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現代版『細雪』三・四姉妹の華やかなる競演~あなたはだれに共感する?~

三姉妹・四姉妹を描いた小説は、多くの作家によって手がけられています。二人姉妹とは一味違った、華やぎ、嫉妬、競争、連帯。キャラ立ちした姉妹たちのプロフィールを知れば、「これはきっと私のことだ!」と思えるような主人公に出会えるはずです。そんなおすすめ小説を紹介します。

現代版『細雪』三・四姉妹の華やかなる競演〜あなたはだれに共感する?〜

美人四姉妹――。そそられる言葉です。谷崎潤一郎の『細雪』から是枝裕和監督の映画『海街diary』に至るまで、四姉妹物語には系譜があり、根強い人気を誇ってきました。現代の小説でも、三姉妹・四姉妹ものは、多くの作家によって手がけられています。二人姉妹とは一味違った、三姉妹・四姉妹の華やぎ、嫉妬、競争、連帯。キャラ立ちした姉妹たちのプロフィールを知れば、「これはきっと私のことだ!」と思えるような主人公に出会えるはずです。

向田邦子『阿修羅のごとく』~父の浮気問題の真相をあばく、個性豊かな四姉妹探偵~

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https://www.amazon.co.jp/dp/4167277174/

【あらすじ】
大人になった四姉妹は、ある日、久々に姉妹会議のため集まった。議題は、老父が母に隠れて浮気しているかもしれないということ。姉妹それぞれの言い分は……?

~プロフィール~

長女・綱子(45)生け花の先生。艶っぽい未亡人で、目下、妻子のある男と不倫中。
次女・巻子(41)専業主婦。良妻賢母で通っているが、実は夫の浮気に悩んでいる。
三女・滝子(30)図書館司書。堅物な性格と地味な容姿が災いして、男に縁がない。
四女・咲子(25)カフェ店員。恋多き女で、売れないボクサーと同棲して尽くしている。

では、向田邦子の脚本で読んでみましょう。

滝子「お父さん、面倒みてる人、いるのよ」
綱子「オンナ?」
滝子「男が男の面倒みるわけないでしょ」
巻子「まさか。あんなブキッチョな、デパートで、自分のシャツ一枚買えない人が、女の人」
滝子「女の人、デパートで買うわけじゃないでしょ」
綱子「お父さん、そんなお金ないわ。火曜と木曜だった?名前は役員でも、ほんの捨ブチよ」
巻子「寡黙の人になにができるの」
咲子「火木の人?」
巻子「寡黙――口数が少ないってイミ」
鷹男(注・巻子の夫)「火曜と木曜に働くカモクの人か、こりゃいいや」
巻子「人違いじゃないの」
滝子「調べたの。興信所でお金出して」
咲子「わたしにいわせりゃ、滝ちゃん、やり方が、インケンじゃない」
滝子「インケンとは何よ。うちのため、お母さんのためと思えばこそ自腹切って」
咲子「何かに八つ当たりしてるみたい。つとめも面白くない、男もいない、いろいろなモヤモヤをパーと」
滝子「咲子、男の人と住んでるんじゃないの。自分が不潔なことをしてるから」
咲子「滝ちゃんの欲求不満の方が、よっぽど不潔じゃない。滝ちゃんさ、わざとお化粧もしないで地味な格好してるけど、本当は男にもてたくてウズウズしてンじゃない」
巻子「(綱子に向かって)あしたでも、二人だけで、相談しよ」

 三人寄れば文殊の知恵、四人いればさぞかし……、と思いきや、両親のことで相談に寄ったはずが本末転倒、もともと互いをライバル視する三女と四女は、自分たちのことで「阿修羅のごとく」口論を始めます。
そして、翌日、綱子の家を訪れた巻子は、玄関先でしどけない格好をした見ず知らずの男と鉢合わせ。

綱子「どうして聞かないの。あの人だれ、いつから、妻子のある人じゃないの、亭主のお位牌の前で恥ずかしくないの。お父さん許せない、お母さん可哀想って言ったくせに、自分のしてることは何よ!って、どうしてあんた、ののしらないの。何も言わないでじっと座ってるなんて、嫌味よ。あんたのそういうとこ、大きらい!」
巻子「うちの鷹男も浮気してるから、妻子のある男と間違いをした姉さんは、許せない――こう言えばいいの?」
綱子「みんなひとつやふたつうしろめたいとこ、持ってるんじゃないの。七十過ぎたって男は男なのよ」
巻子「だから大目にみろっていうの。あたし、そういうの、大きらい!」
綱子「男の気持ちってのは、リクツじゃないのよ。亭主が何しようと鼻ぼこ提灯で寝てる、バカだとドオの言える女房に男はホッとするの。巻子みたいの、男は安まらないのよ」

