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【『明け方の若者たち』ほか】この冬映画化される、“とっておきの恋愛小説”3選

この冬、『明け方の若者たち』(カツセマサヒコ)、『真夜中乙女戦争』(F)、『君が落とした青空』(櫻いいよ)という、10代から高い支持を得ている3作の恋愛小説が相次いで映画化されます。今回は、この3作品のあらすじと読みどころをご紹介します。

寒い季節になってくると、心に沁み入るような恋愛小説が読みたくなる──という方は多いのではないでしょうか。この冬、10代を中心に支持されている3作の恋愛小説が、相次いで映画化されます。

1作目は、12月31日に公開される『明け方の若者たち』(カツセマサヒコ)。中央線沿いの街を舞台に繰り広げられる、切ない恋を描いた作品です。

また、2022年1月にはTwitterのエモーショナルなつぶやきで若者からの支持を集めている文筆家・Fによる『真夜中乙女戦争』が、そして2022年2月には、新進気鋭の小説家・櫻いいよによる青春恋愛小説『君が落とした青空』が公開となります。

今回は、これら3作品のあらすじを詳しく紹介しつつ、その読みどころを解説していきます。

『明け方の若者たち』(カツセマサヒコ)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B09LH1JZZ6/

『明け方の若者たち』は、インフルエンサーとして14万人以上のフォロワーを持ち、作家・Webライターとしても活躍しているカツセマサヒコによるデビュー小説です。世田谷区明大前で開催された退屈な飲み会で出会ったふたりの男女の、5年間にわたる“沼のような”関係を描いています。

主人公の“僕”は、内定を勝ち取ったばかりの大学生。同じように内定が決まっている学生たちによる“勝ち組飲み会”と称された飲み会を抜け出そうか迷っていたとき、その場で出会ったばかりの女性から、1件のメッセージが届きます。

「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」

その十六文字は、僕の人生で最も美しい誘い文句だった。ずっと探していた何かが見つかったような、一ピースだけ欠けていたパズルがハマるような、心地良い快楽が電気信号となって、全身を駆け回る。苦しさに似たそれが喉を突き破って暴れ出しそうになって、慌てて画面から目を離した。

ふたりはそのまま近くの公園で、コンビニで買ったハイボールを片手に飲み直します。ちょっとした会話や仕草をきっかけに、彼女にどんどん心惹かれていく“僕”。彼女は自由奔放でミステリアスな女性でしたが、そんな性格も“僕”の恋心に拍車をかけるのでした。

彼女が喜ぶような奇跡の一枚を撮りたくて、デートに行くときは必ず「写ルンです」を買うようになった。二十七回だけ、彼女は僕の言うことを聞いてくれた。

本当に単純な性格で呆れるけれど、散々使い古されたJ-POPの歌詞のように、これまで飽き飽きするほど退屈だった日常が、彼女と出会ってからは全てが真新しく見えるようになっていた。ホームレスが寝ていた新宿西口のガード、サラリーマンが行き来する八重洲地下街、スクランブル交差点の雑踏、秋葉原の電気街、五反田のスナック、吉祥寺のハモニカ横丁、池袋のボウリング場。いずれも僕らのために輝いて、僕らのためにそこにあった。「世界が薔薇色に見える」とかいう陳腐な表現がこんなにも的確に当てはまってしまうことを、もはや恥ずかしいともおもわないほどに、僕はひたすらに浮かれていた。

なにをしていても常に相手のことを考えてしまうような、恋愛の最初期における特別な時間のきらめきが、本作では詳細かつリアルに描かれています。“僕”は、彼女と過ごした時間を“人生のマジックアワー”と表現します。

人生を賭けるような片思いを一度でもしたことがある方は、きっと“僕”の思いの痛々しいほどの切実さに共感してしまうはず。読み進めるごとにヒリヒリとした気持ちになる、特別な1冊です。

『真夜中乙女戦争』(F)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B09L7HYRSN/

『真夜中乙女戦争』は、文筆家・インフルエンサーとして活動するFによる小説です。

本作の主人公は、未来に希望が持てず、自堕落な生活を送っている大学1年生の“私”。彼は、人生のなかで一度たりとも、人と愛し合ったり信頼し合ったりしているという実感を持ったことがない人物です。

もし大学一年生の四月の頃の自分に戻れたならば、どんな後悔を大人は語るだろう。
「もっと写真を撮っておけばよかった」「もっと日記を書いておけばよかった」「安さだけで服や家具など買うべきではなかった」という後悔があれば、「好きなバンドのライブには行くべきだった」「寂しさだけで人に会いに行っておけばよかった」「もっとだめなお酒をだめに飲んでおけばよかった」という後悔もある。「体力がある内に夜更かししておけばよかった」「執念がある内に読書しておけばよかった」「気概がある内に旅に出ておけばよかった」なんてありきたりな後悔もあれば「紳士淑女の振りなどせずあの夜セックスしておくべきだった」「一度や二度は危ない恋愛をしておくべきだった」なんてあられもない後悔まで存在するに違いない。(中略)
なんと素敵で、なんとくだらない人生なんだろう。

