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女による女のためのR-18文学賞受賞作・おすすめ5選

女性だからこそ描くことができる恋愛の辛さや葛藤を詰め込んだ作品が多く受賞している「女による女のためのR-18文学賞」。今回は、受賞作の中から、5つの物語を紹介します。切なさに共感したい方や女心を知りたい方は必見です。

女による女のためのR-18文学賞2

応募は女性に限定、女性編集者が、第1次、第2次選考を行い、三浦しをんと辻村深月が選考委員として、選ばれた候補作品の中から大賞を決定する、「女による女のためのR-18文学賞」
恋愛をテーマにした作品が多く、時にはドキドキするような濡れ場も登場します。

女性だからこそ描くことができる恋愛の辛さや葛藤を詰め込んだ作品が多く受賞しています。
今回はその中からシチュエーション別に5つの物語を紹介します。切なさに共感したい方や女心を知りたい方は必見です。

【花魁たちの許されない本気の恋愛 -『花宵道中』/宮木あや子】

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著者の宮木あや子は、第5回 女による女のためのR-18 文学賞の大賞と読者賞を同時受賞し、デビューしました。『花宵道中』は、江戸吉原の小見世、山田屋が舞台。遊女たちの切ない秘密の恋愛を綴っています。2009年にコミック化され、2014年には映画化もされています。
書籍のタイトルにもなっており、収録されている短編の第1話である『花宵道中』は、主人公である朝霧が命を絶つシーンから始まります。

【あらすじ】
「男に夢を見せるため、自分の気持ちはなかったことにするのが遊女である」と、誰もが割り切ろうとする吉原という場所。朝霧も誰に抱かれても心が動くことはなかったが、ある日、半次郎という男に出会ってしまい……。

半次郎は朝霧の草履の紐を染めた職人でした。朝霧は山田屋とは関係のない場所で出会った半次郎に運命を感じますが、間夫を作ってはいけないということが吉原の決まりごとです。夢を見させることが仕事と割り切っていたはずの自分が、まさか割り切れない思いを抱き、夢を見てしまっているという事実に苦しみます。

見世にも来てくれない男に、なんの未練があろうか。抱いてもくれない男に、なんの期待をしようか。くちづけてもいない唇がなんの真実を語るものか。朝霧は松の幹に爪を立てる。

「いいかい。お開帳は愛しい人を心に思って、目をつむって、ほかの男に抱かれるんだ」

生きていくためには好きな人以外からお金を貰って抱かれなくてはいけない。朝霧が抱えるどうしようもないジレンマや、人に認めてもらえない恋愛の切なさは、恋愛について悩んでいる方の心を動かします。自由に人を愛することが許されない吉原の背景を知りたい方や、時代小説が好きな方にもおすすめです。

【何年経っても美しくて、忘れられない恋がある-『西国疾走少女』/一木けい】

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連作短編集『1ミリの後悔もない、はずがない』の第1話目となる『西国疾走少女』は、第15回 R-18文学賞の読者賞の受賞作品。4年連続で最終選考に残る実力を持つ著者の一木けいは、本作で作家としてデビューしました。
中央線沿いの西国分寺に住む由井が主人公。彼女の中学時代の初恋の歯がゆさを描いています。

【あらすじ】
同じクラスに転入してきた桐原は、背が高く妙に出っ張ったなまめかしい喉仏をしていた。隣の席になり、少しずつ仲良くなったふたりは、スキー教室での夕食後、真夜中の大食堂で密会をするが、先生にばれてしまい大騒ぎになり……。

大騒ぎになった時、担任は由井と桐原のことを殴ります。桐原は女子生徒に暴力をふるった教師に対して反抗し、ふたりは翌日のレクリエーションも不参加に。そして帰りのバスは最前列にふたりで座らされますが、こっそりと桐原に付き合おうと言われます。
アルコール中毒になった父親に「いらない子供」として扱われていた由井にとって、初めて自分の存在価値を見出してくれた桐原は、由井の世界の光となり、忘れられない人となっていきます。

なぜ桐原に惹かれたのか。どんなに考えをめぐらせても、色気としかいいようがない。色気を感じる相手は人それぞれだろうが、それは感じるものであると同時に、細胞や遺伝子の叫びのような気がする。その男とつがえという自分の核からの命令。

桐原と由井は自然とお互いを必要とし合いました。しかし求め合ったとしても、どうしても離れなければならないこともあります。由井の家庭の事情によって、ふたりの初恋は静かに幕を閉じました。

