
https://www.amazon.co.jp/dp/4309024521

2016年に刊行された木下古栗の短編集『グローバライズ』では、それぞれが独特の世界観を持つ12編の掌編が収められています。今作は、テレビ朝日のバラエティ番組、「アメトーーク!」内の企画「読書芸人特集」にて2016年に光浦靖子氏に紹介されたり、作家の柴崎友香氏や町田康氏といったそうそうたるメンバーによる激賞の帯も話題になりました。

どの作品にも、冒頭だけ読むと、部下とともに天然温泉で憩いを求める会社員やお寿司屋さんを訪れるヴェトナム人観光客など、社会のどこかに「いそう」な人々の日常がすっきりと描かれており、細部にわたる描写が登場人物たちに生き生きとした存在感を植えつけます。
例えば、収録作『理系の女』にて、会社訪問に訪れた大学生、進藤愛子の質問に対応するリケジョな会社員、山峰芳子について描いた以下のシーン。

進藤は頷きながらメモ帳に細かくペンを走らせ、山峰はそれを眺めながら長い黒髪を耳にかけ、腕時計をちらと見て、グラスの水を飲んだ。耳たぶのイヤリングが天井からの照明の放射にきらりと光り、首もとを上品に飾るネックレスの、小さなしずく型のマイクロパヴェダイヤと輝き合った。

聡明で洗練されたエリートウーマン・山峰とそんな“素敵”な女性の話に聞き入る真面目な女子大生・進藤の姿が頭に浮かぶようです。

しかし、木下古栗は、そんな日常の風景を思いもよらない角度からぶち壊していきます。

カフェで談笑する彼女たちのもとに 、山峰の旧友で、共に「海外留学生を支援する団体」に所属する三浦が現れます。三浦は、山峰へと謎の茶封筒を受け渡し 、2人の談笑に加わります。
そして、大人な2人の女性を前に恐縮する進藤と読者に驚きの展開が襲い掛かるのです。

そう、進藤は、三浦と山峰が席を立った拍子に、謎の茶封筒の中身を見てしまいます。
そして、その中身は、なんと惨殺された白人男性の遺体写真が!

突然のスプラッタ展開に一体どういう気持ちで読み進めればいいのかわからなくなる読者も少なくないはず。

『グローバライズ』では、このような牧歌的な日常からバイオレンスな非日常への急アクセルをたっぷり味わうことができるでしょう。

へんてこな人々による群像劇が生み出すリアリティが癖になる ──木下古栗『人間界の諸相』

人間界の諸相
https://www.amazon.co.jp/dp/4087711625

最新作、『人間界の諸相』は、奇妙な言動で周囲を当惑させる看護師の菱野時江と彼女を取り巻く人々の生活を描き出した連作短編集です。
収録作『お茶会』では、コーヒーチェーン店「カフェ・ベローチェ」にて、時江がアメリカ前大統領のバラクとともに密談を交わすという驚きの展開を見せます。そして、2人によるアメリカ映画さながらの軽妙洒脱なやりとりが、異常とも言える状況にリアリティを付加します。例えば、この会話。

「バラクは抹茶ラテを飲んでいるのね」
「ああ、ベローチェの抹茶ラテは最高だよ。味も良いし値段も本当に良心的」とバラクは親指を立ててみせた。「自分の国のチェーンだからあんまり悪く言いたくないけど、ここだけの話、スターバックスなんて行く奴の気が知れないね」
「あら、大統領をやめて売国奴の本性を隠さなくなったのね」
時枝は茶目っ気たっぷりに皮肉めいたウィンクをくれて、注文カウンターの方に歩き出した。バラクは快活に笑いながらまたサングラスを顔にかけた。

会話から二人の身のこなしまで、頭の中で、映画のワンシーンのように一連のやり取りが思い浮かびます。

さらに読者を驚かせるのは、その会話の内容です。バラクは、日本のアダルト業界を改革するため、ビデオ倫理委員会(通称ビデ倫)を公的機関として復活させ、全てのアダルトビデオから修正をなくすことを目的に来日したというのです。さらに、アダルトビデオの無修正化によって、直視税を全ての成人に課すことによって、子育て世帯の支援を拡充することで少子高齢化を改善しようと企んでいます。
発想はくだらないのに、日本社会が抱える課題に対する意識の明確さや、整然としてあるロジックによって、一瞬、納得してしまう自分がいるのが怖くなります。

その他にも、作家の原稿と誠実に向き合うため、会議室を貸切り、全裸で原稿と向き合う編集者や自己啓発のための集会を行うカリスマ全裸公然わいせつナンパ師など、字面を追うだけでも珍妙な人々が登場します。
しかし、へんてこな彼らの日常が、私たちの日常のワンシーンと交差する時、なぜか心の中に爽やかな風が吹くような不思議な感覚が生まれます。

実力派なのにぶっ飛んでる・新進気鋭の悪ふざけ作家、佐川恭一とは

平成の悪ふざけ小説家として、木下古栗と双璧をなすのが、佐川恭一です。
佐川恭一は、京都大学文学部を卒業し、2011年に『終わりなき不在』で第3回日本文学館出版大賞を受賞しデビューしました。その後も、『シュトラーパゼムの穏やかな午後』でクランチノベルズ新人賞奨励賞受賞、『無能男』でもんもん文学賞受賞、などこれまた華々しい経歴の持ち主です。
現在は小説すばるで『愛すべきアホどもの肖像』というコラムを連載しつつ、2019年1月には、最新作『童Q正伝』を発売するなど作家として活動の幅をどんどん広げています。

