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【知ることから始めよう】LGBTQを描いた小説7選

レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシャル(両性愛者)、トランスジェンダー(身体上の性別に違和感を持った人)、クエスチョニング(自分の性別や性指向が定まっていない人)といった、性的少数者の総称“LGBTQ”。 そんなLGBTQを描いた文学作品を紹介します。

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L=レズビアン(女性同性愛者)、G=ゲイ(男性同性愛者)、B=バイセクシャル(両性愛者)、T=トランスジェンダー(身体上の性別に違和感を持った人)、Q=クエスチョニング(自分の性別や性指向が定まっていない人)といった性的少数者の総称、“LGBTQ”。 昨今、生まれながらの性別にとらわれない性別のあり方を見直す動きが活発になっている傾向にあるため、LGBTQという言葉を耳にする機会も多くなりました。

実際に一部の先進企業では、LGBTQの方々に向けた就職説明会を開いたりと、社会全体で働きやすい環境づくりが始まりつつあります。

今回はそんなLGBTQを題材とした小説を紹介します。

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【ゲイ小説】小説と同性愛の関係を読み解く

 

1.「女になるのも大変よね」/『キッチン』

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出典:http://amzn.asia/g4H4LSK

【あらすじ】
唯一の肉親であった祖母が亡くなり、天涯孤独の身となった“みかげ”。何も手につかない状況の中、みかげは同じ大学に通う雄一と出会う。雄一の誘いにより、みかげと雄一、雄一の母親のえり子の奇妙な3人暮らしが始まった……。

吉本ばななのデビュー作、『キッチン』の主人公、みかげに救いの手を差し伸べた雄一の家族、えり子は戸籍上の性別は男性ですが、妻との死別以来、女性として生きることを決めています。

「みかげさん、うちの母親にビビった?」
彼は言った。
「うん、だってあんまりきれいなんだもの。」
私は正直に告げた。(中略)
「しかもさあ、わかった?」本当におかしくてたまらなそうに彼は続けた。「あの人、男なんだよ。」

えり子との初対面で、魅力的な女性という印象を抱いたみかげ。しかし、みかげが去った後に雄一から実は父親であることを告げられます。当初は驚いたものの、みかげはえり子と交流を深めるうち、明るさに魅かれていきます。

「女になるのも大変よね。」
ある夕方、唐突にえり子さんが言った。(中略)
「みかげはみどころありそうだから、ふと言いたくなったのよ。あたしだって、雄一を抱えて育てあげるうちに、そのことがわかってきたのよ。つらいこともたくさん、たくさんあったわ。本当にひとり立ちしたい人は、なにかを育てるといいのよね。子供とかさ、鉢植えとかね。そうすると、自分の限界がわかるのよ。そこからがはじまりなのよ。」

ある日、えり子はみかげに対し、自分の人生哲学を語り始めます。明るく振る舞うえり子でしたが、一人息子を育てながら数々の困難を乗り越えたという背景がありました。不幸を自慢するのではなく、そこから学び得たものを伝えようとする姿勢は、さまざまなものを失って途方に暮れていたみかげに生きる力を与えます。

自ら強い意志を持って、女性としての人生を選んだえり子。その生き方に感動する方も多いのではないでしょうか。

 

2.「私のこと、どれくらい、好き?」/『ミシン』

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出典:http://amzn.asia/j9KhgWn

【あらすじ】
吉屋信子の『花物語』との出会いをきっかけに、少女趣味、懐古趣味に興味を持った“私”。偶然にも目にした音楽番組でパンクバンドの女性ボーカル、“ミシン”に一目惚れした“私”は、彼女と親密になることを熱望するのだった。

少女趣味をもとにした作風でも知られる作家、嶽本野ばら。デビュー作、『ミシン』には、「エス」という女性同士の特別な関係が描かれています。

主人公の“私”は、吉屋信子の少女小説『花物語』を心のバイブルとする女子高生。同級生たちが夢中になる流行りのものには目もくれず、ただひたすらに『花物語』で描かれる「エス」の関係に憧れを抱いていました。

そんな“私”はある日、パンクバンドの女性ボーカル、ミシンの存在を知ります。音楽番組の司会者に悪態をつき、暴力的なパフォーマンスを見せた彼女に釘付けになった“私”は、ミシンが偏愛するファッションブランドの服を買い込んだり、「特別な関係になりたい」と神社で願掛けをするといった行動に出ます。

