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ヤマもオチもないけれど、読んだら忘れられない。大人向けの「ナンセンスな絵本」セレクション

“ナンセンスの神様”、長新太による作品を始め、大きなヤマやオチはないのに何度でも読み返したくなるような、大人向けのナンセンス絵本を4作ご紹介します。シュールで脱力してしまうような展開が続く、唯一無二の絵本の世界をお楽しみください。

思わずほろほろと涙を流してしまうような絵本や、オチにあっと驚いてしまうような絵本もいいけれど、ナンセンスでちょっぴりシュールな絵本を読みたくなることはありませんか? 

今回は、“ナンセンスの神様”、長新太の作品など、大きな展開はないのに不思議と何度でも読み返したくなるような、大人向けのナンセンスな絵本を4作選りすぐってご紹介します。一度読むだけで忘れられなくなる、独特の魅力を持った絵本の世界をお楽しみください。

『わたしのうみべ』(長新太)


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『わたしのうみべ』は、『キャベツくん』シリーズや『へんてこライオン』といったナンセンスな作品を数多く世に送り出し、“ナンセンスの神様”の異名を持つ絵本作家・長新太による絵本です。作家名に聞き覚えがなくても、どこか間の抜けた表情のキャラクターと色鮮やかな筆致を見て、かつて触れたことのある作品を思い出す方は多いのではないでしょうか。

『わたしのうみべ』は、本作の表紙にもなっている大きな青い海を前にして、主人公の“わたし”がこのように語りだすところから始まります。

“わたしは、あさの うみが だいすきです。
だれも いなくて、
なみの おとが しずかにしています。

けさは、きや ビンや ちいさな かいが
ながれついていました。
どこから やってきたのでしょう。”

唐突な始まり方をすることも多い長新太の作品にしては、とても穏やかな印象です。しかし、翌日から、海の様子は徐々に不可思議なものへと変化していきます。

“つぎの あさ、うみべに いくと、
オバケが ながれついていました。
オバケが「おーはーよー、ござーい、まーす」と、
あいさつをしたので、
わたしも「おーはーよー、ござーい、まーす」と、
あいさつをしました。
オバケは、よろよろと いってしまいました。”

なんと、流れ着いていたのはオバケ。それからというもの、大きな木家1軒など、海には次々と、ありえないものばかりが流れ着いていきます。なかでも、公園の“すべりだい”が流れ着いてしまったときの、

“サカナが すべって あそんでいます。
うみの みずも しずかに すべっていました。”

という叙情的でありながらも型破りな描写は、まさに“ナンセンスの神様”の真骨頂とも呼ぶべきユニークさです。

本来は流れ着かないような常識はずれのものばかりが海に現れ、それぞれが奇想天外な動きや会話を見せる本作。大人がひとりでじっくりと読むのにはもちろん、子どもに「次は何が流れ着くと思う?」と問いかけながら読むのにもおすすめの1冊です。

『がいこつさん』(五味太郎)


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『がいこつさん』は、『きんぎょがにげた』などの色彩豊かな絵本で知られる絵本作家・五味太郎による作品です。

本書の主人公は、タイトルのとおり、死んで骨だけになってしまった“がいこつさん”。この“がいこつさん”が、忘れてしまったものを思い出すために、街を歩き回ってさまざまな場所を訪れるというストーリーです。死者が街を練り歩く、という概要からはホラーめいたお話を想像する読者もいるかもしれませんが、本書のストーリーに怖さや驚きはほとんどありません。

物語は、自分の部屋のベッドでがいこつさんが横になっているシーンから始まります。なかなか寝つけないがいこつさんは、

“──なにか 忘れていることがある……”

と考えはじめます。

目覚まし時計をかけ忘れたのか、ろうそくに火を灯し忘れたのか、はたまた洗濯をし忘れたのか──と考えを巡らせるがいこつさんですが、そのどれもが違う様子。街へ出て歩いてみるものの、がいこつさんは自分が何を忘れてしまったのか、なかなか思い出すことができません。

そんながいこつさんを手助けするのが、語り手であるもうひとりの人物です。

“──電話をかけるの 忘れていたかな。”

とがいこつさんが言えば、

“まさか。がいこつさんに 急ぎの用があるわけはない。”

と返し、

“──病院に 予約してあったかな。”

と言われれば、

“まさか。がいこつさんに 病気するところ どこもない。”

と返します。

思わず笑ってしまうようなシュールで軽妙洒脱な会話は、本書の大きな魅力です。同時に、現世にはもはやなんの用事も約束もなく、ただ漫然と過ぎていくだけのがいこつさんの日常の描写からは、カラッとした切なさも感じられます。

