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重松清の実写化された短編集・おすすめ5選

ドラマ・映画のノベライズや小説を多数執筆し、多くの賞を受賞している重松清。その中から、実写化された作品のうち、おすすめの短編集5冊を紹介します。

1991年『ビフォア・ラン』でデビューして以来、第12回山本周五郎賞第124回直木賞などを受賞してきた重松清。幅広い世代の読者に支持され、多くの作品が実写化されています。
現代社会における家族にまつわる物語や、教師と生徒の物語など、身近なテーマが多く、鋭い視点で読みやすくかつ繊細に描かれています。

2019年1月に最新作『木曜日の子ども』を出版、6月には、映画『泣くな赤鬼』が公開され、ますます注目を浴びました。
今回は実写化された短編集の中から、選りすぐりの5冊を紹介します。

疲れた心に栄養を-『ビタミンF』

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https://www.amazon.co.jp/dp/4101349150/

2001年に第124回直木賞を受賞した本作は、ビタミンのように心に沁みる、傑作短編集です。Family、Friend、Fortuneなど、「F」から始まる言葉をキーワードにして7話を書き上げたと、後記に書かれています。
2002年に全7話中6話がテレビドラマとして放映された人気作品です。

今回は本作の中から、アラフォー男性のちょっとした日常の冒険を描いた『ゲンコツ』を紹介します。

【あらすじ】「まだ」なのか「もう」なのかわからない、38歳という微妙な年齢になった。駅前の親父狩りに怯えながら、購入したマンションに帰る日々。最近ではマンションの住人・岡田が中学生の息子に殴られたという話を耳にして、我が子にも適わなくなる年齢がやってくるのかと切なくなることもあった。その話を聞いてから、夜中にマンションのエントランスでたむろする中学生たちを見かけるようになった雅夫は…………。

もう若者ではなくおじさんとなった雅夫は、同年代の同僚・吉岡が若々しく明るく振る舞おうとする姿に苦笑いをしてしまうようになりました。飲み会で若者を笑わせるために仮面ライダーを歌い、踊る姿を見てつらかったと吉岡に伝えると、「俺はお前が枯れていく方が寂しい」と言われてしまいます。

「ガウディの街」ともてはやされていた場所にマンションを購入するも、今では落書きにまみれて見る影もありません。自宅に帰ると妻に、同じマンションの住人・岡田が親子喧嘩をした話を聞かされます。中学生の息子に殴られた岡田は歯が折れてしまって大変だった、と。雅夫は、中年になった自分もいつかは息子に勝てなくなってしまうのか、と考えて苦しくなります。

ある日からマンションのエントランスで、岡田の息子を含めた悪ガキたちがたむろするようになりました。妻からは「注意してみたら?」と言われます。しかも我が家は今年マンションの防犯委員なのだと。

喧嘩の勝ち負けを通算すれば、きっと負け越しになるだろう。恥ずかしいとは思わない。逆に、それが誇りでもある。年上の相手や人数の多い相手にもひるまず闘いを挑んだ結果の負け越しだ。仮面ライダーのように強くはなかったが、仮面ライダーのように勇気を持って闘いつづけていた。あの頃は、たしかに。

自分のことを奮い立たせた雅夫は、お酒の勢いに任せて中学生たちに声をかけます。雅夫は中学生たちに、ライダーキックのような華麗な一撃を決めることができるのでしょうか。

1話目の『ゲンコツ』を皮切りに、「まだやれるのではないか」、「自分も捨てたものではないかもしれない」と思える爽やかな読後感の作品が連なっています。心のビタミン剤とも言える珠玉の作品は、幅広い世代の心を動かすでしょう。
もうだめだと思ってしまった時疲れている時、ビタミンチャージしてみてはいかがでしょうか。

 

いつか必ずくる「その日」のために-『その日のまえに』

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次は重松清が文庫本のためのあとがきに「亡くなった恩師に捧げたい」と思いを綴った、生と死、そして残されること歩き出すことをテーマに描いた連作短編集です。2008年に実写化され、話題を呼びました。