“私”の行動はエスカレートし、挙げ句の果てには不慮の事故で亡くなったギタリストの代わりを探すオーディションに、嘘のデモテープを送ってまで参加。周囲が呆れ果てるなか、“私”はミシンの独断によりバンドへの加入が決定します。

「私のこと、どれくらい、好き?」
私は返答が出来ませんでした。だって、どれくらいといわれても……。深夜に御百度参りするくらい好きとは、本人を眼の前にしてはとても恥ずかしくていえません。
「私の為だったら、親、兄妹を殺せるくらいに好き?」
私の目には何故だか、涙が溢れてまいりました。私は「はい」といいました。

異性はもちろん、同性にもがっかりすることばかりだった“私”の人生は、ミシンとの出会いによって大きく変わりました。自分に自信が無いために「エスの関係になりたい人がいたとしても、私とはそんな関係になれるはずがない」と決めつけていた“私”の初恋相手は、いつでも自分のことを気にかけてくれるミシンでした。

そしてミシンもまた、満たされない思いを抱えながら生きる、ひとりの少女です。彼女たちはお互いにとってかけがえのない存在となりますが、それは性別にとらわれない、「一緒にありたい」という思いが実った結果でしょう。

 

3.「お前を愛してるんだ」/『愛が挟み撃ち』

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出典:http://amzn.asia/9rrRfCS

【あらすじ】
京子と俊介は、結婚6年目を迎える夫婦。子どもを望み、妊活を続けるものの俊介の無精子症が発覚する。なんとしても子どもが欲しい俊介は、「共通の古い知人・水口から精子をもらう」という驚くべき提案をするのだった。

第158回芥川賞候補作、『愛が挟み撃ち』は一組の夫婦と、かつての友人による奇妙な三角関係を描いた作品です。

自身の無精子症を知った俊介は、学生時代の親友、水口の力を借りた子作りを思いつきます。当初こそ反対していた京子でしたが、「見ず知らずの人の遺伝子よりは良いだろう」と納得し、水口と体を重ねることとなるのでした。

もともと俊介と水口は友人でしたが、京子と水口はかつて恋人関係にありました。京子をめぐって水口と揉めて以来、15年にも渡って連絡を絶つことを選んだ俊介は、「京子と子供を作ってくれ」と頼み込むこととなります。

やがて、水口は俊介を愛していたことを明かします。その想いに気づかなかった当て付けに、俊介が好意を抱いていた京子と付き合った水口。その一方で、表面上は恋人関係でありながらも、俊介への思いを断ち切れない水口への当て付けとして京子は俊介と結婚。表面上は良好な関係に見えていた彼らには、そんな思いがありました。

「お前、京子のこと捨てたのか?」
俊介の言葉は思いの外冷たく響いた。水口はジョッキを見つめている。
「だってしょうがないじゃないか」
絞り出すように言った。何がしょうがないのか、俊介にはわからなかった。
「お前は、俺も、京子も、傷つけた」
自分でも想像していなかった言葉を俊介は口にした。
水口との仲は深く、京子のことはほとんど知らない。なのに京子が自分の中でとても大きくなっていた。それは単に京子が女で、水口が男だから。つまり性欲が、こつこつと時間をかけ築き上げた強固で構築的な友情を、津波のような性欲が、短時間に圧倒的に飲み込んでしまった。
「やっぱり、どうしても」水口はそこで言葉を切った。
次に水口が何を言うか、俊介には判っていた。
「お前を愛してるんだ」

俊介と京子、水口の関係の根底には、愛と嫉妬が渦巻いています。作品の主題である「愛は存在するのか」という疑問について、彼らはどんな答えに行き着くのか。その衝撃的な結末をぜひ、確かめてください。

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4.「きみはわたしと同じ素材から出来ているんだよ」/『ハーモニー』

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出典:http://amzn.asia/5dbwjGw

【あらすじ】
2019年に起こった世界的な混乱をきっかけに、徹底的な医療福祉社会へ移行した近未来。そんな社会に反逆する姿勢を見せようと、ミァハ、トァン、キァンの女子高生3人は自殺を目論むも、ミァハだけが死んでしまう。その13年後、トァンは突如として起こった集団自殺事件の裏に、死んだはずのミァハの存在を感知するのだった。

2007年に作家デビューするも、病によりわずか2年で亡くなった作家、伊藤計劃。その遺作『ハーモニー』は、新たな統治機構“生府”の管理下において争いや病気が排除されたユートピアが舞台の作品です。

