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直木賞受賞作が映画化! 『ホテルローヤル』原作者・桜木紫乃が語る思い「前向きに逃げることを肯定したい」

原作は、累計発行部数100万部を超える、桜木紫乃の直木賞受賞作。桜木氏の実家でもあったラブホテルを舞台にした連作短編が一編の物語へと映像化され、11月13日に公開されました。読む者、観る者の心に訴えかける、「非日常」と人間模様が織りなすドラマについてインタビューしました。

過剰なメッセージを込めるのではなく「書いて知る」ということ

――ご実家だったラブホテルを舞台に、ドラマが紡がれていきますが、創作の原点となっているのはなんですか?

桜木:原点ですか……、今思い返してみればですが、15歳から20代の始めくらいまで、「あの日あの場所にいたかもしれない人」を描いた、ということなんですよね。
書くことで、振り返りたかったのかもしれない。自分の育った場所や、出会った人をね。
書いて知る、ということが大事で、そこに思いを込めるというのは別の一歩だと思うので、私は書くものに過剰なメッセージは込めていないんです。

――映画では、七編のエピソードが交錯する形の一冊となっていますが、最も思い入れのあるエピソードはどれですか?

桜木:行き場を失った女子高生と、妻に裏切られた高校教師のエピソード。俗な話になってしまうかもしれないのですが、野島伸司さん脚本のドラマ「高校教師」を何回も何回も観たんです。すごく好きな話で、そのことを担当編集者に話したら、「それでいきましょう!」となって。あの「高校教師」を桜木紫乃が書いたらどうなるか。そうやって、いつも「知りたい」、という気持ちで書いているんです。私が書くと、泥臭い話になるんですよね。書く人によってこんなにも変わるんだな、と実感しました。

――本の場合だとイメージは読み手に委ねられますが、映像化されたことでそれが具現化されますね。率直に、映画の感想はいかがですか。

桜木:ゼロ号(試写)を観たときに思ったのが、『ホテルローヤル』という本を映画にしたのではないな、ということです。武正晴監督は、「この話を書いた人」に興味があるのだろうな、という印象を受けて。実際に武監督と話していたら、そのようなことをおっしゃっていたので、「なるほど、間違っていなかったな」と思いました。

内面を素っ裸にされたような気持ちになった

――映画という表現を通じて、作家・桜木紫乃の内面をあらわにされた感じでしょうか。

桜木:そうですね。武監督は、雅代という役に私を入れ込んで、彼女が前向きに逃げられるようにしてくれていたようだなと。最後まで観て、エンドロールでぐっときて泣いてしまったのも、「もしかしたら自分もこんな風にローヤルを出た日があったかもしれない」と思ったからで。私は、ローヤルの建物を出てから、そのまま結婚式場に向かって、新婚生活が始まったんですけど、あの時結婚していなかったらあのお店を継いでいたし、そうしたら父がいなくなって、借金も払えなくなって、自分が閉めることになっていただろうなって。「あの時会ったかもしれない人」とか「あったかもしれない出来事」を描いていたつもりだけれど、映画になって返ってきたら、「居たかもしれない私」の話になっていて。それは自意識過剰でしょうかね(笑)さすが「全裸監督(の監督)」だな、と思いました。「脱がされたな」という気持ちでいっぱいですね。

――印象に残っているシーンはどこでしょうか。

桜木:身につまされたのは、5000円で夫婦でローヤルに来て、子供たちのことと親の介護のことでいっぱいいっぱいになって、お風呂の中で泣いてしまうシーン。「ああ、みんな心当たりのあるようなことだよな」と思って……、あのシーンは、身につまされるという点では、心に残っています。

――確かに、胸に迫りました。映画ならではの、やるせなさを感じますね。

桜木:やっぱり、主演の波瑠さんが、力のある女優さんでないと要求されないような「無表情の演技」を通されていたことが大きいんですよね。私は、自分の感情というものをあまり出さないで実家にいたな、と思うので。黙々と家業のラブホテルを継いだ(波瑠さん演じる)雅代が、部屋の掃除をして、笑うでもなく、泣くでもなく、淡々と毎日を送って。
事件が起きてそこを出ていくわけですが、その時々で、波瑠さんの無表情の度合いが違うんですよね。泣いたり笑ったり驚いたりなどすれば変化はつくだろうけど、無表情で変化をつけていくなんて、やっぱり素晴らしい女優さんだな、と思いました。
ラストの。無表情の果てに出てきた笑い。そこには計算されたものを感じた気がします。何の無理もなかったということですよね。

映画音楽も作品を見事に彩っている

――タンゴの曲調に合わせてシーンが切り替わるのがとても印象的ですが。

桜木:音楽も生きていますよね。上手に流されていく、そして最後に、自分から流れていく。
それは私が今まで書いてきたお話を武監督が全部読んで下さって出している、映像的な結論だったと思います。

――主題歌の『白いページの中に』という曲がとてもしっくりきます。

桜木:この曲をよく引っ張ってきたな、と。「これだよ、これしかないよね」と思いましたね。武監督は、釧路の町をみていて、これしかないだろうとパッと思ったそうなんです。
とても映画音楽を大切にされている監督なので、さすがだなと。素晴らしいと思いませんか? 音楽。

――確かに、素晴らしかったです。

桜木:こうやって音楽が映像をつないでくれるんだ、つないでいく音楽ってあるんだな、と思いました。

「非日常」が織りなす人間模様とやるせなさ

桜木:「非日常」と「日常」という言葉がくるくる入れ替わる日々ですよね。まさか今年、こういう事態(新型コロナウイルス感染拡大防止のための自粛など)になるとは思わなくて。改めて向かい合うと映画も小説も「非日常」の世界。ラブホテルも非日常。そう考えると私は、10代の頃から非日常とは何ぞや、ということを考えていたんだろうと思いました。
映画監督も小説家もラブホテルオーナーも、同じことを考えているんじゃないかな。

――なるほど。最後に、読者へメッセージをお願いします。

桜木:素晴らしい俳優さんをお迎えし、「全裸監督」の武正晴さんとNHK連続テレビ小説「エール」の清水友佳子さんがタッグを組んで、北海道をとても大切に思って下さるスタッフが集結して作ってくれた1本です。
女の子が自立する姿。自分の足で立って、頭で考えて、明日に向かって逃げていく。その「逃げ」は、後ろ向きではなくあくまでも前向きな逃げだということ。逃げていいんだ、っていうことを肯定してくれている作品になっていると思うんです。
逃げなくていい日常もそれは大事だけれども、辛い時は、逃げましょう。逃げた先に良いものが待っているかもしれない。我慢も大事だけど、我慢ばっかりしていると良くない。私は子供にもひどい我慢はさせたくありません。辛いと思ったら逃げていいよと。武さんが映像化したいと思った柱と、自分がこれまで書いてきたものとが似ていて、嬉しかったです。

<了>

映画「ホテルローヤル」作品情報

波瑠
松山ケンイチ
余貴美子 原扶貴子 伊藤沙莉 岡山天音
正名僕蔵 内田慈 冨手麻妙 丞威 稲葉友
斎藤歩 友近 / 夏川結衣
安田顕
原作:桜木紫乃『ホテルローヤル』(集英社文庫刊)
監督:武正晴
脚本:清水友佳子
音楽:富貴晴美
主題歌:Leola「白いページの中に」(Sony Music Labels Inc.)
配給・宣伝:ファントム・フィルム
https://www.phantom-film.com/hotelroyal/
©桜木紫乃/集英社 ©2020映画「ホテルローヤル」製作委員会

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