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【音楽のある毎日を】音楽をテーマにした小説5選

 音楽は、人の心を豊かにしてくれます。演奏する喜びはもちろん、自分で演奏しない人の中にも、好きなバンドやアーティストの音楽を聴いて元気になる人も多いでしょう。
 今回は、音楽を奏でる楽しさや音楽のやりがいを伝えてくれるような、音楽をテーマにした小説を5作品紹介します。

音楽をテーマにした小説5選

 吹奏楽や合唱、バンドなど、音楽を演奏した経験のある人は多いでしょう。部活やサークルではやっていなくても、ほとんどの人が音楽の授業で合唱や合奏をした経験があるかと思います。また、演奏する側ではなくても、クラシックのコンサートが好きな人や、応援しているアーティストの曲をいつも聴いている人もたくさんいます。そんな音楽好きな方々へ、美しいメロディーが聴こえてくるような、音楽の素晴らしさを再確認できる小説5選を紹介します。

 

ドビュッシーの調べにのせて贈る殺人事件――『さよならドビュッシー』(中山七里)

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【あらすじ】
特待生として音楽科への推薦入学が決まっている香月遥は、ピアニストを目指して日々レッスンに励んでいた。しかしある日、同じくピアニストを志す従姉妹の片桐ルシアと共に、香月家の離れで火災に巻き込まれてしまう。全身に重度の大火傷を負いながらも遥だけが一命を取りとめたが、思い通りに動かない体と、自分だけが助かってしまったことによるショックは大きい。ピアニストの夢も諦めそうになったが、岬洋介という男が彼女のレッスンを引き受けようと名乗りをあげた。

 第8回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作品である『さよならドビュッシー』は、2013年に映画化、2016年にテレビドラマ化もされている、中山七里による推理×音楽の長編小説です。ピアニスト・岬洋介が登場する「岬洋介シリーズ」の第1作で、次作には『おやすみラフマニノフ』があります。

 小さい頃からピアニストだけを目指して練習に励んでいた香月遥。ある日、従姉妹の片桐ルシアと祖父と共に火災に巻き込まれ、何とか一命は取り留めたものの、指ひとつ動かすことすら重労働に感じてしまうほどの、酷い全身火傷を負ってしまいます。

 なんとしても元のレベルまで回復させてコンクールに出場しなさいと言う母親に連れられて、ピアノでの指のリハビリを試みるものの、以前教わっていたピアノ教室の先生にも呆気なく断られてしまう遥。そんな中、彼女のレッスンを買って出たのが、岬洋介という、国内の名だたるコンクールで賞を総なめにしているピアニストの男でした。

脳裏に今は亡き人たちの面影が過る。みんな、あたしがピアニストになることを応援してくれていた。今、逃げることを選択したら彼らに合わせる顔がない。そして何よりも自分自身に。(中略)
「あたし、やります。ピアニストになりたいんです。」

 思うように動かない体に苦しみながらも、それでも過酷な練習に耐えピアニストを目指すことを選んだ遥は、岬の丁寧で厳しいレッスンを続け、周囲で次々に起こる親族の死不吉な出来事に悩まされながらも、コンクールに出場します。
 練習とリハビリを繰り返しても指の力が演奏の最後まで続かないことに悩み、曲を削って綺麗な演奏をすることも考えた遥ですが、指に力が入らなくなっても、椅子から立ち上がり全身の力を指先に乗せて弾くことで、コンクール本番の演奏を弾き切ったのでした。

「審査員も観客も君の名前なんかには興味がない。君のピアノ、君が曲に込めた想いに共鳴したんだ。あんなドビュッシーは君にしか弾けない。それは、君だけが持ち得る力だ。音楽の神様が君だけに許した力だ」

 魂を込めて死に物狂いでピアノを弾く遥の姿は審査員の心に響き、なんと優勝を飾ります。型にはまった演奏ではなくても、聴く人の心を動かすことができたらそれは素晴らしい音楽であるといえます。
 苦しい試練に耐え抜き見事優勝を飾った遥に、岬が静かに親族の死の謎を説明し始めます。次々に香月家を襲った不吉な出来事の真相とは……。音楽×スポ根×ミステリの3つが絶妙に混ざり合ったハイブリッドと絶賛される、衝撃の小説です。