最後に明かされる、がいこつさんの“忘れていたもの”は、意外なものでも奇妙なものでもなく、ごく日常的なものです。そのあまりの何気なさも含め、一度読むだけで忘れられない印象を残す1冊になるはずです。

『ねずみのおいしゃさま』(なかがわまさふみ/やまわきゆりこ)


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『ねずみのおいしゃさま』は、児童文学作家のなかがわまさふみ(中川正文)が1950年代に発表した作品です。1977年に『ぐりとぐら』などで知られるやまわきゆりこ(山脇百合子)の挿絵で絵本として刊行されて以来、40年以上も読み継がれるロングセラーとなっています。

本書の主人公は、患者に呼ばれればいつでもどこでも駆けつける、“ねずみのおいしゃさま”。真面目ではあるものの、どこかマイペースで間の抜けたキャラクターの魅力が光る1作です。

ある雪の晩、ぐっすりと眠っていたねずみのおいしゃさまは、“りすさん”の家から、

“ぼうやが かぜを ひいて、ねつを だしていますから、 すぐ きてください”

と電話を受けます。すぐに家を出ようとするおいしゃさまに、外は大雪だけれど大丈夫なのか、と尋ねる“ねずみのおくさん”。

“ゆきぐらい なんでもないさ。 よなかに でかけるのも、いしゃの しごとだよ”

と自信満々でスクーターに乗り込むおいしゃさまでしたが、やがて道中で雪が詰まり、スクーターが動かなくなってしまいます。休めるところを探していると、すぐそばにかえるの一家が冬眠しているほら穴があることに気づきます。おいしゃさまは、

“じゃまを しないから、 しばらく やすませておくれ”

とそのなかに入っていきますが、なんと、ストーブと布団の暖かさにすっかり心地よくなってしまい、朝までぐうぐうと眠ってしまうのです。

救急の患者を迎えにいく、という大変なシチュエーションを切り取っていながら、全体的にほのぼのとしたナンセンスなムードが漂う本作。誰も傷つかない、クスッと笑ってしまうようなストーリーはもちろん、雪に囲まれた動物たちの愛くるしい絵の数々にも心が和む名作です。

『なぞなぞライオン』(佐々木マキ)


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『なぞなぞライオン』は、イラストレーター・絵本作家として活躍する佐々木マキによる絵本です。本書には3篇の短いお話が収録されており、お話はどれも、賢いひとりの女の子と動物たちのユニークな対決を描いています。

表題作の『なぞなぞライオン』は、お腹を空かせたライオンが森で女の子に出会い、女の子から“なぞなぞ勝負”を挑まれるというストーリー。

“あたしの出すなぞなぞに、こたえられたら、あたしをたべてもいいわ”

と女の子が提案したことをきっかけに、女の子とライオンは交互になぞなぞを出しはじめます。

“「では、“目でみないで、口でみるもの”これ、なーに?」
「そんなの、かんたんよ」と女の子がいった。「こたえは“味”でしょ」
そのとたん、ライオンはよろこんでとびあがった。
「わーい、まちがえた。まちがえた」(中略)
「いいかい、おちびさん。おれはこういったんだぜ、“耳できかずに、目できくもの、なーに”ってね。だから、こたえは“めぐすり”なんだよ。おきのどくさま」”

と、ライオンは、ずるをして女の子に勝とうとするものの、女の子は

“「あたしは、とてもきたないのよ。おふろに、ひと月いじょうも、はいってないの」”

と返すことでライオンの食べる気をなくしてしまいます。

絶体絶命の状況でもライオンを飄々とかわしてしまう女の子と、ずる賢い反面どこか気の弱いライオンのやりとりは、まるでテンポのよい漫才を見ているかのよう。機転の利いた返答をライオンに次々とぶつけていく女の子の様子は、爽快かつユーモラスです。

ヘビと早口言葉対決をする『ヘビは、はやくち』、サイとしりとり勝負をする『しりとりなサイ』と、『なぞなぞライオン』以外の2篇も非常に軽妙です。すこし難解な語彙も多く、大人向けの内容ではありますが、毒っ気のあるユーモアを存分に楽しめる1冊です。

おわりに

今回ご紹介した4冊の絵本には、わかりやすいストーリーの起伏や膝を打つようなオチは、基本的に存在しません。読者によっては、淡々とした物語の運びやメッセージ性の薄さに、つまらなさを感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、これらの4冊はどれも、登場人物同士のちょっとしたやりとりや風景の描写が奇妙かつ愛らしく、ページをめくる手を思わず止めて見入ってしまうような作品ばかりです。歳を重ねれば重ねるほど楽しみ方の幅が広がるナンセンスな絵本は、贈り物にもおすすめです。気になった作品があれば、ぜひ手にとってみてください。

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