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【十津川警部シリーズほか】西村京太郎の“極上の鉄道ミステリ”4選

2022年3月に逝去したミステリの巨匠・西村京太郎。その膨大な作品群の中でも、特に人気を集めたのが“鉄道ミステリ(トラベルミステリ)”です。今回は、『終着駅殺人事件』や『夜行列車殺人事件』など、西村京太郎の選りすぐりの鉄道ミステリを4作品紹介します。

2022年3月に永眠したミステリの巨匠・西村京太郎。敏腕刑事が活躍する「十津川警部」シリーズや社会派推理小説など、数多くの人気作品を生み出しましたが、鉄道ミステリ(トラベルミステリ)は特に多くのファンから愛されています。

今回は、そんな西村の“鉄道ミステリ”の中でも、ストーリーやトリックが光る傑作を4作品選りすぐってご紹介します。

『終着駅(ターミナル)殺人事件』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B009SZ1VRY/

終着駅ターミナル殺人事件』は、1980年発表の長編小説です。本作は、年間を通してもっとも優れた推理小説に贈られる日本推理作家協会賞(第34回)にも選出された人気作。『名探偵コナン』の作者・青山剛昌が自著の中で西村京太郎のおすすめ作品として本作を紹介しているなど、西村ファンの中にも、本作を最高傑作として挙げる人は少なくありません。

本作は、寝台特急の旅に出るために集められた7人の若者が次々と不可解な死を遂げていく──という、いわゆる連続殺人ものです。7人を集めたのは、弁護士見習いの男・宮本孝。宮本は高校時代、6人の仲間とともに新聞クラブに所属していました。卒業式の日、彼らは「7年経ったら、全員で故郷の青森に帰ろう」という約束を交わします。宮本はその約束に従い、卒業から7年後の年、東京・上野駅発、青森駅着の寝台列車「ゆうづる7号」の切符を同封した手紙を6人に宛てて送っていました。

宮本の手紙を読み、4月1日の夜に上野駅に集った同級生たちは、再会を喜びます。しかし、7名のうちのひとり・安田章だけは約束の時間になっても現れませんでした。ほかの6人が青森に向かう寝台列車に乗り込んだ翌朝、彼が上野駅のトイレで何者かに殺されていたことが発覚します。さらには、翌日から次々と新聞クラブのメンバーたちが不審死を遂げていくのです。

事件発生と同じ頃、警視庁捜査一課の刑事・亀井は、現在は教師をしている青森出身の旧友から、自分の教え子の女性が2年間消息不明になっているため、行方を捜査してほしいと依頼されていました。亀井とその上司の十津川警部は、この奇妙な失踪事件と7人の連続殺人事件との関連性を見出し、捜査を始めます。

トラベルミステリらしい緻密なトリックも魅力的ですが、何より本作を盛り上げているのは、舞台である上野駅に対し、東北出身の登場人物たちが抱いている特別な思いです。亀井刑事は、上野駅の構内を“どこか東北の匂いがする”場所だと言います。

“上野の町は、浅草と並んで、もっとも東京らしい場所のはずだが、上野駅に入ると、ここの構内はどこか東北の匂いがする。
毎日、北から到着する列車や、乗客が、東北の匂いを運んで来るからだろう。”

宮本は、集団就職に伴って上京したばかりの頃は、東北の匂いを感じる上野駅にあまり近づかないようにしていた、と述懐します。

“上野駅の持っている東北の匂いが、自分の弱気を助長させ、尻尾を巻いて、青森へ引き揚げさせるのが怖かったのだ。”

本作の舞台となった1980年代と現在とでは駅の外観や街並みは大きく異なるものの、上京した経験を持つ人にとっては、どこか共感を覚える言葉なのではないでしょうか。そして、彼らが列車の“終着駅”である上野駅に抱く感慨こそが、事件の大きな鍵を握っているのです。ストーリーや登場人物たちのキャラクター、犯人の意外で哀しい動機など、どれをとっても面白い、傑作ミステリ作品です。

『寝台特急(ブルートレイン)殺人事件』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B009SZ1VWO/