 

パンクロックは、大学受験よりも大切だ。――『ミュージック・ブレス・ユー!!』

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【あらすじ】
赤く染めた髪に野暮ったいメガネ、歯にはカラフルな矯正器をはめた高校3年生、オケタニアザミ。数学が大の苦手で追試や補修に追われ、進路は何一つ決まらないまま、ただ時間だけが過ぎていく、ぐだぐだで面白味のない日常の中でも、音楽だけはいつも色褪せずにそこにあった。パンクロック好きの女子高生が過ごす、なんでもない日々の日常を綴った愛おしい物語。

 『マンイーター』で第21回太宰治賞を受賞したり、『ポトスライムの舟』で第140回芥川賞をはじめとする数々の文学賞を受賞してきた、作家・津村記久子による『ミュージック・ブレス・ユー!!』は、2008年に第30回野間文芸新人賞に輝いています。決して派手な展開があるわけではないけれど疾走感のある、音楽に生きる少女の青春小説です。

 主人公のアザミは、授業中やアルバイト中以外のほとんどの時間をヘッドホンを着けて過ごす、海外のバンドミュージック好きの女子高生。成績は最低で追試や補修の常連で、慣れない人と話す時には何を話したらいいかわからず失敗することも多い、優秀とは言い難い学生でした。

 所属しているガールズバンドでは、海外の男の曲なんて感情移入できないから、と好きな曲を取り上げてもらうこともありません。数少ない友人のチユキにも、どの曲も揃いも揃って同じような歌詞ばかり歌っている、となかなか趣味を理解されませんでした。

音楽のことだけを考えている時、アザミの頭の中でアザミはアザミ自身でなかった。(中略)それでもアザミは、音楽が鳴っている間は自分が自分でなくなることができるという妄想を捨てることができなかった。

 たとえ周りの人に理解されなくても、アザミは大好きな海外バンドの曲を聴き続けます。その音楽を聴いている時だけは、自分がアメリカだかカナダだかにいる、「女の子がつれない」という内容の歌をプレイするバンド少年になっていると錯覚できるのでした。

 アザミは、人とは違う自分の趣味人付き合いの下手さから、同年代の女の子たちを遠い存在だと感じていました。その現実から逃避するように、ヘッドホンを手放さずずっと音楽に没頭します。

慣れない人と話す時にはなにを喋ったらいいのかわからないまま、垂れ流すように失敗することの多いアザミだったが、こと音楽に関してだけはちゃんと話すことができた。(中略)いつも自分は半人前だという思いに囚われているアザミも、そういう瞬間にだけは、同じ世代の人の仲間入りをしていると思うことができた。

 他のクラスの気さくな男子と電車で鉢合わせになった時に、アザミがバンドのことばかり話しても彼が変な顔をせず、楽しそうに相槌を打ってくれたことに、彼女は内心喜びます。

 自分の好きなことを話す時間は至福の時です。普通はなかなか理解されない趣味が共通点であれば、すぐに相手と仲良くなれることもあるかもしれません。マイナーな音楽が好きな人も、そんな自分に自信を持って、アザミのように少しだけ勇気を出して誰かと趣味の話をしてみてはいかがでしょうか。

 

今しかできない演奏がある。――『楽隊のうさぎ』(中沢けい)

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【あらすじ】
“「君、吹奏楽部に入らないか?」「エ、スイソウガク!?」” 学校にいる時間をなるべく短くしたい、引っ込み思案の中学生・克久。誘われるまま入部した吹奏楽部は2年連続で全国大会に出場していて、練習が厳しいことで有名だった。音楽経験のない克久だったが、パーカッションパートに配属され、普門館で行われる全国大会を目指して練習を重ねるうちに、次第に音楽の魅力に引き込まれていく。

 中学生の部活という青春真っ盛りの輝きを描いた『楽隊のうさぎ』。2013年には映画化もされるなど幅広い世代に愛されている小説で、2010年のセンター試験問題にも取り上げられました。吹奏楽経験のある人や学生からはもちろん、青春時代を思い出したい大人の世代からも高い人気を誇る作品です。