結局こちらも、両親そっちのけで、自分たちの問題にすり替えてケンカになってしまいます。
それから数日後、朝刊の婦人投稿欄にこんな記事が載りました。

姉妹とは、ひとつ(さや)の中で育った豆のようなものだ。大きく実り、時期が来てはじめると、暮らしも考え方もバラバラになってしまう。うちは三人姉妹だが、冠婚葬祭でもないと滅多に揃うことはない。ところが、つい最近、偶然なことから、老いた父に、ひそかに付き合っている女性のいることが判ってしまった。老いた母は、何も知らず、共白髪を信じておだやかに暮らしている。私の夫もそろそろ惑いの四十代である!波風を立てずに過ごすのが本当に女の幸福か、そんなことを考えさせられる今日この頃である。(主婦40歳・匿名希望)

姉妹の数こそ変えてあれど、余りにも今の四姉妹の境遇にピッタリ。巻子は、姉妹たちから投書をした張本人だと責められますが、しらばっくれます。では、投書したのはいったいだれだったのでしょう?

➀ やはり巻子だった。夫の浮気を疑う巻子は、この記事を、父ではなく、むしろ夫への当てつけとして投書した。綱子が言うように、普段は何も言わずに黙って座っているように見えて、なかなかしたたかな女なのである。

② 実は滝子だった。そもそもこんな上手な書き出しで文章を書けるのは、読書家で司書でもある滝子でしかいない。咲子が言うように、自分が男にモテない欲求不満をこういう形で発散させる、陰険な女なのである。

③ なんと母だった。姉妹は実家に帰った際、母のタンスに新聞社からの「御礼」と書かれた粗品が入っていることに気づいて確信を深める。知っていて知らないふりをして、毎日ニコニコして暮らしている母こそ、本物の「阿修羅」だった。

 

正解はこちら
正解は③ 果たして、父はこの朝刊を読んだのでしょうか? 続きは本作でお楽しみください。

2003年、綱子:大竹しのぶ、巻子:黒木瞳、滝子:深津絵里、咲子:深田恭子で映画化もされた本書。それぞれの女優を思い浮かべながら読んでも楽しそうですね。
 

江國香織『思いわずらうことなく愉しく生きよ』~“おなじ釜の飯で育った姉妹”の行く末は~

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https://www.amazon.co.jp/dp/4334742629/

【あらすじ】
ある日、犬山家の三女・育子は上の姉の身体に痣を発見する。姉には単なる夫婦喧嘩だとかわされたが、育子は心配でたまらず、真ん中の姉に相談することにした。

あたしたちおなじ釜の飯で育ったのよ。おなじ釜の飯で育った姉妹っていうのはね、心配なんてしないものなの

 これは、犬山家の次女・治子の信条です。心配しないというのは、互いに無関心ということではなく、いちいち話さなくても根底で相手を理解し、信頼しているという意味です。ところが実は、治子がそう言っていられない事態が起こっていたのです。

~プロフィール~

長女:麻子(36)エリートと結婚した優雅な専業主婦。実は夫のDVに悩んでいる。
次女:治子(34)仕事にも恋にも貪欲に突き進む、外資系企業勤務のバリキャリ女子。
三女:育子(29)“天使”のようにピュアで心根の優しい、家族思いの末っ子。

 

世間には、理由もなく妻に暴力をふるう男がいると聞くが、麻子の夫は勿論そんなことはしない。彼が不機嫌になるのにはちゃんとした理由があるのだ。あの人が私に乱暴するのは、きまって私があの人の「気持ち」を理解しそこなったときだもの。たいしたことではない。肋骨が二本折れただけ。LANVINのコットンシャツの上からでは、胴体に巻かれた包帯も見えない。