その中から、高校教師が元生徒の秘密を知ってしまう『朝日のあたる家』を紹介します。

【あらすじ】出勤前に2キロ走ることを日課にしている高校教師のぷくさん。そこでカメラマン兼コンビニでアルバイトをしている元生徒・武口と再会する。武口から同じマンションに元生徒の入江も住んでいるという話を聞いた直後、自宅に入江が訪ねてくる。入江はぷくさんとの再会を喜ぶために訪ねてきたのではなく、「昔万引きで捕まったことを旦那に言わないでくれ」と異様な形相で口止めしに来たのだが……。

旦那の昌史が8年前に虚血性心不全で突然亡くなり、娘の明日奈と2人暮らしになったぷくさん。昌史がいなくなったことにも、少しずつ慣れてしまいました。

ほんとうに、ただそれだけのことで、ひとは死んでしまうのだ。いなくなってしまうのだ。準備期間なし。「死」は突然訪れて、おびえる間も運命を呪う間もなく、昌史をさらっていった。

突然に愛する人を亡くしてしまっても、いつも間にか悲しみは薄れ、平凡な生活を送ることができている。ぷくさんはそれをしみじみと感じていました。
そんな平凡な日々が続いていたある日、ぷくさんは元生徒の武口入江に再会します。そして入江が神経症を患っている上、旦那から暴力を受けていると聞かされます。
毎朝精神が不安定になってしまう入江は、気持ちを落ち着かせるために武口が働くコンビニへ万引きをしに行ってしまうというのです。しかし入江のことが好きな武口はその万引きを黙認しながら、不倫関係を続けているのだと。

元教師として武口と入江に何を言うべきか、何ができるのかを考えるぷくさん。しかし「この平凡な生活が永遠に続く」と思っていた武口と入江の関係にも、ぷくさんと昌史の別れと同じように突然終わりが近付き……。

つづけることは-すごいんだぞ、と自分に言い聞かせた。始めることも終えることもすごいけど、こっちだって負けてないぞ、付け加えて、生きてるんだから、生きてるんだから、と繰り返した。

「平凡な生活を続けること」の尊さについて考えるぷくさん。
既婚者に恋をする武口神経症を患う入江結末、そしてぷくさんはどのように動くのか。
人がこの世からいなくなってしまうのにはどのような理由があるのか、いなくなってしまう人のためにできることはあるのか。苦悩しながらも明日について考える、登場人物たちの気持ちが痛いほど伝わってきます。
「当たり前の日常を送ることができる」という幸せについて、しみじみと考えさせられます。

 

本気で話すことで初めて伝わることがある-『青い鳥』

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2008年に実写化された本作は、「いじめ」「加害者」というテーマと向き合った作品です。
滑らかに言葉を発することができず、緊張しているとより言葉がつっかえてしまう、「吃音」という病気を抱えながらも一生懸命話し続ける村内先生が、様々な生徒に本気で向き合っていく短編集です。

様々な苦しみを描いた短編集の中から、表題作の『青い鳥』を紹介します。

【あらすじ】僕たちは今、新しい担任の村内先生から罰を受けている。園部のクラスには少し前にいじめが原因で自殺未遂をして、転校した生徒がいる。その生徒は2度と学校に来ることはないのに、村内先生がわざわざ席を戻してその席に向かって毎日挨拶をするのだ。村内先生と出会ってから、「いじめに加わっていたかもしれないけれど、直接いじめてはいない」と思っていた園部の気持ちは揺らぎ始める。

クラスで一番大きい男子グループを取り仕切る井上と一緒にいた野口は、周りが子分扱いしても笑いながらみんなを笑わせてくれるひょうきん者でした。しかし野口いじりはだんだんエスカレートし、とうとう井上は野口の実家が経営しているコンビニから物を盗んでくるように命令し始めます。無理だと言いながらも翌日、命令された物を持ってきた野口。
本当は野口が自分のお小遣いをはたいて別のコンビニから買ってきたのですが、それを受け取ってから他のクラスメイトたちも欲しい物を野口に言うようになりました。