寝台ブルー特急トレイン殺人事件』は、寝台特急の近年の人気の秘密を探るために、寝台特急「はやぶさ」に乗車した記者が出くわす殺人事件を描いた長編小説です。本作は1978年に発表された小説で、初期は社会派推理小説や誘拐事件ものなどを多く書いていた西村が、本格的にトラベルミステリに移行した1作目の作品といえます。本作はトラベルミステリブームの火付け役としても知られており、のちに、西村は『名探偵なんか怖くない』に収録された小説家・綾辻行人との対談の中で、本作を自選のミステリベスト5にも選出しています。

物語は、ブルートレインの愛称で呼ばれる夜行寝台列車ブームの秘密を探るべく、週刊誌記者・青木が、東京発西鹿児島行きの「はやぶさ」に乗車するところから始まります。列車のなかを歩いていた青木は、美しい顔立ちの22、3歳の女性に出会います。8号室から出てきたその女性は薄茶色のコートを羽織っており、何か心配事でもあるかのような陰りのある表情をしていました。青木は彼女の写真を雑誌に掲載させてほしいと頼み込み、持ってきたカメラで女性の姿を撮ります。

食堂車で食事をとったあと、カメラを置き忘れてしまったことに気づいた青木はすぐに自分のいたテーブルに戻りますが、不可解なことに、女性を写した写真のフィルムが何者かによって抜き取られてしまっていました。青木は食堂車で相席になった高田という弁護士の男を疑いますが、彼はそんなことはしていないと否定します。

深夜、酒を飲んで車内で眠っていた青木が目を覚まし、8号室の前を通ったとき、そこから見覚えのない女性が出てくるのを目撃します。8号室の乗客が薄茶色のコートの女性ではないことを奇妙に思った青木は、彼女がなんらかの事件に巻き込まれた可能性があると車掌に訴えますが、車掌は信じてくれません。異変を感じ、車内を徘徊していた青木は、なんといま自分が乗っている列車は「はやぶさ」ではなく、同じく東京発西鹿児島行きの寝台列車、「富士」だということに気づくのです。

男が乗ったはずの寝台列車がいつの間にか入れ替わってしまった──という魅力的な謎は、東京で起きた女性の溺死事件、そしてある有名政治家の汚職事件という、より大きく不可解な謎につながっていきます。見落としてしまいそうなほどの些細な違和感を鍵にひとつひとつの謎が解き明かされていくさまは、まさに良質なミステリだけが持つ醍醐味です。

『夜行列車(ミッドナイト・トレイン)殺人事件』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp /B009SZ1VY2/

夜行ミッドナイト・列車トレイン殺人事件』は、1981年発表の長編小説です。物語は、3月某日、国鉄総裁の秘書・北野が、総裁宛てに届いた不可解な投書を読むところから始まります。その投書にはたった4文字、“夜行列車”という言葉だけが書かれていました。不思議に思いつつも、ただのいたずらだろうと気に留めなかった北野ですが、翌日以降、“午前三時”、“爆破決行”、“四月吉日”と書かれた同じ筆跡の手紙が連続して届いたことで不審に思い、捜査一課の十津川警部に捜査を依頼します。

似たような手紙が送られてきたことがあるかと尋ねる十津川に、北野は、脅迫まがいの手紙は日常茶飯事だが、この投書からは妙な冷静さが感じられて薄気味悪い──と語ります。

“「冷静な感じがですか」
「そう思いませんか。たとえば、この手紙の主が、国鉄に怒りを感じて、夜行列車を爆破してやろうと思っているとします。普通なら、それを、もろにぶつけてきますよ。総裁に手紙を書くんだって、怒りに満ちた手紙になるはずです。また、そんな手紙を書くことで、怒りが発散してしまって、実際の行動に移らずにすんでしまうんじゃありませんか? ところが、この投書の主は、まるで判じものみたいに、四回に分けて、送りつけてきたんです」”

ただ事でなさを感じた十津川警部は国鉄当局と連携し、予告された爆破事件を未然に防ごうと、東奔西走します。

一方その頃、東北では奇妙な殺人事件が起きていました。恋人に見送られ、東京発鳥取行きの寝台列車「出雲1号」に乗ったはずの男・藤代が、なぜか青森駅で死体となって発見されたのです。藤代は旅行マニアで、国鉄全線に完乗することを目指し、国内のさまざまな土地を旅して回っている最中でした。死んだ藤代の腕時計を調べると、不思議なことに、爆破予告で言及されていたのと同じ時間、午前3時にアラームが設定されていたのです。十津川警部たちと国鉄当局は、このふたつの事件に関連性があると睨み、捜査を進めていきます。

