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【ストーリー・オブ・マイライフ公開記念】いま改めて読みたい『若草物語』の魅力

いよいよ6月12日から公開となった、映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。原作は、ルイーザ・メイ・オルコットによる小説『若草物語』です。時代を超えて愛され続けている、この作品の魅力を紹介します。

ルイーザ・メイ・オルコットの小説『若草物語』を原作とする映画、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』が、6月12日(金)から日本でもいよいよ公開となりました。

監督を務めるのは、2017年製作の『レディ・バード』で批評家や映画ファンからの絶賛を集めたグレタ・ガーウィグ。ガーウィグ監督自身が脚本も手がけた本作は、主人公の4姉妹にシアーシャ・ローナンやエマ・ワトソンら豪華俳優陣を起用していることでも話題になっています。第92回アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞しています。

今回は、映画の原作の小説『若草物語』のあらすじと読みどころ、魅力をたっぷりとご紹介します。

“少女たち”が“小さな女性たち”になるまで──『若草物語』のあらすじ


出典:https://www.amazon.co.jp/dp/404214117X/

『若草物語』(原題:『Little Women』)は、アメリカの小説家、ルイーザ・メイ・オルコットが1868年に発表した自伝的小説です。主人公は、牧師の父と心優しく頼もしい母を持つマーチ家の4姉妹。南北戦争の従軍牧師として父が不在にしている1年の間、青春を謳歌し、少女から立派な“小さな女性たち”(Little Women)として成長していく4姉妹の姿を描いています。

『若草物語』はシリーズとして4作品発表されており、4姉妹の10代を描く第1作のほか、姉妹の結婚や成人後の生活を描いた『続 若草物語』、『第三若草物語』、『第四若草物語』も存在します。第1作の『若草物語』では、戦時中の貧しさゆえに慎ましい暮らしを余儀なくされている4姉妹が、母であるミセス・マーチに提案され、自分自身の欠点を克服し大人の女性への第一歩を踏み出すための“巡礼ごっこ”をしようとします。

「みんなの重荷はすぐそばにあるし、道は私たちの前にあるのです、そしてね、いいことをしたいとかしあわせになりたいとかいう気持ちは私たちの道案内で、それが私たちを導いてさまざまな苦しみや間違いを通り抜けて平和なところへつれていってくれるのです、それがほんとうの天国なのよ。それじゃね、巡礼さんたち、こんどはお遊びじゃなくて、まじめになってもういっぺんやってみましょうか、お父さまのお帰りまでにどのあたりまでいけますかねぇ」
『若草物語』より

4人の少女たちはそれぞれに自分の欠点を内省し見つめ直すとともに、家族はもちろん、お隣の裕福な老人・ローレンスさんや友人の少年ローリーとの交流を通して、少しずつ個性を育み成長していくのです。

穏やかで信仰深い長女、作家志望で活発な次女……個性豊かな4姉妹

『若草物語』のいちばんの魅力は、なんと言っても4姉妹の個性豊かさと、彼女たちが連帯しお互いを助け合うストーリーの高潔さです。

4姉妹は上から、穏やかで女性らしく、信仰深い長女のメグ(16歳)、勝ち気で活発、作家志望のジョー(15歳)、ピアノを弾くのが好きで内向的なベス(13歳)、気取り屋でおしゃまな末っ子、エイミー(12歳)というキャラクター。

姉妹ははじめから全員大の仲良し……というわけではなく、特に独立心の強さゆえにやや短気なジョーと生意気盛りなエイミーはしばしば張り合い、もめ事を起こしがちです。しかし、4姉妹はそのたびに、ミセス・マーチの道徳的で博愛に満ちた教育方針に助けられます。たとえば、癇癪持ちなのが玉にきずのジョーには、ミセス・マーチは「お母さまも昔はあなたと同じだった」と言葉をかけるのです。