それでもニコニコしていた野口は、ある日遺書を遺して自殺未遂をしてしまいます。そして親が学校や教育委員会に乗り込み、大問題へと発展していきます。

いじめが発生した時に担任をしていた高橋は、体調不良を理由に学校を休んでいました。そして正式に休職届を出したことにより、代理の担任・村内先生が2年1組にやってきます。

村内先生は言葉を上手に話すことができず、どもってしまうのだと自己紹介で言いました。笑う人たちもいましたが、「本気の言葉がわからない君たちの元へ、どもるけれども本気の言葉を話す自分が来た」と言われ、教室は静まり返ります。

一生忘れられないようなことをしたんだ、みんなは。じゃあ、みんながそれを忘れるのって、ひきょうだろう?不公平だろう?野口くんのことを忘れちゃだめだ、野口くんにしたことを忘れちゃだめなんだ、一生。それが責任なんだ。罰があってもなくても、罪になってもならなくても、自分のしたことには責任を取らなくちゃだめなんだよ……。

そして野口の席があった場所へ机と椅子を置きました。それから「自分は加害者とまではいかない」と思っていた園部をはじめ、「反省文も書いて、もう終わったことだ」と思っていた2年1組の生徒に変化が訪れ……。

1話目の『ハンカチ』で、「上手く喋れないのになぜ教師という職を選んだのか」と聞かれた村上先生は、このように答えました。

「俺みたいな先生が必要な生徒もいるから。先生には、いろんな先生がいたほうがいいんだ。生徒にも、いろんな生徒がいるんだから」

いじめとは何かを考え、それぞれがした行動の責任の重さを生徒たちに伝える村内先生は、一人ひとりの心を動かします。様々の問題を抱える生徒やクラスとひたむきにぶつかっていく村内先生の姿に、胸を強く打たれます

 

人々の背中を押す猫たちの物語-『ブランケット・キャッツ』

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https://www.amazon.co.jp/dp/4022645954/

2017年にドラマ化された本作は、かわいらしい猫たちを巡る人々が、鬱屈とした日々に光を見出していく短編集です。

様々な猫が登場する本作の中から、罪の意識を抱える女性との冒険『助手席のブランケット・キャット』を紹介します。

【あらすじ】人慣れしている特別な猫を、安くはない価格で3日間レンタルしているお店「ブランケット・キャット」。ここには様々な目的を持つ人々がやってくる。毛布にくるまって眠る猫たちは、人には言えない悩みを抱える人たちの元へ行き、淡く光る希望をもたらしていく。

「助手席のブランケット・キャット」の主人公・たえ子は「ブランケット・キャット」で一年を通じてお気に入りの黒猫・クロをレンタルし続けていました。そして何年も色々な場所に足を運んでいたのですが、クロが高齢になってからは2代目の黒猫をレンタルしていました。

面白半分で借りた。黒猫が「縁起が悪い」と言われていることは子どもの頃から知っていた。
だから-クロにした。
自分にいちばん似合いの猫は、不吉な黒猫なんだと思っていたから。
若い頃に呼んだ寺山修司の詩の一節も、頭の片隅に残っていた。
こんな詩だった。
<ふしあわせと言う名の猫
がいる
いつもわたしのそばに
ぴったり寄り添っている>
不幸と一体になった猫。きっとそれは黒猫だろう、と勝手に決めた。
だから-クロの別名が、「ふしあわせ」。
「ふしあわせ」という名の猫を助手席に乗せて、五年間、春夏秋冬に一度ずつ、長いドライブを繰り返してきた。

