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『サイコパス』の著者 話題の脳科学者 中野信子おすすめ4選

脳科学の視点から、人間の振る舞いを解明したり、人々の悩みに明快に答えることで人気の中野信子は、メディアのコメンテーターとして活躍中で、著作も多く発表しています。そんな著者のおすすめエッセイ4選を紹介します。

『ヒトは「いじめ」をやめられない』生物の本能であるいじめ。きれいごとではない、真の対処法とは


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 とどまることがない、いじめ問題。法整備が進んでも、根本的な解決に至らないのは、ヒトはそもそも、集団において異質な分子を排除したがる生物だからだとか。IQが世界全人口の上位2%に入る者に入会資格があるMENSAの元会員であり、学生時代、賢すぎるという「異分子」だったため、学校で憂き目に遭うこともあったという著者が、いじめの起こるメカニズムと有効な対処法を探ります。

対応策を考える上では、いじめは常にある、人の集まるところでは、必ず起こりうるという意識を持つことが大切です。脳科学的には、人の脳にはいじめをするための機能が組み込まれている可能性は非常に高いのです。それは、人間の歴史として、人間がこれまで進化し、生き残ってくるために必要不可欠だったからです。異分子を排除するというのも集団が壊れるのを防ぐためですし、異端者をただすというのも、集団が間違った道に進まないようにするということです。“いじめ”という行為は、種を保存するための本能に組み込まれている。そう捉えれば、この本能をどうコントロールするのかという方向に、解決のベクトルが向かっていきます。個人的には、いじめという、凄惨なことを起こしうる機序であっても、こうしたことが起こりうる人間の特性というものを、段階的ではありますが、学校でも学ぶことが必要だろうと思います。

 いじめをする子に、他者への想像力を説いたところで、ヒトが他者への共感力を持てるまで脳が発達するのは30歳前後。小学5年から中学2年にかけていじめが激化するのは、男子においてはホルモンの分泌による仕業。こうなると、正義感や教師の指導でいじめがなくなるはずがないことが分かります。いじめがなくならない以上、それを上手く回避するしかないわけですが、その際のキーワードは「流動性」、「適切な距離」、「第三者の目」などです。
 本書では他に、団結のために行う学校行事の後でいじめが増える理由、新任女性教員が母親からクレームをつけられやすい理由と対策など、子を持つ親や教職員にとって、気になるトピックが満載です。

『キレる! 脳科学から見た「メカニズム」「対処法」「活用術」』キレやすい他者に悩むあなたへ、実践的アドバイス


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 本書は、脳がキレる「メカニズム」、キレやすい他者や自分への「対処法」、相手に傷付けられたとき、我慢せずに効果的にキレてみせる「活用術」の3つから成っています。
 まず、「メカニズム」編。ヒトが瞬間的にキレるのは、アドレナリン等の脳内物質の仕業で、持続効果はないため、その場を離れるのが有効だそうです。しかし、慢性的にキレやすいのは、脳の前頭前野の働きが関係しているといいます。前頭前野は、ヒトの感情や理性を司る部分で、飲酒や睡眠不足、老化などで機能が低下したときと、それとは反対に、前頭前野の機能が強すぎる人もキレやすくなると著者は指摘します。

理性的な行動を促す前頭前野の機能が強すぎる場合も、相手に過剰に攻撃する言動につながることがあります。最も恐ろしいのは「自分には怒る正当な理由がある」と判断した場合です。なぜなら怒りがどんどん加速してしまうからです。実は、こうしたキレ方の方がより激しく、恐ろしいのです。正義感から制裁行動が発動するとき、脳内にはドーパミンが放出され、快感を覚えることがわかっています。自分は正義を行っているという満足感から、攻撃することに中毒になってしまっている状態になので、止めることが難しいのです。ドーパミンが出ている状態では、言葉で諭したり、一瞬その場を離れたりしたくらいでは、攻撃を避けることができません。ですから、ドーパミンが放出されている状態の怒りからはできるだけ“逃げるが勝ち”です。

 キレやすい人とは距離をとった方がよいのですが、職場や家庭でどうしても避けられない場合もあるとして、その「対処法」と、自分がキレてみせる「活用術」を詳述します。上司に嫌味を言われた場合、身内にだけ強く当たる家族がいる場合など様々なケースを想定し、上手なかわし方を紹介しています。また、著者自身の体験談として、子どもを持ちたいと思わない著者に対し、「どうして子どもを産まないの?」と聞かれた際に、相手を黙らせた痛快な切り返し方も書かれてあり、今日からでも使える実践的な1冊となっています。

『「嫌いっ!」の運用』運のよい人は「嫌い」の直感を大事にする


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 食べ物にせよ、人にせよ、誰しも持っている好き嫌い。世間的には、好き嫌いは克服すべきものとされていますが、その常識を疑ってみることから本書はスタートします。
 