傍から見れば、十分「たいしたこと」なのですが、暴力をふるった後、子どものように泣きじゃくり、不安に陥る夫の邦一を見ていると、麻子は夫を放っておけないと思うのです。それは「愛情」ではなく「共依存」だということも知らず――。
本作の白眉は、夫のDVを妹たちに隠し通そうとする麻子と、それを追求しようとする治子と育子の心理戦です。治子と育子は、麻子を、かつて自分たちが暮らし今は母が住む二番町の実家へかくまおうと連れ出します。治子は母に、お願いします。

「麻ちゃんを絶対家からださないで。ベッドにしばりつけてでも、そこにいさせてね。本人が何と言ってもよ。それから、もし邦一さんが来ても家に入れちゃだめよ。わかった?」

 治子は邦一のもとへも直談判に向かいますが、邦一はびくともせず、

「連れに行くよ。麻子は帰りたがっているんだろう? わかってるんだ、それは」

と不気味な微笑みを浮かべ、予言めいたことを口にするのでした。
治子は邦一の不穏な発言が気にかかり、その日仕事を大急ぎで終え、麻子を案じて実家へ向かいます。ところが……。

二番町にかけつけた治子を心底憮然とさせたことには、麻子と邦一が仲良くならんでソファに腰掛けて待っていた。
「邦一さんが迎えに来てくれたんだけど、治子ちゃんが来るまで待ちなさいって、ママがゆずらなかったから」
麻子は臆面もなく、そう言った。
「心配かけて、申し訳なかったね」
 邦一は、いつものやさしげな男に戻っている。
「麻ちゃん、気はたしか?この人のところに戻るなんて、麻ちゃんまさか本気で考えてるんじゃないでしょうね。また首を絞められるわよ。蹴られたり、椅子で殴られたりしたいの?」
母親が横で息をのんだ。
「治子ちゃんは大げさなのよ」
 麻子が言い、治子は泣きだしたくなった。
 しばらくママのところにいた方がいいと思う、と育子も意見を述べてみたが、麻子は聞く耳を持たなかった。
「約束したのに」
 かなしい気持ちで、育子は麻子に訴えた。麻子は、まるで幸福な妻みたいにふわりと微笑んで、
「ごめんなさい。でも私は帰らなきゃ」
 と、言うのだった。
 育子は、麻子をさらわれたような気がした。そして、治子もおなじ気持ちでいることが分かった。

 どうやら麻子は、自ら望んでDV夫のもとへ戻ろうとしているようです。“おなじ釜の飯で育った”三姉妹。けれど、麻子は今や他所の釜の飯を食べる人になってしまいました。“思いわずらうことなく愉しく生きよ”という家訓のもとで育ち、それを守って暮らして来たはずなのに、麻子はこれから一体どうなってしまうのでしょうか。続きはぜひ本作でたしかめてみてください。
NHKでテレビドラマ化もされました。
 

綿矢りさ『手のひらの(みやこ)』~“華やかっていうよりはうるさいくらい”の三姉妹の絆~

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https://www.amazon.co.jp/dp/4101266530/

【あらすじ】
 奥沢家の三姉妹のルール。それは老母に代わり、3人の娘が交代で夕食を作るというもの。年頃の娘たちは、万難排して夕飯時には家に帰って来、にぎやかな夕げのスタート。

「三人とも女だったら家も華やかだろうね」
「いや、うちはみんな元気でキャラクターも強いから、華やかっていうよりはうるさいくらい」

 京都で生まれ育った三姉妹の、三者三様の恋愛と成長を描いた物語です。

~プロフィール~

長女・綾香(31)おっとりのんびりしているうちに、気付いたら三十を越えて焦る草食系。
次女・羽依(25)ストーカーやセクハラ、女の嫉妬など美人税のうちと笑い飛ばす肉食系。
三女・凛(24)大学院バイオ研究室所属の悟り系リケジョ。目下、男に興味がない絶食系。

