本との偶然の出会いをWEB上でも

長岡弘樹『教場2』出版記念インタビュー!「具体性」をストーリーの細部に宿らせる執筆術とは?

15

週刊文春2013年ミステリーベスト10で堂々の一位を獲得した前作、『教場』の衝撃から3年、2016年2月25日にシリーズ第二作となる『教場2』が発売となりました。

そこで今回P+D MAGAZINE編集部は、『教場』著者である長岡弘樹先生をお迎えし、「学校警察小説」という枠組みにおける様々な試行錯誤や、風間教官をはじめ登場人物たちの実在のモデル、さらには『教場』シリーズの「過去」と「これから」についてお話を伺いました!

 

 

「警察学校小説」の可能性と制約

—— これまでにも警官小説はたくさんありましたが、警察学校を舞台に選んだ最初のきっかけは何だったのでしょうか。

長岡: 誰も書いていないということ、前例が無かったことが1番でしたね。警察学校が舞台のミステリーはありそうでなかった。そこが、自分でやってみようと決心した一番のポイントです。

—— 実際に取材を進めていくなかで、物語の筋に手応えを感じられたのはいつ頃でしょうか。

長岡: かなり早い段階からですね。これは面白そうだな、という手応えはあったと思います。なかでも一番面白いと思ったのは、学生が教官から理不尽なことを言われるということ。例えば、ゴミ箱にゴミを捨てただけで怒られてしまったりだとか、布団のシーツが少しでもずれていたら畳み直せと窓からシーツを捨てられたりだとか、そういったエピソードがあったようです。

そのような理不尽なことを言われて学生がどんどん精神的に追い詰められていくという筋書きが思い浮かんで、「これは小説になるな」と感じました。さらには、取材を進めるなかで、そもそも携帯電話が取り上げられていたり、外出にも細かいルールがあったりと、警察学校という舞台が密室的な働きを持っていることも意識するようになりました。

—— 長岡先生は作品として、ある程度場面が限定されている密室的なミステリーと、警察や探偵が足を動かして舞台が広範囲に渡る行動派のミステリーとではどちらがお好きなのですか。

長岡: おそらく密室的な方が僕は好きだと思います。その方が短編という形式にも合っているようにも思います。ただ、使える材料が限定されてしまっている分、書くことは難しいですね。その限定された材料でどうシーンを面白く組み立てるかというところがチャレンジのしどころかなと。

 

「小ネタ選び」から膨らませるアイデア

—— 「素材が限定されている」と仰いましたが、本当にひとつひとつのエピソードに登場するアイテムが多く、それが後々の伏線になっているという仕掛けになっていますね。各エピソードのアイデアは「どんなアイテムを登場させるか」という観点から膨らませるのでしょうか。

長岡:まさにその通りで、「このキャラクターからこの話を作ろう」ということはなくて、例えば『教場』1作目の最初のエピソードであれば、「洗剤からどのようにガスを発生させるか?」というところからアイデアがスタートしています。話の元となる素材選びについては、本当にいつも苦労する部分ですね。「このアイテムは警察学校にはないだろう」と泣く泣く使わなかったものもあります。

伏線の散りばめ方に関して言えば、その場では目立った書き方をせず、読者になんとなく程度に意識させるにとどめたまま読み進ませて、というところはテクニックとして要求されていると思います。自分でも苦心するところでもあります。

5

 

—— 各話のなかで、それまでの伏線が一点に収斂していくどんでん返し的なクライマックスの瞬間があり、そのままエピソードが突如結末を迎えるところからも、読者に余韻を与えて「その後」を想像させる要素があるなと感じました。こういった構成術は、やはりミステリー短編の書き手としての腕の見せ所なのでしょうか。

長岡: 作品ごとに手を変えることもありますが、最初はそんなテクニックを使う余裕はありませんでした。ただがむしゃらに頭に浮かんだことをただ書き連ねていましたね。ある時からこうした方が読者が余計なものを読まずに済むということを考えるようになりました。それからは流れを重視し、意識的に無駄なことは書かない、と気をつけるようになりました。その分、説明不足な点は後からさりげなくフォローするやり方が好きですね。

今は、話の流れが停滞してしまうのが嫌なので、あまり本筋に関係ない部分には文字数を割かないスタンスで書いています。読者に想像してもらう、というのも自分の創作のスタイルです。

謎解きの核となる「人間心理」

—— 警察学校という体育会系な環境のなかでも、謎解きには「理系ミステリー」的な要素が関わるエピソードが第一作からありましたが、『教場2』ではその印象がさらに強まったように感じます。

長岡: そうですね。科学的なことは短編ミステリーのネタとして十分使えることが多いので、理系の話題には興味を持っています。とくに面白いのが心理学ですね。人間心理を兆候として体に表出させることで、相手の嘘を見破ったり、事の真相を明らかにする謎解き要素としても扱えるのが面白いところです。

逆に小説で心理を扱う難しいところは、ビジュアル的に上手く表現する点ですね。人間の気持ちという、形でないものを扱うのはやはり難しいです。絵として表現できるものではないので、それをいかに上手く小道具か何かに乗り移らせて表現させるのか、見えるもの、物で分からせるのかに苦労しています。

—— 2作目に登場するアイテムで、特に上手く心理を乗り移らせられたというものは何でしょうか?

長岡: 4話の最後のシーン、プロジェクターを使ったところですね。人物の気持ちを一枚の「絵」として全て分からせるような演出ができました。そういう演出ができたら成功だと思いますし、それが良い小説でもあると思います。なので、心理描写と小道具との関係が難しさでもあり、面白さでもありますね。

3

 

(次ページに続く)

記事一覧
△ 長岡弘樹『教場2』出版記念インタビュー!「具体性」をストーリーの細部に宿らせる執筆術とは? | P+D MAGAZINE TOPへ