そう口上を述べると、ミァハはさらに信じられない行動に出た。
わたしの手の甲に口づけしたのだ。
瞬時に手を引っ込めたけれど、もう遅かった。わたしの手にはミァハの唇の感触がはっきりと刻まれていた。
冷たい。
いちばん最初に思ったのはそれだった。ミァハの唇は冷たかった。そしてそれは、まったく不快ではなくて、むしろ気持ちのいい後味がわたしの皮膚の細胞と細胞のあいだでこだましている。ミァハはすでに交差点の向こう、わたしの家の方向とは別の辻にわたっていた。
「きみはわたしと同じ素材から出来ているんだよ、霧彗きりえトァンさん」

『ハーモニー』で描かれる高度な医療経済社会は一見、素晴らしい環境のようにも見えますが、これは「社会に生きる人々そのものさえも、平穏な社会を作るための公共のリソースとして見なす」ことでもありました。

ひょんなことからクラスメートのミァハと出会ったトァンは、交流を深めるうち、彼女に心酔するように。圧倒的なカリスマ性を持ち、昔の社会に関する知識にも造詣が深いミァハは、トァンの友人、キァンの心をも掴みます。やがてトァンとキァンは、ミァハの誘いに乗り、「大人になったら、自分の存在を他人に管理されてしまう」運命に逆らう目的から自殺を図ります。

ふたりは、自分たちが生府の管理下におかれることから逃れられないと思い込んでいました。しかしミァハとの出会いをきっかけに、自殺で「社会へ反抗」が可能であることを知り、憧れの対象であるミァハと運命を共にしようと決意します。

彼女たちの目論見は失敗に終わり、ただひとり命を落としたミァハ。しかし、13年後に起こった世界的な混乱を調査するうち、トァンは死んだはずのミァハが事件に関わっていることを知ります。世界を恨んだ、かつての友人の思惑が明らかになったとき、読者は大きな衝撃を受けることでしょう。

 

5.「ねえ、もう——死んじゃおっか?」/『ピーターパン・エンドロール』

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出典:http://amzn.asia/gle5WDD

【あらすじ】
自分の生きる世界そのものを虚構だと思い込む女子高生、真央。ある日、真央は不思議な雰囲気を持つ少女“旅人さん”と出会う。真央は旅人さんと心を通わせていくうち、自分の残酷な事実を知ることに……。

日日日あきら作『ピーターパン・エンドロール』の主人公、真央は自分の存在に疑問を抱きながら、虚構にも思える世界に生きづらさを感じています。ある日、偶然にも薔薇の匂いを漂わせる不思議な少女に出会い、彼女を“旅人さん”と呼ぶように。他人はおろか、自分自身でさえもはっきりと認識できない真央でしたが、浮世離れした“旅人さん”に強く惹かれていきます。

「ねえ、もう——死んじゃおっか?」
どこか楽しそうに、旅人さんは言いました。
埃と泥で汚れきった私の周囲には、今日も変わらない田園の風景が広がっています。緑と土は匂いも豊かに命を主張していて、太陽を背にして鳥たちの群れが空を通過していきます。揺れる雑草。転がった農具。時間が停止したみたいに動きのない世界。
旅人さんとわたしはそんな世界の隅っこで、呼吸も忘れて見つめあっていました。

現実に興味を持てない一方、虚構の存在に魅力を感じる真央は、現実に縛られずに自由に振る舞う“旅人さん”に憧れていました。しかし、“旅人さん”もまた、生きづらい世界に苦悩し、ときに自殺願望を抱く少女です。自殺をそそのかされた真央は一瞬でも“旅人さん”と死ぬことに「甘美なご褒美」を感じるも、死の恐怖からその誘いを撥ねつけます。

また、真央はクラスメートの小島さんから好意を持たれていることを知ります。それも、友情ではなく、異性として。そのきっかけは、不器用ながらも失恋に涙する彼女を励まそうとした真央の優しさでした。高校生という、大人と子どもの狭間に生きる少女たちの、同性への特別な眼差しがリアリティを持って描かれる『ピーターパン・エンドロール』。大人にならなければいけないときを迎えた真央と、彼女の下した決断に、読者はひりつく痛みを味わうはずです。

 

6.「でも俺さあ、ヒカルのこと好きだよ。本当に」/『夏の約束』

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出典:http://amzn.asia/64Peo6L

【あらすじ】
ゲイのカップル、マルオとヒカル。男性から女性へトランスセクシュアルである美容師のたま代。「8月になったら、キャンプに行こう」という約束をした彼らは、周囲との違いをどこかで感じながら、夏を迎えようとしていた。