 京都で生まれ育ち、今も実家で暮らす三姉妹の夕食時の会話をちょっと聞いてみましょう。

「母さんはどこ行ってるの?」
「有田さんがチケット取ってくれたし、今日は都をどりの最終日だから絶対観に行かな、らしいで」
 綾香が母の口調を真似して、「そっくり」と凛が褒めた。
「私も都をどり観たかったなぁ。真っ赤な歌舞練場で、きれいな着物の舞妓さんが次々出てきてお人形さんみたいに踊らはるんやろ?」
 スプーンを持ったままの綾香がうっとりした顔つきになる。
「舞妓なんてだいっきらい。塗りたくらんと淋しい顔立ちのくせして、自意識の塊みたいな奴ばっかり。夜道で偶然見かけても絶対見いひんようにして、顔背けて歩くねん。私があんたくらい飾りたてたら、もっと上等になるでって意味を込めて」
「羽依ちゃんて、ほんま性格悪いなぁ」
凛が感心したように呟く。
「この子は負けず嫌いなんよ、異様なレベルの。私は舞妓さんは大人しくておっとりしてる感じが、品が良くて好きやけどね」
「姉やん、当たり前やろ、どこの舞妓がしゃべりまくって本音なんか言うねん。ていうか、しゃべりまくって笑いまくってたら、もう舞妓は美人て呼ばれなくなるで。いくら顔が綺麗でも、厚かましいとかオバサンくさいとか美人とは違う種類に分別されて終わり。神秘的な魅力が下がる。人間顔だけじゃないっていうのはほんまやで。性格が大事っていうとほんわかした人情論に聞こえるけど、もっとシビアな意味で」
「羽依ちゃんは好き放題なこと言って生きてるね」
「まあそこが、私の詰めの甘いところやね」
 笑いが起こって食卓の雰囲気が明るくなり、みんなの食が進む。

 自身も「京女」である作者・綿矢りさの筆が冴える場面です。
三姉妹は、家の外ではそれぞれ、結婚したいのに出会いがない、モテすぎるがゆえに職場のお局様から「いけず」をされる、大学院を出たら京都を出て東京で就職しようと奮闘中、など色々な課題を抱えているのですが、ひとたび家に帰ってくるとそこは安全地帯。姉妹でたわいもないおしゃべりに興じているうち、また明日も外で頑張るエネルギーを蓄えるのです。家族から愛されるからから、人は強くなる、外で頑張れる、という感覚に共感を覚える読者も多いでしょう。
 三姉妹のなかで実は誰より姉妹思いの羽依は、姉の婚活のために一肌脱ぎ、職場の先輩を紹介します。

初デートの際に何を着ていこうかという話を綾香が羽依に相談し、綾香が冗談半分に
「まあ私が一番上手に着れるのは着物やけどなぁ」と言うと、
「着物は張り切りすぎの気もするけど。男が本気度にビビるかも。着物着て行ったらまるでお見合いみたいやん。あくまで気軽な感じで一度会ってみよって話やのに」

 と、恋愛面では長女よりはるかに先輩の次女が的確なアドバイス。結局、綾香はウエストがリボン結びになった水玉のワンピースに決め、妹たちはひそかに“昭和が舞台の映画に出てくる国語教師みたい”だと思いはしたもの、それはもちろん口外せず、姉のデートの成功を祈るのです。
 またある日、百戦錬磨の羽依は恋愛経験ゼロの凛にスパルタの恋愛指南。

「凛は男とかいないの」
「いーひん。過去に付き合った人さえ、いーひん」
「凛って男に興味ないの」
「そういうわけじゃないけど。興味のある男の人は、いまのところ、いーひん」
「男と接点なさすぎて、どういうのがいい男なのか分かってないんじゃないの」
「どういうのがいい男なの?」
「自分より劣っている男の話を嬉しそうにする男は要注意やね。下見て安心する奴はあかん。批判は誰にでもできる、実行に移すのが一番難しい、って年いっても気づいてへん男は出世しいひんね」

行き遅れの姉、姉妹間での恋バナ、たおやかな関西弁、着物……、とくれば谷崎潤一郎の『細雪』。また、作中の随所にちりばめられている祇園祭、大文字焼き、八坂神社へ初詣といった京都ならではのシーンは、川端康成の『古都』をも彷彿とさせます。『細雪』や『古都』の世界が好きな読者は必読の一冊です。
 

山崎ナオコーラ『可愛い世の中』~姉妹は他人のはじまり、それは金銭感覚の違いから~

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https://www.amazon.co.jp/dp/4062939096/

【あらすじ】
友人同士でお金の貸借をすれば、金銭と友情、両方を失うことになるというのは定説。では、それが姉妹間ならどうだろうか?