うしなった人間に対して一ミリの後悔もないということが、ありうるだろうか。大人になった桐原は、どんなふうに携帯電話に触れるのだろう。タバコは喫うだろうか。あれから背はさらに伸びただろうか。今、どんな服を着て、誰といっしょにいるのだろう。

「初恋は叶わない」というジンクス通りの、甘酸っぱい由井の初恋の記憶をたどる物語。大人になって多くの経験をしてきたとしても、本当に大事にされた記憶は忘れないということを、優しく諭してくれるハートフルな連作短編集です。

【この気持ちが理屈で片付けられたら良かったのに-『ミクマリ』/窪美澄 】

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連作長編『ふがいない僕は空を見た』の第1話となっている『ミクマリ』は、第8回R-18文学賞の大賞を受賞しています。著者・窪美澄のデビュー作品で、第24回山本周五郎賞と第8回本屋大賞第2位も受賞しています。主人公の男子高校生・斉藤が人には話せない恋愛に足を踏み入れてしまう切ない恋愛小説で、多くの人から共感を呼び、2012年に映画化もされました。

【あらすじ】
「好きなアニメキャラクターにそっくりだから」と既婚者のあんずにナンパされた高校生の斉藤。無理矢理連絡先を聞かれ、偶然家が近所ということもあって、つい体の関係を持ってしまった。斉藤はだんだん自分の気持ちがわからなくなっていき……。

あんずは体の関係になる時、たまにお金を渡してくることがありました。斉藤は「自分は買われているのだ」と複雑な気持ちを抱きながらも、あんずの部屋に通ってしまいます。
そして斉藤は入学当初から同級生の松永という好きな子がいて、告白をされたにも関わらず、自分でも理由が分からないまま返事を保留にしていました。高校生らしく松永と正式に交際するためにあんずとの関係を断ち切るも、あんずと過ごした時間をふと思い出してしまいます。

その人のことばかり考えていると、予想していない場所でその人に偶然会ってしまったりしてびっくりする。頭のなかで想像していたことが、頭のなかを飛び出して、目の前にあらわれたような気がするからだ。

斉藤はショッピングセンターで偶然あんずに会ってしまい、そこで自分の気持ちに気づきます。それでも相手は既婚者で、自分は高校生。さらに斉藤の実家は助産院なので、女性の苦しみや強さを知っていました。思春期の男子高校生のどうすることもできない気持ちの描写に、胸がヒリヒリと痛みます。
恋愛の泥沼にはまっていく後ろめたさ、若さゆえの身勝手さ、そして立ち直るまでの苦しみを濃密に描いています。なまめかしい濡れ場にドキドキしてしまうこと間違いなしです。生きるために必要不可欠な「性」というテーマについて、改めて考えさせられます。

【人にはみんな信仰するものがある-『くたばれ地下アイドル』/小林早代子】

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著者である小林早代子が学生時代に執筆し、第14回 R-18文学賞の読者賞を受賞した『くたばれ地下アイドル』。近年人気を増している地下アイドルについて、アイドルの気持ちや追っかけの気持ちが様々な視点で描かれています。

【あらすじ】
埼玉県住まいということに劣等感を抱き、電車で1時間半かかる東京の学校に通う女子高生・種村は、学校の図書館で同じ中学校だった内田くんが自撮りをしている現場に遭遇する。実は内田くんは地下アイドルだった。「ファンを増やすためにおすすめの本や音楽を教えてくれ」と頼まれた種村は、初めて男性地下アイドルという存在に触れ……。

近年アイドルという存在は男女問わず増えています。地下アイドルとして活動する人も増え、身近な人が実はアイドル活動をしていたということも少なくありません。種村は中学時代おとなしかったはずの内田がまさかアイドルになるとは、と思いながらもファン獲得のためにアドバイスをします。
内田と初めて関わり、少しずつ距離が縮まっていく中で、地味だった内田が既に性体験を終わらせていることを知ります。そして種村は興味本位で性行為をしたいと思い、内田の部屋に行きますが、想像とは違った行為に唇を噛み締めます。

私にとって、これは映画や小説の中でしか知らない行為だった。綺麗に華々しく描きやがって、こんなにみっともなく滑稽じゃないか。誰も教えてくれなかった。

種村は周りのことを格好悪いと思い、自分のことを認めてほしいという欲求を抱えています。ダサいものが嫌だ、自分は他の人とは違う、と考える思春期ならではの青さや心の揺れ動きがリアルに描かれていて、懐かしさを感じつつも少し恥ずかしくなってしまう人もいるでしょう。