第122回芥川賞受賞作である『夏の約束』は、ゲイのカップルやトランスジェンダー、その友人といった若者たちのひと夏の出来事を描いた作品です。

登場人物のひとり、マルオは人前であっても堂々と同性の恋人のヒカルと手をつなぎます。時に心ない一言を浴びせられても、当たり前の反応として受け入れています。そんなヒカルはおおらかさを持った人物にも思えますが、どこか諦めているようにもとらえられます。

「ねえ、二人の貯金がもう少し貯まったら、すぐにどこか部屋を見つけようよ。敷金・礼金と引っ越し代、全部じゃなくても、足りないぶんはお互い出し合えばなんとかなるでしょ。早いほうがいいよ。どうせ一生暮らせるわけじゃないんだから」
ヒカルがピンクのティッシュをくしゃっと丸めてちゃぶ台の上に置いた。表面に脂じみが浮かんでいて、それはずいぶん汚らしいものに見える。
「一生暮らすわけじゃないんだ」
言って、マルオはこん棒型のチキンにかぶりついた。パックの二つだけ混ざっている辛口のほうかと思ったら、ただのプレーンな味だ。
「一生暮らす気、ある?」
ヒカルが愛らしいえくぼを作って可笑しそうに言う。
「わかんないね」
マルオは正直に言って笑った。「でも俺さあ、ヒカルのこと好きだよ。本当に」
「うん」
ヒカルは小さくうなずいた。

そんなマルオは、ヒカルと一生関係を続けることを約束していません。マルオの本心は不確実なことを無責任に誓う点ではなく、「好きだよ」の一言に集約されているのでしょう。いつまで一緒にいられるかわからない、不安定な関係であっても、ヒカルに対する感情は嘘偽りないもの。そんなマルオとヒカルの関係性に、作者の藤野千夜は優しく寄り添っているのです。

 

7. 夢を、夢のままで終わらせちゃいけないんだわ。/『ロマンシエ』

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出典:http://amzn.asia/7AtYRdy

【あらすじ】
見た目は超イケメン、心は乙女な美術系男子、道明寺美智之輔みちのすけ。アーティストを目指して美術大学へ進学するも、「男は男らしく」と息子を厳しく育ててきた有名政治家の父との間には溝が生じていた。やがて美智之輔は芸術の都、パリに留学。そこで美智之輔を待ち受けていたものとは……?

美術館のキュレーターとして働いていた経験をもとに、アートを題材にしたさまざまな作品を執筆している作家、原田マハ『ロマンシエ』の主人公、美智之輔は恋愛対象が同性であり、同級生の高瀬君を一途に想い続けています。

しかし美智之輔は想いを告げられないまま、夢だったアーティストになるべくパリへ留学することに。そこで美智之輔はリトグラフ(水と油の反発作用を利用した石板画のこと)と出会い、その奥深さに感動するのでした。

美智之輔はファッションやインテリア、食べ物など、身の回りの物に強いこだわりを持つ、乙女のような男性。そしてモノローグにまで女子っぽさが徹底されているキャラクターです。

美智之輔はパリ留学が自分の予想していたものと全然違っていたことにショックを受けながらも、理想に近づくための努力を惜しみません。

アトリエも、瀟洒しょうしゃなアパルトマンも、ゴージャスなシャトーも、全然遠過ぎるけど……。通っているのはボザールじゃなくてボーゴスだけど……。
それでも、毎日、クレヨンや絵筆を手にして絵を描ける。毎日だって、美術館に行ける。思う存分、芸術的な空気を吸える。好きなだけ、妄想できる。
そうだ、せっかくパリに来たんだから、一生懸命フランス語とデッサンを勉強して、たとえば一年後にボザールの入試に挑戦すればいいんだ。
夢を、夢のままで終わらせちゃいけないんだわ。
そう気がついて、がぜん、やる気になった。

父親から反対されても、美智之輔は自分の夢を諦めることはしませんでした。年上の女性と結婚させ、政治家を継がせようとする父親を振り切る美智之輔は、自分のやりたいことに素直に生きています。そんな生き方に自由な美智之輔が、恋に夢に奮闘する『ロマンシエ』は笑って泣ける、素敵な1冊です。

 

LGBTQを描いた小説に共通しているのは、自分らしく生きるということ。

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LGBTQを題材にした小説のキャラクターたちは、自分の生き方に疑問を持ちながらも、「本当にしたいことは何か」を追求しています。そしてそんな生き方は多くの人から共感を集めています。

ぜひ、そんなLGBTQを扱った小説をきっかけに、お互いを理解しあえる社会づくりに参加してみてはいかがでしょうか。

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