 学校にいる時間をなるべく短くしたいと思っている克久は、先輩に誘われ、学校内でも練習時間が長く厳しいと有名の吹奏楽部に入部してしまいます。変わったところのある同期のしょうちゃんとふたりで初心者ながらも練習を重ね、個性豊かな部員たちと一緒に全国大会を目指すのでした。

 吹奏楽大会の地区予選は夏から始まります。初めての大会に緊張する一年生を前に、顧問で指揮者の森勉は、いつも言っている言葉を繰り返し励まします。

「ステージに入ったら、君たちは演奏家なのだから、ちょろちょろ動くな。きょろきょろするな。どっしり構えろ。」

 それぞれがちょっとした失敗をしながらも上々の演奏をした克久たちの学校は順調にいくつもの予選を勝ち抜き、11月に普門館で行われる全国大会に臨みます。

 ホルンのファンファーレから始まる「ラ・マルシュ」を奏でながら、克久は50人の仲間の努力信頼を背負って自身がしっかりとそこに立っていることを実感します。引っ込み思案孤独な少年が、吹奏楽での経験を通じてひと回りもふた回りも成長した姿が描かれています。

音楽は演奏を終えてしまえば消えてしまうものであるし、音楽があったからと言って世の中の何かが変わるというものでもないけれど、一人の人間を確実に変える力はある。

 音楽には、目に見えるものではないからこそ人の深い部分にまで良い影響を及ぼすことができる力があります。音楽を聴くことでも、演奏することでも、心が豊かになるとよく言われますが、それをこの小説では様々な悩みを持つ不安定な時期中学生たちを通じて見事に表現しています。

 音楽を通じて自身の成長を感じた経験のある人も多いかと思います。吹奏楽やバンドの経験がある人はもちろん、音楽を演奏したことがない人にもぜひ読んでほしい、音楽の魅力を再確認できる一冊です。

 

アーモンド入りチョコレートのように生きていく。――『アーモンド入りチョコレートのワルツ』(森絵都)

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【あらすじ】
ピアノ教室に突然現れた奇妙なフランス人のおじさんを巡るストーリーを描く「アーモンド入りチョコレートのワルツ」。海辺の別荘でひと夏を過ごす少年たちの物語、「子どもは眠る」。不眠症の少年と虚言癖の少女の淡い恋模様を綴った「彼女のアリア」。シューマン、バッハ、そしてサティのやさしいピアノの調べに乗せておくる、心にきゅんとくる短編小説集。

 第46回産経児童出版文化賞を受賞した『カラフル』や、第52回小学館児童文化賞を受賞し映画化・アニメ化を果たした『DIVE!!』など、数多くの名作を世に送り出してきた森絵都による、少年少女の儚い思い出を描いた珠玉の短編小説集です。どこか懐かしさを感じるような、丁寧に描かれた子供たちの葛藤が魅力的な作品です。

 大人しい性格奈緒と、奔放な性格君絵。ふたりは、高級住宅街の中でもひときわ華やかな洋館に住む絹子先生の元へ、ピアノを習いに通っていました。ふたりが中学生になったある日、ピアノ教室へ絹子先生の旧友だというフランス人のステファンが現れます。白い肌、緑の瞳、銅色の髪、そしてなにより朗らかで陽気なおじさんを、ふたりはいたく気に入り「サティのおじさん」と呼んで慕いました。

 日本語が通じなくても、奈緒のピアノを聞いてフランス語で何やら称賛の言葉を口にしながら拍手をするサティのおじさんは、ピアノ教室に通っているのにピアノを弾かずに歌ってばかりで、酷い時はソファに寝っ転がって漫画を読んでいる君絵に、あなたはなぜピアノを弾かずに歌うのか、と問いかけます。

「あたしは、ピアノよりうたうほうが好きだから、うたうんだ」
 ぴんと胸を張って言ってのけた。

 自分の好きなように堂々と音楽を楽しむ君絵を見て、サティのおじさんは、日本にもこんな子がいるとは思わなかった、と身振り手振りで君絵を褒め称えます。

 ふたりが通うピアノ教室では、毎年12月に発表会を開催するのが恒例でした。奈緒が選んだ曲は、緩やかなワルツ。君絵は、奈緒の伴奏に合わせてオリジナルの歌を披露します。曲名は、「アーモンド入りチョコレートのワルツ」