お金の話は人間関係を難しくさせがちなので友人の間柄では避けられるものだが、姉妹なのでずけずけ言い合うこともある

給料や貯金の額など、金銭にまつわる話題はたとえ親しい仲でもタブーだったりするものです。けれど、それがこと姉妹の間柄ならおかまいなし。同じ家で生まれ育っても、成長して置かれた境遇が変化すれば、おのずと金銭感覚も変わってくるもの。四姉妹の金銭感覚の齟齬をユーモラスに描いた社会派経済小説です。

~プロフィール~

長女:花(35)バツイチ、派遣、四捨五入して四十歳。唯一の武器は美貌のみ。
次女:豆子(32)一応正社員だけど地味でさえないブスOL、モテることはあきらめた。
三女:草子(27)名は体を表す、根無し草のニート。詩的感性を持つ優しき夢見る夢子。
四女:星(24)四姉妹中最も稼ぎのよい夫をつかまえた専業主婦。超勝ち犬リアリスト。

 ある日、姉妹が実家に集った際、虹を見つけた草子がそれを喜び勇んで姉妹に告げる場面
から物語ははじまります。

「いくつになっても虹や星だとやっていられるなんて、草子ちゃんは本当にどうしようもないね。母さんは泣いてるよ。働いておかないと年金がもらえないのに、草子ちゃん、老後はどうするのさ。婚活もしない、就活もしない、いつまでも実家暮らし。夢見る少女のままお婆さんになったら、周りが迷惑するんだから。自立しないと。少しでも周りに役立つことをしよう、って思わないの」
現実的な生き方の素晴らしさを説くのが好きな星は、いつものごとく草子を罵倒した。
「小さなことで喜ぶ草子ちゃんは、皆に役立っていると思うよ。周りの空気を柔らかくするじゃない。少なくとも今、私は和んだし」
豆子はフォローしようとして、草子を見て言った。
「いいの、星ちゃんが言うように、私は何もしていない。そのうち老後に迷惑をかける、この社会にいない方がいい人間なの」
 草子は眼鏡のブリッジを押さえて、俯いた。
「自立、自立、って、星ちゃんは言うけど、自立ってなんだろう。主婦っていうのは、他立じゃないの?私は他立でもいい気がするけどなあ。私なんて、夫がいなくなっても、頼れる人が他にたくさんいるよ。人に頼ったらやっていける時期は、頼ればいいんじゃないかなあ」
 離婚したばかりの花は言った。
「主婦は自立しています。立派な仕事だと、国からも認められています。夫の稼ぎは、夫婦の共有財産なんだから、つまり私も稼いでいるのよ。でもね、親の稼ぎは子どもの稼ぎじゃないの」
「この話はまた今度にしようか。今日は豆子ちゃんの結婚のお祝いなんだから」

 ブスで非モテ女子の豆子は、結婚において男性の経済力と女性の美貌が等価交換されるのなら、自分はその逆、つまり、相手の男を自分が養う形態でもよいと考え、貯蓄なし、収入も年齢も自分より格下のマッサージ師との結婚に踏み切ります。結婚式にかかる諸費用もすべて自分の貯金だけで支払うことを決めた豆子。ところが、ゲストへの食事や引き出物を優先的に奮発した結果、ウエディングドレス代が足りなくなるという事態が発生。そこで豆子が出した結論は、

私はドレスは着ない。スーツを着る

 というもの。そもそも着飾る柄ではないし、ブスの自分にはドレスは似合わないというのです。これに対して、姉妹の反応は、

やめな。スーツ着たら、スタッフと間違われるわよ

新婦のサービスは、美しく着飾るのと、にっこり笑顔でいること。サービスだと思って、ドレスを着てごらん

だって、今はそんな時代じゃないでしょ?ウエディングドレスだけが女の夢なんて時代は終わったでしょ?