「お母さまはそれを直すのに四十年もかかりましたよ。それでもまだやっとそれをおさえられるようになっただけです。お母さまはね、ジョー、たいてい毎日なにかしら怒らない日はないのよ。でもどうやらそれを表さないですむようになりました。こんどは心から怒るということがないようになりたいと思っています。そうなるのにはまた四十年もかかるかもしれないけれどね」
『若草物語』より

姉妹たちは、賢母であるミセス・マーチの影響を受けるとともに、それぞれが持っているやさしさや洞察力を活かして、自分たちが貧しいながらもいかに幸せで恵まれた家族であるかに気づいていきます。

『若草物語』の中では劇的な展開や事件は起こりません。しかし、個性的で愛らしい4人の女性たちがそれぞれの足で歩み出すまでの道のりを、友人のような気持ちで見届けることができるのが読みどころです。

女性の自立と連帯を描いた、シスターフッドの物語として

本作のもうひとつの魅力は、4姉妹の日常と成長を描くこの物語が、単なる少女向けの“家庭的”な小説としては綴られていないところです。

物語の中で、姉妹たちはそれぞれに自分の“仕事”を持っています。長女のメグと次女のジョーは16歳、15歳という若さながら学校へ行かずに外に働きに出ていたり、三女のベスは“働き蜂”と揶揄されるほど母の家事を手伝っていたりします。女性が精一杯家事に取り組む、というのは一見保守的なことのように思われるかもしれませんが、『若草物語』における「家庭」は封建的な場ではなく、全員が平等にお互いを尊重し合い、安心して暮らすことのできる場所として描かれています。牧師の父も、戦地から家に帰ることがあると、娘たちを自立した家族の一員として正当に扱います。

作家志望のジョーは、自分の書いた小説が新聞に載った際、“だんだんひとり立ちになって、みんなのこともいろいろしてあげられるようになる”ことを一番に喜びます。物語の最後で結婚し妻になるメグ、続編の中で海外に飛び、絵画の勉強を始めるエイミー……、など姉妹の選ぶ道はばらばらですが、「自立してお互いを助けられるようになりたい」という気持ちの上では、4人はずっと連帯し続けています。

映画版『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/私の若草物語』でメグ役を演じた俳優のエマ・ワトソンは、2016年にフェミニズムにまつわる本を扱う読書クラブ、「アワ・シェアード・シェルフ」を立ち上げました。2017年からは、推薦したい本を公共の場に隠し、それを不特定多数の人に見つけてもらうことで本の魅力を広めるという活動を続ける団体「ブック・フェアリーズ」ともタッグを組んでいます。彼女はブック・フェアリーズとコラボレーションした活動の一環として、2019年末には自身のメッセージを添えた『若草物語』の本2000冊を38の国々に隠すという活動もおこないました。

著者のルイーザ・メイ・オルコットが女性の権利について考え続け、女性参政権の主張をしたフェミニストだったこともあり、近年ではフェミニズムやシスターフッド(女性同士の連携)にまつわる本としても再評価が高まっています。

おわりに

映画『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』の中には、作家志望の次女・ジョーが編集者の要求にノーを突きつけ強い口調で反論するという、原作には存在しないシーンがあります。

これについてガーウィグ監督は、「オルコットは本当は、ジョーに作家になるという夢を諦めさせたくなかったはずだ」「この映画では、オルコットが本当に描きたかったであろう結末を表現したかった」(『Variety』紙でのインタビューより)と述べています。ジョーというキャラクターはオルコットが自分自身をモデルにして書いたと公言しており、ガーウィグ監督はそんな大切なキャラクターに、自分らしい道の選択をしてほしかったのかもしれません。

各国で映画としてはもちろん、児童向けの漫画やアニメとしても長く愛されてきた生粋の名作である『若草物語』。本書が新進気鋭の監督、グレタ・ガーウィグの手によってどのように生まれ変わったのか、気になる方はぜひ劇場に足を運んでみてください。映画を観れば、小説『若草物語』にもふたたび手を伸ばしたくなるはずです。

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