顔をしかめたり首を激しく揺すったり、そんなヤボな真似はワルツには似合わない。ただ十本の指を気ままに躍らせてあげる。それだけでいい。あとはピアノが音色を運んでくれる。メロディーが自由に羽ばたいていく。

 気ままに自由に踊るワルツのリズムのように、穏やかで楽しい毎日を過ごすことを夢見る人も多いでしょう。死ぬまで自由な生き方をすることは難しくても、毎日を楽しくするためのスパイスに、この本を手に取ってみてください。

 

僕にしか聞こえない音がある。――『ジュンのための6つの小曲』古谷田奈月

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【あらすじ】
学校では「アホジュン」と呼ばれ、友達は一人もいない少年・ジュン。でも、孤独ではなかった。ジュンだけに聴こえる音と、ジュライと名付けた自転車、そして、同級生であるトクのギター、名前を「エイプリル」。作曲家を志すトクと、自身が楽器と同様に音楽を奏でる側の存在であると気付いたジュンは、音楽という特別な世界で少しずつ共鳴し合っていく。音楽に愛された二人の少年の物語。

 第25回日本ファンタジーノベル大賞を受賞し改題した『星の民のクリスマス』でデビューし、注目を集めている古谷田奈月『ジュンのための6つの小曲』では「音」『望むのは』では「色」のように、芸術的な様々なモチーフを自在に操った、真っ直ぐで心温まる作風の小説が人気の作家です。

 主人公の少年・ジュンは、音楽に生きる中学生。変わった言動のせいで、学校では“アホジュン”と呼ばれ馬鹿にされていますが、ジュンにとっては気に掛けるようなことではありません。ジュンは、生活の中の全ての音を愛し、自分だけの楽曲を作って、日々を楽しんでいました。

 ジュンにとっては、シャツに腕を通す摩擦音も、朝食のトーストを噛み鳴らす音も、鏡に向かっておはようと告げる自分の声も、全てが楽曲の素材でした。年頃らしい悩み事を気にする暇もなく、気になる物音が聴こえてきたらすぐにその音を元に曲を作るのです。

何をやっても、何を言っても、すべてが今日という楽曲の一部として組み込まれてゆく。ジュンにはそれが、嬉しくて仕方がない。

 河川敷でこっそりギターを弾いていたクラスメイトのトクと知り合い、ふたりが時間を共有するようになってから少し時間が経ったある日のこと。音楽のテストの練習をしていたふたりを、クラスメイトの男子たちが馬鹿にしにやって来ます。黙ったままでいるジュンを殴りつけて去っていった悪ガキたちに、ジュンの“ヤバさ”を見せつけようと、トクは涙を流しながら提案しました。

「俺が完璧な曲を書く。お前とエイプリルが完璧に歌う。あいつらのナメ切った態度を、一発で改めさせる歌だ」

 音楽のテストで課題曲ではなく自分が作ったジュンのための歌を歌わせることで、ジュンの音楽の才能を世界に知らしめようと提案したトク。殴られても馬鹿にされても別にいい、と気にせずにいたジュンも、トクの真剣な態度に胸を打たれ、ふたりはふたりだけの曲を練習しはじめます。

 音楽という共通点がなければ話すこともなかったようなふたりが音楽を通じて少しずつ絆を強め、力を合わせて逆境に立ち向かっていく、まさに“音楽の力”を感じられるストーリーです。優しい文体で綴られる、音楽を愛した少年の姿に思わずほろりとしてしまう一冊を、ぜひ手に取ってみてください。

 

おわりに

 音楽を通じて成長する主人公の姿や、人生をかけて音楽に打ち込む主人公の姿に、共感を覚えた人も多いでしょう。

 音楽の経験がある人もない人も、音楽を聴いてふと素敵な思い出を思いだしたり、音楽に勇気づけられたことがあるかと思います。ぜひ、作中に登場する曲を聴きながら本を読む、穏やかな時間をお楽しみください。

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