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こじらせ女子に贈りたい、女性歌人の短歌セレクション

女性歌人が詠む短歌は、必ずしも華やかなものばかりではありません。自分への苛立ちや他人への恨み、嫉妬……。そんなドロドロとした思いを歌にする歌人もたくさん存在します。今回は、自分が女子であることに馴染めず、もがいているこじらせ女子の読者のために、現代の女性歌人が詠んだ名作短歌をご紹介します。

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やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくまでの月を見しかな
――赤染衛門

皆さまは、女性歌人の短歌と聞いてどんなイメージを持つでしょうか。
かの有名な俵万智の「サラダ記念日」 のようにほのぼのとした歌や、万葉歌人の作品のように美しく風流な歌を思い浮かべる方が多いかもしれません。

冒頭の短歌を詠んだのは、平安時代に和泉式部と並び人気のあった女性歌人・赤染衛門あかぞめえもんです。この短歌は「最初からあなたが来ないと分かっていたら早く寝たのに、あなたを待っていたせいで月が沈んでゆくのを見届けてしまった」という意味。つまり、「はあ? 来るって約束したのになんで来ないんだよ」という、男性への恨みを歌っているのです。

……このように、女性歌人が詠む短歌は、今も昔も決して美しく爽やかなものばかりではありません。異性への怨念や同性への嫉妬、自分自身への苛立ちなどが赤裸々に綴られた歌は、自分が“女子であること”に馴染めない、こじらせ女子たちの強い共感を呼んでいます。
今回はそんな、こじらせ女子ならばグッときてしまうこと必至の短歌を詠む女性の現代歌人を4名、代表作とともにご紹介いたします。

自立した“強い女”が抱えるジレンマ――佐藤真由美

そのとき口紅つけていたのね

最初にご紹介する佐藤真由美は、1973年生まれの女性歌人です。短歌結社や同人に所属せず口語短歌の世界で活躍する歌人・枡野浩一に影響を受け、短歌作りを開始。2000年に作品集『高円寺南4丁目16-13』で、短歌研究社主催「うたう」作品賞を受賞しています。

この煙草あくまであなたが吸ったのね そのとき口紅つけていたのね
縁あって隣で寝てる人がいてわたしのものにならないらしい
マスカラがくずれぬように泣いている女を二十五年もやれば

1首目の歌からは、「そうだよね~浮気じゃないよね! この煙草もあなたが口紅つけて吸っただけだもんね(笑)」と、内心怒りに燃えつつも、あくまで平静を装って恋人を問い詰める女性の姿が浮かんできます。
佐藤真由美の短歌に出てくる主人公は皆、物分かりのよい、自立した大人のオンナ。しかし、だからこそ2首目や3首目のように、常にどこか“2番目の女”感が漂います。好きな人に「君は強いからひとりでも大丈夫」なんて言われ、それを否定できずにフラれてしまうタイプのようにも思えます。

まあいっか わたしが可愛いことなんて わたしひとりがわかっていれば

一方でこの歌は、これまでに恋愛で幾度も味わったであろう苦い思いを断ち切るような、ポジティブでカラッとした1首。きっと、こっぴどくフラれてお酒を飲みながらつぶやいたひと言なんだろうな……。そんな想像までさせられてしまいます。
甘え下手で負けず嫌いなオンナの気持ちを代弁してくれるような佐藤真由美の短歌に、つい共感してしまう女性は少なくないのではないでしょうか。

 

歌集『プライベート』

プライベート
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“わたし”は、他人からどう見えているのだろう――細溝洋子

見知らぬ人にとってのわたし

地下駅の鏡に映る一瞬が見知らぬ人にとってのわたし
待つときの立ち位置常に迷いつつドアが開けば人に遅れる
人の靴見比べているわれの靴も誰かに見られながら 地下鉄

細溝洋子ほそみぞようこは、短歌結社「心の花」に所属する歌人です。上記の3首は、2008年に発表した歌集『コントラバス』の中の作品。
“わたし”から離れて他者の目で“わたし”を見ているような、自分を徹底的に客観視した作風が細溝洋子の歌の特徴です。ラッシュアワーや電車を待つ行列といった日常の中で、自分と他者の境界が曖昧になるような一瞬を捉え、その違和感を繊細な言葉で短歌にしています。