「種村さんが色んなものを馬鹿にしながらもがいてるの、結構かわいいと思うよ」

理想と現実のギャップにもがく種村と、時代を乗りこなそうとする内田。わずか24ページで女子高生の衝動が見事に描かれています。

あの時の狂ったような、熱を持ったざわめきは過ぎ去ったけれど、アイドルが忘れ去られることはなく、人々は相変わらずそれぞれ自分のアイドルを何かに見出していた。

人はみんな信仰するものが何かしらあって、それが生きるためのエネルギーになっているのかもしれません。アイドルという存在について、改めて考えさせられます。いつでも笑顔を保たなければいけない地下アイドルの本音や苦悩、歳を重ねて変わっていくアイドルの在り方、追っかけが持つ美学など、あなたの知らない世界に触れてみませんか。 

【不器用でも人生を泳いで行こう-カメルーンの青い魚/町田そのこ】

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『カメルーンの青い魚』は第15回 R-18文学賞の大賞を受賞した、町田そのこのデビュー作品です。『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』の第1話として収録されています。様々な事情を抱えて小さな街で暮らす人々が主人公の短編集で、全ての物語で登場人物がリンクしています。

【あらすじ】
サキコの前歯が差し歯の理由は、過去の彼氏、りゅうちゃんが喧嘩をしているところに割り込んだから。りゅうちゃんはサキコの見えないところで喧嘩をすることが増え、気づけばこの街から居なくなってしまった。そして12年後、サキコはりゅうちゃんに偶然再会し……。

サキコはりゅうちゃんがいないこの街で12年という時を過ごしてきました。大人になったりゅうちゃんと偶然再会し、お互いにとってお互いが特別であることを再確認します。ふたりで商店街を歩きながら見つけたペットショップに立ち寄り、りゅうちゃんはカメルーン・ナイジェリア原産のメダカであるアフリカン・ランプアイをサキコに見せます。きれいだぞと言うりゅうちゃんに対して、サキコは遠い場所から連れて来られて可哀想だと言います。まるで離れ離れになってしまったふたりのことを話しているかのようでした。

どんな生き物だって、その場所に適応して生きていけるもんさ。現にこいつらは仲良く泳いでるじゃねえか。

そう言ってりゅうちゃんはアフリカン・ランプアイを2匹買い、サキコに飼うように渡します。この2匹はきっと自分たちのことだったのでしょう。自分たちはどこでも、何をしていても案外生きていけるのだ。そう伝えたかったりゅうちゃんの気持ちはとても温かくて切ないものでした。

物事は時が解決することがとても多いもの。サキコも大人になってから、りゅうちゃんが自分の元から離れた理由が分かりました。結局ふたりはまた離れることを選びますが、サキコは、「りゅうちゃんの息がしやすいようにしておくから、またここに会いに来てほしい」と伝え、帰れる場所があるということを優しく教えます。りゅうちゃんはサキコにとっての、一生にたった1人の愛する人だから。

生きるとか生きて行けないとか、大人でも考えて苦しむものなんだ。だったら俺や晴子が苦しいと思うのは当たり前なんだ。大人が苦しみながら泳いでいるのだとしたら、それはとても厳しい現実だと思うけど、でもそういうものであるなら、仕方ないよな。これからも、もがきながら泳いで行くしかない。

街が水槽なら登場人物たちは小さな魚で、息苦しさを感じながらも懸命に泳ごうとします。様々な事情を抱えていても、もう2度と這い上がれないと諦めるのではなく、自力で立ち上がっていく主人公たちの姿に胸を打たれることでしょう。温もりと透明感に溢れた1冊で、「そういうことだったのか」と驚いてしまう仕掛けがところどころに隠されているのも面白さの1つです。

おわりに

忘れられない恋愛を人生に1度はしてみたいと考える人も多いでしょう。甘いだけではない恋愛は、自分のことを良くも悪くも変えてしまいます。
繊細で切ない恋愛小説を読みたいという方はもちろん、自分も現在進行形で泥沼な恋愛をしているという方は、「女による女のためのR-18文学賞」の選び抜かれた受賞作を読んでみてはいかがでしょうか。女性作家の豊かな感性に触れて、新しい視点が生まれるかもしれません。

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