しかし、やはり彼の作品もまた「ぶっ飛んでる」としか言いようがありません。例えば、『シュトラーパゼムの穏やかな午後』では、結婚するつもりもなかったセフレ、津原マルガレーテ亜理沙の妊娠や、会社の上司、ユー・キャン・ドゥ・イット本部長の奇行に主人公が翻弄されます 。キャラクターの名前の強烈さもさながら、笑いとハードボイルドが混じり合った不思議な世界観は多くの読者に衝撃を与えました。

欲望と愛憎が渦巻く、京都における大学生活を面白おかしく描き出す──佐川恭一『サークルクラッシャー麻紀』

サークルクラッシャー麻紀
https://www.amazon.co.jp/dp/B078GDXTLG

都会に生きる「へんてこ」な大人を描く木下と対照的に、佐川が繰り返しテーマにしているのは、「京都大学」を舞台にコテコテの関西弁で繰り広げられる歪んだ青春群像劇です。

特に象徴的な作品が、2017年に刊行された短編集『サークルクラッシャー麻紀』。

表題作『サークルクラッシャー麻紀』は、京都大学の架空の文芸サークル、「ともしび」に 、美女、麻紀が加入することで、男性会員たちによる血で血を洗う争いが巻き起こる様子が描かれます。

読書好きの父親の影響で幼い頃から活字に親しんでいたサークルクラッシャー麻紀はしかし小説に造詣が深い。読解力にも定評がありセンター 現代文も満点。趣味は読書とサークルクラッシュ。得意技はだいしゅきホールド。

「ともしび」の男性部員と奔放に体を重ねる麻紀。そんな彼女の事情に気づきつつも「気づかないふり」をすることで、互いに牽制し合う男子たちの姿は、滑稽でありながらもどこか物悲しいものがあります。そして、麻紀を魅力的に思いながらも、過去の経験から「親身に相談に乗ってくれる下心のない優しい男友達」という立場を崩せない「部長」や、麻紀に翻弄される男子部員たちを静かに観察する女子部員・「紅一点」の存在がその物悲しさを際立たせます。

このように 、京都大学における倒錯と欲にまみれた非モテ男子大学生の生活を、どこかリアリティを秘めながらリズミカルかつハイスピードで 描く佐川の手腕から、一部では「黒い森見登美彦」と呼ばれています 。

表題作以外にも、高い知能を持ちながらもルッキズム (※註)に苦しむ女子の生涯を描いた、『ブス・マリアグラツィアの一生』や 、大学の同好会を中心に繰り広げられる暴力と性生活を描いた『同好会長殺し』など、珍作揃いの短編集になっています。
※註:外見的な美醜を重視して人を評価する考え方。

文芸作品や時事問題を巧みな技術で下品にコラージュする異色の短編集──佐川恭一『童Q正伝』

童Q正伝
https://www.amazon.co.jp/dp/B07NCCZ3LN

佐川恭一の最新短編集『童Q正伝』の収録作「ナニワ最強伝説ネズミちゃん」は、村上春樹の『風の歌を聴け』の(下品な)オマージュ作品となっています。例えば冒頭。

おまえら聴けぇ、聴けぇ!静かにせい、静かにせい!風の歌を聴けっ!男一匹が、命をかけて諸君に訴えてるんだぞ。いいか。いいか。静聴せい、静聴せい!おまえら、風の歌を聴けぇっ!

ここだけでも笑ってしまった、という人も多いのではないでしょうか? 
『風の歌を聴け』の読者はもちろん、これから『風の歌を聴け』を読もうと思っている人に、おすすめ です。

表題作は、主人公が、平成時代を童貞で過ごす人々「平成ジャンプ(通称、ふなき)」に思いを馳せるところから、始まる「平成小説」です。
共に女性との縁がない京大生だった主人公と、その同級生童Qの切ない学生生活が、様々な文学作品や時事ニュースを想起させる単語を交えながら描かれ ます。

そして、作品の終盤に主人公が「ふなき」の読者に、語りかけるシーンには、清々しさすら覚えます。

平成が終わる。

「ふなき」になることを恐れ、時代の変わり目に震えている童貞たちは、しかし自暴自棄になる必要はない。「ふなき」になるということは、少なくとも異性の誘惑に屈することなく――あるいは異性の誘惑と遠いところに常に自らを律し続けながら――、平成という信ずべき中心を失った修羅の時代を逞しく生き抜いたということでもある。

平成最後の笑いに、悪ふざけ作家の作品を

木下、佐川両氏の作品に共通するのは、下品でくだらない単語を使いながらも、巧みな描写力と整然としたロジックで、読者の生活に接続するような笑いを生み出す、という点です。
字面だけ見ると思わず顔をしかめてしまうような文章でも、作品を通して読むと、思わぬ爽快感を覚えてしまう、不思議な読後感があります。

平成最後のこの時期に、そんな「悪ふざけ」作家たちの作品を読んで笑ってみてはいかがでしょうか?

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