「はい?」という口癖指摘されてより私はわたしの言葉見張りき

人に口癖を指摘されて以来、そればかり気になり、自分で自分の言葉を“見張る”ようになってしまった……。神経質と言われればそれまでですが、間違ったこと、他人と違うことを自分ひとりがしているのではないかと気になってしまうという感覚には、きっと心当たりのある方も多いはず。

次々に芯が出てくるえんぴつの芯、と私を思う日のある

「えんぴつの芯」のように、さまざまなキャラクターを場に応じて使い分けることで、日々を乗り越えている自分。その姿は他人から見れば“普通の女性”かもしれませんが、“普通の女性”でいるためには、自分を自分で見張り続けなければならないのでしょう。やさしい言葉で詠まれた歌だからこそ、その中に漂う、現代の女性が抱える諦めや生き辛さが際立ちます。

 

歌集『コントラバス』

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絶対に結ばれない相手に惹かれる気持ち――俵万智

突然に女便所で振られた私 (1)

日本でもっとも有名な女性歌人、俵万智。1987年に発表した第1歌集『サラダ記念日』は、歌集としては異例となる280万部のベストセラーを記録しました。

「この味がいいね」と君が言ったから七月六日はサラダ記念日

短歌はあまり知らなくても、この歌は学生時代に習ったので覚えている、という方も多いはず。爽やかでほのぼのとした歌を詠む歌人というイメージが強い俵万智ですが、意外にも彼女は、愛憎入り交じるドロドロした短歌も詠んでいるのです。

この時間君の不在を告げるベルどこで飲んでる誰と酔ってる
さりげなく家族のことは省かれて語られてゆく君の一日
愛することが追いつめることになってゆくバスルームから星が見えるよ
焼き肉とグラタンが好きという少女よ私はあなたのお父さんが好き

……これらの歌から浮かんでくるイメージは、妻子ある男性を好きになってしまった女性の叶わない恋。特に最後は、「焼き肉とグラタン」という健全な言葉と「あなたのお父さんが好き」というショッキングな言葉の対比が、恋心の切実さを強調するような切ない1首です。

かつて筆者の知人が、「俵万智の歌は不倫しているときが一番響く」とつぶやいていたことがあります。叶わぬ恋に身を燃やしたことのある女性はむしろ、「サラダ記念日」ではない、俵万智のドロドロした短歌のほうに惹かれてしまうのかもしれません。

 

歌集『サラダ記念日』

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歌集『チョコレート革命』

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モテない女子の赤裸々な独白――狩野聡子

突然に女便所で振られた私

2009年に歌集『若草色の便箋』でデビューした歌人・狩野聡子かのうさとこ。彼女の歌の特徴は、なんと言ってもその“フラれっぷり”にあります。

ようやくに返信なきこと受け入れて失恋する日今日と決めたり
人づてに君の気持ちを聞きしときわれは一瞬石になりたり
約束を破られしことまたありてさびしさ積もるしずかに積もる

どの歌からも、なんでそんなに、と思うくらいストレートにフラれている様子が見て取れます。女性に冷たくされる男性の情けなさを歌った短歌は数多くあれど、男性にみじめにフラれるさまを正面から歌った女性の短歌というのは、他にあまり類を見ません。

弟が「家」と言うときその家は我が家ではない妻と住む家
二十代に出産なしとわが気づく高校入試に落ちしごとしも
『若草色の便箋』より

弟が先に結婚して家庭を築き、一方の自分は30歳を目前にして「20代で出産することはないんだ」と気づく……。そんな独身女の悲哀を、狩野聡子は自虐的に、どこかユーモアも感じさせる文体で描きます。しばらく恋愛から遠ざかっている女性やなかなか交際が長続きしない女性には、突き刺さるような歌ばかりではないでしょうか。

おわりに

女性の短歌と言えば、幻想的で美しくほのぼのとしたもの――。そんなイメージを覆すような「こじらせ短歌」を、皆さまはどのように鑑賞されたでしょう。きっと、あるある、と笑ってしまう歌も、自分の境遇や思い出と重ね合わせて辛い気持ちになる歌もあったのではないかと思います。

落ち込んだときや日々に疲れてしまったとき、本棚から好きな歌集を手に取ってページをめくると、少しホッとできることがあります。今回ご紹介した4人の女性歌人の作品をきっかけに、皆さまもぜひ、自分の気持ちにフィットするような短歌を詠む、お気に入りの歌人を見つけてみてはいかがでしょうか。

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