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人生はそして続いていく……、待望の続々編『私を月に連れてって』刊行! 現役女子高生作家・鈴木るりかに聞いた、深く鮮やかな人間賛歌を書き上げるまで

『さよなら、田中さん』、『太陽はひとりぼっち』の続編で、これまで登場した人物の生き様をより深く知ることができる今作『私を月に連れてって』。たくさん笑って、じーんと涙するストーリーが心に沁みます。コロナ禍の世の中、著者・鈴木るりかが感じていることや、創作の秘話についてインタビューしました。

「小説の神様」に導かれて

――今回の作品は、『さよなら、田中さん』、『太陽はひとりぼっち』に続く、田中花実親子と、2階の住人・賢人を始めとする登場人物の現在を描いていますが、続編としての構想はいつからあったのでしょうか?

鈴木るりかさん(以下、鈴木):私はいつも一冊本を書き上げると、そのあと空っぽになってしまうのですが、今回はこの空っぽの時期が長く、高校2年になり授業数が増えたこともあり、「今年は本が出せないかも」と担当編集さんには早い時期に伝えてありました。それからコロナの影響で学校が休校となり、家にいる時間が増えたので、書いてみようかという気になったのですが、時間があるからといって書けるものでもないところが、小説のしんどいところです。

――今作は、書き上げるまでにどのくらいの時間がかかりましたか?

鈴木:小説には、「その時」にしか生まれないものがあるようで、「その時」が訪れるのを待っているうちに、時間はどんどん流れて行って。どうにか2作ほど書き上げて、担当編集さんに見てもらうと、「これまでの作品もそうだったけど、主人公が10代前半の少女というものが多いので、ひとつ大人目線の、できれば異性、たとえば賢人を主人公にしたものを書いてみては?」と提案され、どんな風にしようか、と思っていたんです。そんな夏の夜に、偶然とても美しい月を目にして、その瞬間、小説の最初から最後までがパーッと見えたんです。

月の光から得たインスピレーション

――前回は「太陽」、今回は「月」、ですね。

鈴木:本当に偶然で。月の光からインスピレーションを得たというか、そこから一気に書き上げて。この柱が一本据えられると、今回の作品、一冊を通してのテーマが見えてきたんです。最初から「月で行こう」と決めていたわけではなくて。でももしかしたら、小説の神様がそのように仕組んでいたのではないかと思えるほど、結果的にはとても良い具合に、各小説に「月」がはまりました。装画もそれに合わせて、(『太陽はひとりぼっち』と)対になるように美しく描いていただき、感謝しています。

――デビュー作『さよなら、田中さん』から、作品を追うごとに、登場人物の背景が深みを増しますね。深く感情移入してしまいます。

鈴木:自作に限らず、本を閉じたあとも、主人公や登場人物たちの人生が続いていく、と感じられる小説が好きです。だから、書き手としては、「その後」を書きたくなってしまう。『私を月に連れてって』も、『さよなら、田中さん』の続々編となるのですが、1本の長編を、年数をかけて書いているような感覚でもあります。主人公の花ちゃんの成長とともに、私も成長していければと思っています。

――書いていて、苦労されたことはありますか?

鈴木:1作目を書いた時は、「これから書けば書くほど、書くことに慣れて、だんだん楽になっていくのかな」と漠然と考えていたのですが、実際はどんどん難しくなっていくんですね。「以前はここまで考えていなかったな」というところまで、深く考えるようになりました。時には考えすぎて、何がいいのかわからなくなってしまうようなところまで行ってしまいますが、そういう時はそこからちょっと離れて、頭をクールダウンさせる術も、最近ようやく身に着けました。

――小説の髄所に、昭和を感じられるエピソードが織り込まれていますね。

鈴木:今、昭和の歌謡曲に詳しい10代のアイドルがいたり、最先端のクラブで昭和のヒットソングがウケていたりするそうです。今作でも、「松島トモ子」、「河合奈保子」など、昭和ネタを織り込んでいるんですが……、平成が終わり、令和という新しい時代が始まって、私たちの世代から昭和を見てみると、戦争があり、そこからの復興、高度経済成長、バブル期など、とても刺激的で新鮮なんですよね。

――昭和文学がお好きと伺っています。

鈴木:そうなんです。もともと遠藤周作や水上勉、三浦哲郎、色川武大など、昭和の時代に活躍された作家の作品が好きだったこともありますが、私の両親が今でも昭和の映画やドラマをしょっちゅう見ているので、私の耳にも自然に入ってきちゃうんですよね。

コロナ禍での執筆で感じたこと

――コロナ禍で作品を執筆するうえで、どのように感じていますか?

鈴木:ロシアの諺に、「苦しいことは6日ごとにやってくる。喜びは100日おいてやってくる」というものがあるそうです。私が描くのは、ごく普通の人の、日々の暮らし。その中で人々に訪れる苦しみや喜びを描いていきたい。苦しいことのほうが多い現実だとしても、一瞬の光で救われることもあると思うんです。コロナで、1年前には誰も予想だにしなかったような事態に世界中が陥ってしまいました。今年の8月には、全国の中高生の自殺者が、前年の同じ月に比べて2倍となり、特に、私と同じ女子高生の自殺が急増したというニュースには、大変心が痛みました。今苦しいかもしれないけど、あと100日待ってみようよ、辛抱してみようよ、と伝えたい。必ず、光射す瞬間はやってくると、「辛い夜を越えていこうよ」と。

――『夜を越えて』でも描かれていましたね。

鈴木:「何度深い夜の闇に沈んでも、その夜を越えて」行ってほしい。間違いだらけの選択で過去を悔やむことばかりでも、朝日が昇ればまっさらな1日。新しい今日。朝日は希望の象徴です。『夜を越えて』には、「コロナ禍を越えて」という思いも込めています。

――次回作の予定はどうなりそうでしょうか。

鈴木:いつか、このコロナ禍が終息した時に、改めてコロナを題材にした小説を書くことがあるかもしれません。そのためにも、冷静な視線で、今後の世の中の動きを観察していきたいです。来年は高校3年生になり、受験があるので、小説が出せるかどうかは自分でもわかりませんが、エッセイを書くことなどにも挑戦してみようかと思っています。また、「花ちゃんシリーズ」とは全く別の小説を書いてみたい気持ちもありますね。これまですべて一人称で書いてきましたが、三人称の小説も書いてみたいと思います。

<了>

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鈴木るりか(すずき るりか)プロフィール


2003年、東京都生まれ。小学4年、5年、6年時に3年連続で、小学館主催の『12歳の文学賞』大賞を受賞。2017年10月、14歳の誕生日に『さよなら、田中さん』でデビュー。10万部を超えるベストセラーに。韓国や台湾でも翻訳される。2018年、地方の中学を舞台にした2作目の連作短編集『14歳、明日の時間割』を刊行。近著は本作前編となる『太陽はひとりぼっち』。現在、都内の私立女子高校2年生在学中。

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