幸いなことに、これらの後悔と私は生涯無縁だ。

“好きなことがなにもない”ことに悩み鬱屈としていた“私”は、ある日、大学4年生の聡明で美しい女性、“先輩”に恋をします。“先輩”と一緒に東京タワーに行くことに成功した“私”は、その晩、「いつか東京タワーを滅ぼす前夜には私に連絡してね。燃える東京タワーとか、インスタにアップしたいから」というメールを受け取ります。

同時期、“私”は大学のなかで異色の存在であった“黒服”という男と知り合い、意気投合します。“黒服”は悠々自適に暮らしている謎の男でしたが、「東京なんてぶっ壊れてしまえばいい」という思想を持っている点は、“私”と同じでした。

独特の存在感とカリスマ性を持っている“黒服”は、“私”を含め、同じような考えを持っている者を集めて組織を作ります。そして、「東京を破壊する」という冗談のような計画が、“黒服”率いる組織によって徐々にエスカレートしていくのです。

本作は、壮大でドラマティックな犯罪計画と“先輩”への恋心とのあいだで板挟みになる“私”の姿を、疾走感溢れる文体で描きます。恋をしたことがない若者が人に心惹かれていくさまを描いた純粋な恋愛小説としてはもちろん、犯罪計画に巻き込まれる登場人物たちを描く一級のエンターテインメント小説としても楽しめる作品です。

『君が落とした青空』(櫻いいよ)


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B019WU0HJW/

『君が落とした青空』は、ケータイ小説サイト『野いちご』を中心に活動している新進気鋭の作家・櫻いいよによる恋愛小説です。本作は櫻いいよの初の書籍で、サイト掲載時から、女子中高生を中心に大きな支持を集めていました。

本作の主人公は、高校生の少女・実結。実結には修弥という、付き合って2年になる同級生の恋人がいます。ふたりは校内でも有名な仲のいいカップルですが、実結は、修弥と自分が周りから流されるようにして付き合ってしまったこと、そして修弥から一度も「好き」と言葉にしてもらったことがないことを気にしていました。

修弥とのデートは、月に2回ほど映画を見てファストフードを食べるというお決まりのルートばかり。さらには、修弥が深夜にほかの女子と街を歩いているのを見た実結は、自分が本当に彼女と言えるのか悩んでしまいます。

修弥の話しやすい性格と、さりげない優しさを考えれば、モテるのだって納得できる。欠点があるとすれば、少し短気なことくらい。
そして……彼女の私はといえば、普通。
特別かわいくもないし、自分で言うのもなんだけど、不細工でもない……と思う。目だって二重で小さいわけじゃないし、スタイルだって、そこそこ。だけど、それだけ。
(中略)
“なんで、修弥はそんな私と付き合っているんだろう?” “私でいいの?”と、不安に思うことは、たびたびあった。

ある日の放課後、些細なことで修弥と言い争いになり、険悪なムードのまま帰ることになってしまった実結。そんなとき、衝撃的なことが起こります。なんと、目の前で修弥が交通事故に遭ったのです。

「おい……! 男の子が轢かれたぞ!」
「救急車……!」

私の横を、何人もの人が通りすぎて、視線の先に集まっていった。
なにかをさけびながら走る人もいれば、戸惑い気味に友達と向かう人もいたけれど、みんな向かう先は一緒。
歩道に乗りあげて止まったままの大きなトラック。その周りに集まっていく人たちは、みるみるうちに大きな塊になっていく。
そばにいるのに私ひとりが、なにが起こっているのか理解できず、まるで時間に置いていかれたように、動けないまま立ちすくむ。考えることはできるのに……現実味がない。まるで、体と心が別々になってしまったかのように。

唖然とする実結ですが、さらに驚くべきことが起こります。そのまま意識を失った実結は、気がつけば見覚えのある天井を眺めて朝を迎えていました。実結は事故のショックをきっかけに、修弥がトラックに轢かれてしまうその日をタイムリープするようになってしまったのです。

本作では、実結がタイムリープを繰り返しながら、どうすれば修弥が事故に遭わずに済むのかを試行錯誤するとともに、ふたりの関係を改善していこうとする様子が描かれます。交通事故やタイムリープというモチーフそのものは、読書好きの方にとってはすこし月並みで物足りないものに感じるかもしれません。しかし、本作の最大の読みどころは、本来は両思いであるはずの恋人の心がわからないという普遍的な悩みを、どこまでも等身大で描いている点です。10代らしい葛藤や焦燥感をリアルに味わうことができる1作です。

おわりに

今回ご紹介した3冊の恋愛小説はどれも、長編にしては比較的短く、読みやすい章立てとやさしい言葉遣いで書かれているので、ふだんあまり読書をしない方が最初に手に取るにもおすすめの作品です。

劇場版を観る予定の方は、先に原作小説も読んでみると、作品の背景や登場人物たちの心情への理解がより深まるはず。これら3冊は、ストーリーはバラバラでありながらも、人生を賭けるような唯一無二の恋を描いている点は共通しています。ぜひ3冊を読み比べ、お気に入りの1冊を見つけてみてください。

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