ある日レンタルの依頼をしに行くと、「たえ子さんなら……」と初代クロをレンタルする許可を得られます。
「クロも私も年をとったし、今日は贅沢してしまおう」とレンタカーショップでベンツを借り、温泉宿へと向かうたえ子とクロ。しかし今日はうきうきした気分だけでレンタルしたわけではないのです。
何回か離婚を経験し、友人からは男運がないと言われ、頑張ってきたつもりなのに報われない。思い詰めたたえ子は、20年以上従事してきた会社の資金横領してしまったのです。
これが最後のレンタルになるであろうと、複雑な感情を巡らせながら車を走らせるたえ子。そして犯罪者の助手席に座るクロ。幸運にもまだ横領事件の報道はありません。1人と1匹の2泊3日の旅はどうなってしまうのでしょうか。

猫たちが読み手に希望を与える7つの物語猫好きな人はもちろん、心温まる物語が好きな人にもおすすめの1冊です。 

 

先生はいつまでも「先生」なんだ-『せんせい。』

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https://www.amazon.co.jp/dp/4101349274/

教師と生徒にまつわる物語を収録した短編集『せんせい。』に収録されている『泣くな赤鬼』は、2019年6月実写映画が公開された作品です。『泣くな赤鬼』を筆頭に心に響く物語が連なり、自然と涙が頬を伝う人も多いでしょう。

今回はその『泣くな赤鬼』を紹介します。

【あらすじ】大学病院のロビーで「アカオニ先生」と声をかけられる。今では呼ばれなくなったそのあだ名を呼んだのは、「ゴルゴ」というあだ名を持つ10年ほど前の生徒・斎藤だった。中退して以来会うことのなかったゴルゴは、今や結婚していて息子もいるという。再会に思いを馳せるのもつかの間、ゴルゴの妻・雪乃から、ゴルゴが余命半年と聞かされ…………。

自分が勤める高校の野球部を甲子園に連れて行くというを持っていたけれど、なかなかうまくいかないことに悩み続け、生徒を褒めなかった厳しい教師。炎天下の中、野球監督兼部長としてグラウンドで活動してきたため、日焼けした肌といかつい顔も相まって、港南高校勤務時代についたあだ名は「赤鬼先生」でした。しかし港南から西高に異動となり、昔と変わって厳しくすることをやめた赤鬼についたあだ名は「メタボン」です。赤鬼は大学病院でゴルゴと再会したことで、昔の自分を思い出します。

斎藤にかぎらず、誰に対してもそうだった。期待をかけていればいるほど、厳しく接した。だから赤鬼だった。鬼はいつでも怒った顔をしているから、鬼なのだ。

ゴルゴは10年ほど前に港南高校の野球部に所属していて、きっとレギュラーをとれると期待していた生徒でした。しかし努力をし続けることが少しずつ難しくなり、最終的に悪い仲間とバイクの集団暴走行為で警察に捕まり、高校を辞めてしまいます。

ゴルゴのことを「大人になった」褒めて別れた3日後、妻の雪乃が西高まで赤鬼に会いに来ます。検査の結果、余命半年と知ったゴルゴに会いに来て欲しいと。ゴルゴにとっての「最後の先生」に。

ふと気づいたのだという。高校を中退して以来、教師という立場のおとなとは一度も会っていない。
「そうだよなあ、よく考えたら、赤鬼が最後の先生なんだよなあ……って」
斎藤にとっては私が最後の教師だった。斎藤が「先生」と呼んだ相手は、私が最後なのだ。

命の終わりを知ったゴルゴにもっと伝えられることがあるだろうか、あの頃どうしたらよかったのだろうか、と考える赤鬼。教師と生徒の堅い絆を描いた作品に、懐かしい学生生活を思い出す人もいるかもしれません。
『泣くな赤鬼』を含め、涙腺を刺激する6つの物語を楽しめます。

 

おわりに

複雑な感情表現丁寧に描き上げ、多くの人の心を震わす作品が多い重松清。時に苦悩し、時に立ち直り、等身大の姿を見せてくれる登場人物たちと自分を重ねてしまう人もいるでしょう。心に沁みる作風は、いつの季節に読んでも心に心地良い風を届けてくれます。
「映画やドラマを見たことがある」という人は、この機会に原作を読んでみてはいかがでしょうか。

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