私たちは、子供の頃から、友達は多ければ多いほど褒められ、食べ物は好き嫌いせず、何でも食べましょうと言われて育ちます。だからでしょうか。好き嫌いを表現するとわがままだと言われ、人に対して嫌悪感を示そうものなら、心が狭い人だと捉えられてしまうことが多いように思います。私はそんな社会の風潮をずっと、不思議に思っていました。率直に、嫌いなものは嫌いではいけないのでしょうか。嫌いになるには、嫌いになる理由があるはずなのです。「嫌い」という感情は、自分を守るために非常に大事なものだからです。自分にとって必要ないもの、もしくは害になるかもしれないものを回避するために不可欠の動機づけです。危ない事物には近寄らないでおくための、大事な感情でもあります。つまり、「嫌い」は脳に備えつけの重要なアラーム機能なのです。

「嫌い」という感情の発露は、人間の防衛反応だという著者。社会で成功している人は、この「嫌い」という直感を大事にしていると述べていますが、最初は嫌だと思ったけれど、やってみたら意外と楽しかった、というよりは、動物的な勘で最初に嫌だと感じたものは、やはりその通りだったということが多いという経験則を持っている人もいるのではないでしょうか。著者はまた、実在の2人の研究者を比較し、苦手分野でも頼まれた仕事は断らない人と、自分の苦手分野を自覚して、自分の得意な面を伸ばしていった人では、後者の方が業績をあげていることから、嫌いなことを無理に好きになろうとするのがいかに不毛な努力かということを示唆しています。
 日頃は蓋をしている、自分のなかの「嫌い」という感情に向き合うきっかけをくれる1冊です。

『悪の脳科学』人間は簡単にだまされる。騙されやすい人とそうでない人の違いとは


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 ネット社会において、より複雑化・巧妙化している詐欺の手口。メディアでは連日のように事件について報道していますが、被害者は後を絶ちません。著者は、そもそも脳はそれほど完璧ではなく、過信しない方がよいと言います。

心という機能を生み出す脳を、胃や腸などの他の臓器と比較すると、不思議なほど、完成されているとはいい難いものなのだ。消化器や循環器が不完全であったら、生命を維持することはできない。しかし、脳は違う。脳は環境やインプットされる情報によって大きく変化する。たとえば、まったく異なる外国に移住しても、その異なった環境に適応して脳が生存戦略を変更することが可能である。もし、脳も他の臓器と同じように可塑性(かそせい)が小さく環境による変化が起こりにくいものであれば、いま述べたような環境の変化は人間の生死に直結する問題となりかねない。つまり、人間が生きていくための戦略変更を柔軟におこなうために、脳だけは他の臓器と違ってつねに未完成である必要があるのだ。

「あるべくして不完全である」という特性に加え、多量のエネルギーを必要とする脳は、本来怠け者で、自分で思考するよりも誰かから命令されることを好む傾向にあるとも指摘します。これら脳の性質を踏まえると、私たちが、「意志の力」で騙されないでいようとするのは無理な話で、事実、「意志の力」ほどあてにならないものはない、と著者は言います。
 本書では藤子ふじこ不二雄ふじおⒶによる漫画『笑ゥせぇるすまん』を題材に、人を陥れるプロである主人公・黒福造ぐろふくぞうが、どのような人をターゲットに選び、いかに対象の心の隙間に入り込むのかを検証していきます。騙す側のテクニックを知ることで、騙されにくい脳を目指そうという趣旨です。

メタ認知能力の高い人は騙されにくい。それは、自分を客観視して「人間とは、そもそも騙されやすい生きものだ」ということを理解しているからだ。逆に、どんなに高学歴・高知能指数でもメタ認知能力の低い人は「自分だけは騙されない」という誤った認識を持つ傾向が強く、結果的に騙されてしまうかもしれない。自分を客観視できるか、それとも自分だけの安全神話に振り回されるか。あなたを騙そうとする罠に対して可能な限りの対策が打てるかどうかは、その違いによって決定的となるのである。

 メタ認知能力とは、自分を俯瞰で見る力のことですが、この能力を鍛えるためには、何を心がければよいのか、本書でその答えが見つかるでしょう。
 他に、保険金殺人をする女性が必ずしも美女とは限らないのに、どうして男性は騙されてしまうのか、とか、一度詐欺に引っかかった人が、懲りるどころか何度も被害に遭ってしまうのは何故か、などといったことにも、納得の回答が示されています。

おわりに

 いじめ、怒り、詐欺などの人間の心のダークサイド。中野信子の本を読めば、それらが努力や気の持ちようで何とかなる問題ではないことに気づきます。大切なのは、精神論ではなく科学的エビデンスに基づく正しい対処法を身につけることかもしれません。中野信子の著書にはそのヒントが詰まっていると言えるでしょう。

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