 と、口々に意見します。さて、豆子は結婚式でどんな恰好をするのでしょうか、ぜひ本作でたしかめてください。
 

金井美恵子『恋愛太平記』(1、2)~ガールズトークは永遠に~

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https://www.amazon.co.jp/dp/4087471276/
 
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https://www.amazon.co.jp/dp/4087471284/

【あらすじ】

そもそも『太平記』とは、戦乱の世の武将たちのかけひきを描いた軍記ものだが、本書『恋愛太平記』は、四姉妹による互いの恋愛観の違いから起こるバトルを描いた『太平記』。
「姉妹って、よくそんなにしゃべるネタが尽きないな。男兄弟は大人になったらほとんど口もきかないのに」と男性諸氏はよく言うものです。これは、久々に集った姉妹が、洋服や食べ物の趣味、最近見た映画、最新の恋愛事情など、思いつくままに、よしなしごとをしゃべり尽す、全編ガールズトークの小説。

~プロフィール~

長女・夕香(31)米国留学中に知り合った英文学教師と恋に落ち、結婚して現地で生活。
次女・朝子(28)女子美大卒。結婚という制度に疑義を感じ、目下芸術家と同棲中。
三女・雅江(25)保母。男やもめとその息子への同情が愛情に変わり、出来ちゃった婚。
四女・美由起(24)姉達から「みそっかす」扱いされる末っ子。結婚を目前に控えて。

物語は、結婚を控えた四女・美由起が結婚式を挙げたくないと言い張るところからはじまります。これに対し、母の言い分は、

娘を四人も産んだというのに、一度くらいちゃんとした娘の結婚式というものに親として出席させてくれたっていいじゃないの。娘の四人が四人とも「まともじゃない」やり方で結婚したんじゃ、とうさんだって、かあいそうじゃないの。だから、せめてね、あんただけは結婚式挙げてよ。センチメンタルだって笑うかもしれないけど、あんたと夕香は純白のウェディング・ドレス、朝子と雅江は顔立ちがおとなしいから、高島田で打ちかけだろうなって、かあさん、あんたたちが小さい時から夢見てたんだもの、いいじゃないか、それくらい。費用はこっちで持つんだし、母親のささやかな夢をかなえさせてやったって、バチは当たらないよ。

では、上三人の姉たちがどのように「まとも」でないかと言えば、長女・夕香は、留学先のアメリカで英文学教師と恋に落ち、“安物の白いパンタロン・スーツ”を着て写真を撮るだけの結婚式で済ませ、次女・朝子は女子美に入学して「コンセプチュアル・アーチスト」と意気投合、そのまま同棲すること早7年、結婚式を挙げることなど“考えてもみなかった”のであり、保母である三女・雅江は、母親のいない園児とそのシングルファーザーに対する“同情と愛情を混同”した末、できちゃった婚。
 上三人の姉たちは、自分たちのことは棚に上げ、

やっぱし結婚式するの親孝行ってものじゃないの。娘の希望じゃなくて、母親の希望を優先させるってことが。このさいミィちゃんが姉妹を代表してさ、やってくれればいいじゃないの。

と言った、その舌の根の乾かぬうちに、今度は、結婚式に包むご祝儀代や洋服代の出費が痛いと好き勝手なことを言っています。それに対して美由起は、

自分の都合じゃなくって、親の希望を優先させるのが親孝行だって言うんでしょ? そういうこと言う人はさ、それくらいの出費、覚悟しなきゃいけないんじゃないの?

と皮肉っぽく言い返しました。そもそも、美由起の胸算用としては、結婚式にかかる費用を現金でもらって、マンションの頭金にするほうがいいということなのです。
最初は美由起の結婚式が姉妹会議の議題だったのが、いつしか話題は支離滅裂の様相を呈し、

頭が良くない、というのと家庭的であることは同じこと

気が強いけど、ああいう人って、意外ともろいとこあるのよ

保育園の先生は趣味も園児並みなんだな

そういうだらしない格好をしている女の子と、よくまあ寝る気になれる男がいると思うわね

と、読者もハラハラするような丁々発止のやり取りをくり広げます。それぞれ誰のことをディスっているか、ぜひ本書で、いっしょにガールズトークに加わってたしかめてみてください。
姉妹は最終的にこういう結論に達します。

女というのは女同士で、細やかでデリケートな、、グチを言いあいたいものなのだ

赤の他人ならとっくに絶縁になりそうな毒舌の応酬をしても、決して関係が切れないのが姉妹のよいところと言えるかもしれません。

おわりに

 のべ18人の女性たちを紹介しましたが、あなたと似ている人物はいたでしょうか。姉妹のいない人は姉妹がうらやましくなり、姉妹のいる人は姉妹に会いにいきたくなるはずです。気になる小説のページをめくって、姉妹たちの仲間入りをしてみてはいかがでしょうか。

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