やがて捜査線上にあがってきた容疑者は、鉄道マニアの中河という男。十津川はほぼ間違いなく彼が犯人だと推測しますが、そのアリバイは堅く、なかなか崩せそうにありません。しかし、十津川と国鉄当局が協力を進めていくうちに、犯人がしかけた巧妙な罠が明らかになっていきます。本作では、鉄道ミステリの醍醐味である、時刻表を用いた予想外のトリックを存分に味わうことができます。

西村京太郎は本作のあとがきで、このようなコメントを残しています。

“なぜか私たちは夜行列車に郷愁に似たものを感じる。夜の闇を引き裂いて疾走する列車に、一夜を共にする乗客は、ある種の連帯感を持つ。しかし、この列車が、したたかな犯罪者に狙われたらどういう事態が発生するだろうか? 乗客は、乗務員は、そして国鉄当局は?”

夜行列車が持つ郷愁や情緒と、いつ爆破事件が起きるかわからないという緊迫感のギャップが、本作をよりユニークで魅力的なものにしています。

『北帰行殺人事件』


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/B009SZ1VXI/

北帰行ほっきこう殺人事件』は、1981年発表の長編小説。東京から青森、北海道を目指す列車と青函連絡船を舞台に繰り広げられる、十津川警部シリーズの人気作です。巧妙で予想外のトリックが味わえる作品の多い西村の鉄道ミステリですが、本作はそれ以上に、“復讐”という最大の動機をテーマとするストーリーが光る1作となっています。

20代の部下・橋本が、警視庁を退職して実家の稚内に帰ることとなり、惜しみつつもそれを受け入れた十津川警部。「明日の12時発のJALで発ちます」という橋本の言葉を聞き、同僚とともに羽田空港に見送りに行きますが、なぜか時間になっても橋本は現れません。予定が変わったのかと首をかしげる十津川でしたが、ほかの同僚から、同じ日に上野駅発の寝台列車「ゆうづる13号」に乗り込む橋本を見かけた──と言われ、不思議に思います。一刻も早く北海道に行きたいはずの橋本が、わざわざ時間のかかる夜行列車を選択する理由がわからなかったのです。

橋本の行動が妙だという話を部下・亀井にしていた十津川は、ふと目に入った新聞に、「ゆうづる13号」の文字があることに気づきます。そこには、まさに橋本が乗っていたであろう「ゆうづる13号」で、刺殺とみられる男の死体が見つかったというニュースが載っていました。間もなくしてその事件の捜査依頼を受けた十津川は、殺された男の死体が異様な格好をしていた──という話を青森県警の警部から聞きます。

“「死体を見てどこか異様だなと思ったんです。最初は、どこが異様なのか、わからなかったんですが、しばらく見ているうちに、わかりました。男の死体なのに、唇に薄く口紅が塗ってあるんです。まるで、学芸会で、男の子が、お姫さまに扮したみたいにです。被害者に、そんな趣味があったとは思えませんから、これは、明らかに、犯人が刺殺したあと、口紅を塗ったものと考えられます」”

死体の状況から推理するに、動機はなんらかの怨恨だろうと考えた十津川。事件を追っていくうちに、実家に帰ると言っていたはずの橋本が消息を絶っていること、そして、橋本がその殺人に関わっているかもしれないということが見えてきます。十津川は、信頼していた部下の信じられないような面に戸惑いながらも、捜査を進めていきます。

十津川たち捜査一課の刑事の人間味と、深い信頼関係を感じられる本作。舞台となっている青森・北海道の景色や、北の地を走る鉄道の魅力を存分に味わえる、旅情あふれる名作でもあります。

おわりに

列車の構造や設備、時刻を利用した唯一無二のトリックはもちろん、さまざまな土地を走る列車の情感も楽しむことができるのが、西村京太郎が綴る鉄道ミステリの良さです。「十津川警部」シリーズをきっかけに西村京太郎に興味を持った方や、ドラマ化された作品を見たことがあるという方もぜひ、今回ご紹介した4作品に手を伸ばしてみてください。日本各地が舞台となっているトラベルミステリは、ちょっとした旅行の最中、列車のなかで読むのにも最適です。

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