本との偶然の出会いをWEB上でも

あの日の自分に届けたい、辻村深月の名言10選

2018年本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』をはじめ、少年少女に寄り添う優しい作品を多く執筆している作家、辻村深月。辛いことがあったとき、心の支えになってくれるであろう名言を紹介します。

tujimura-1

4月10日に発表された、2018年本屋大賞。大賞に選ばれたのは、辻村深月の『かがみの孤城』でした。これはホームページに記載があるあらすじの「生きづらさを感じているすべての人に贈る物語」の一文にもあるように、誰もが感じたことがある痛みに寄り添う、優しい物語が多くの人に評価されたのでしょう。

辻村深月はこれまでにも、少年少女を主人公とした作品を多く執筆しています。その作品に込められた言葉はどれも、登場人物の生き方を認めたり、いざというときに心の支えになってくれるものばかり。今回はそんな辻村深月の作品から、かつて少年少女だった頃の自分に届けたい名言を紹介します。

合わせて読みたい:
2018年本屋大賞受賞!辻村深月『かがみの孤城』はここがスゴイ!
辻村深月『かがみの孤城』は感涙必至の傑作長編!

 
tujimura-2
出典:http://amzn.asia/8S5u1Rc

【あらすじ】
『ドラえもん』の作者、藤子・F・不二雄を敬愛する主人公、芦沢理帆子。ある夏の日、「写真を撮らせてほしい」という男子生徒、別所に出会ったことをきっかけに彼女の毎日は少しずつ変わっていく……。

【名言1】

「痛かったら泣いて、苦しかったら、助けてって言っちゃえばいいんだよ。きっと誰かがどうにか、力を貸してくれる。もう嫌だって、逃げちゃえば、いいんだよ。そうすることだって、できるんだよ」

 
『凍りのくじら』の主人公、理帆子はその場の空気を読み、相手に合わせることが即座にできる人物です。器用に立ち回っているように見える一方、自分の意にそぐわない相手を見下すことさえ珍しくありませんでした。その様子は、ときに読者に「いけ好かない」というイメージを抱かせるかもしれません。

しかし、理帆子が感じる「居心地の悪さ」には、誰しも心当たりがあるはず。「自分は周りとは違う」と思いながら、孤独を避けるあまり愛想笑いを振りまいてしまう……そうして自分が感じた苦しみや悲しみに蓋をしてしまうのは、息苦しい世の中では珍しくないはずです。

別所との出会いをきっかけに、周囲の人に心を開いていく理帆子。クライマックスで、かつての自分と同じく、傷つくこと・誰かに助けを求めることを恐れた少年に理帆子はこう述べます。誰かに合わせるのではなく、自分の素直な思いを誰かに伝える。人とのつながりを諦めなかった理帆子の叫びが強く表れた名言です。

 

【名言2】

「いつも、持病のせいとか、親のせいとか、自分の力ではない他のせいにしてきた。だけど、悪いのは自分だと認めなくちゃ。全部を自分の責任だと認めて、その上で自分に実力がないんだと、そう思って諦めなくちゃならない。精一杯、本当にギリギリのところまでやった人にしか、諦めることなんてできない。挫折って、だから本当はすごく難しい」

 
司法浪人生の恋人、若尾と付き合っていた理帆子。「弁護士になる」という高い目標を持つ一方、他人を下に見て敬意を払えない若尾に理帆子は自分と同じ「生活感と現実感の薄さ」を感じ取っていました。理帆子はそんな若尾が堕ちていくところを見たい、という思いから関係を断ち切ることができません。

若尾は、失敗の理由を周囲になすりつけることが当たり前になっていました。自分の非を認めない限り、掲げている目標には到達できっこない……理帆子は若尾の駄目な点を冷静に分析しているのは、彼が自分に似た「地に足をつけていない」性格だからこそ。理帆子の思う「挫折」は、自分の夢や目標を叶えられない言い訳をすぐに並べ立ててしまう人にも刺さるのではないでしょうか。

 
tujimura-3
出典:http://amzn.asia/axAFEGp

【あらすじ】
たった一度だけ、死者との再会を叶えてくれる謎の存在、“使者ツナグ”。代々“使者”としての務めを受け継ぐ家に生まれた歩美は、今日もさまざまな依頼人と死者を引き合わせていく。

【名言3】

打ち明けることなんてできなかった。懺悔ざんげする、告白するという行為は、随分とやった側に虫がいい考え方だ。

 
2012年に実写映画も制作された、『ツナグ』。歩美のもとにやってくるのは、死者に対して伝えられなかった思いや、後悔を抱いた依頼者ばかりです。

ある冬の日、歩美のもとに同じ高校の演劇部員、嵐がやってきます。彼女が望んだのは、2ヶ月前に交通事故で亡くなった親友、御園との面会。その背景には、些細な嫉妬心によって親友を失ったことへの罪滅ぼしがありました。

「自分が一番じゃないと気が済まない」という性格の嵐は、劇の主役に抜擢された御園に苛立ちを隠せません。やがて「足でも、腕でもいいから、御園が怪我したりしないだろうか。」、「あの子が舞台から消えさえすれば、役は私のところに戻ってくる。」と考えた嵐は、通学路に水を撒いて凍らせ、御園が怪我をするように仕向けます。結果として御園は事故を起こし、帰らぬ人となるのでした。

事故の原因が自転車のブレーキに問題があったためとされたものの、嵐は悪意を持って水を流したことを告白し、謝ろうと歩美を頼ります。嵐には、死のきっかけを作った罪を背負っていく決意がありました。

人間は生きている以上、何かしらの形で罪を犯すこともあるでしょう。それでも、罪を受け入れたまま遺された者として生きていく決意がひしひしと伝わる一言です。

 

【名言4】

「世の中が不公平なんて当たり前だよ。みんなに平等に不公平。フェアなんて誰にとっても存在しない」

 
ある日、歩美のもとに依頼をしてきたのは、3ヶ月前に急死した人気アイドル、水城サヲリとの再会を望む愛美まなみでした。そのきっかけは無理矢理誘われた飲み会の帰りに気分が悪くなり、同僚から路上に放置されてしまった愛美をサヲリが救ったこと。サヲリは去り際、愛美にこう語りかけます。

不幸なことばかりが続くと、ついつい「自分だけが辛い目に遭っている。不公平だ」と落ち込んでしまうかもしれません。そんなときは、この名言のように最初から「みんな平等に不公平」だと開き直ることで気持ちは切り替えられるはず。

この名言を残したサヲリは幼くして両親が離婚、母の再婚相手から暴力を受けており、母とその相手を別れさせるために水商売を始めたという波乱万丈なキャラクター。それでも歯に衣着せぬ発言で、芸能界でも人気者だったサヲリの言葉だと考えると、「たしかにそうかも」と思わせるものなのではないでしょうか。

 
tujimura-4
出典:http://amzn.asia/a9TRw6z

【あらすじ】
高校を卒業して10年。クラスの同窓会でいつも話題になるのは、人気女優となったクラスメイトの「キョウコ」。同窓会に一度も参加していない彼女を出席させようと意気込む面々だが、それぞれの高校時代の辛い思い出がよみがえってくるのであった……。

【名言5】

落ちる場所まで落ちたのなら、堂々と正面から傷つくべきだと決めた。縛られることでしか、過去の意味を計れない人間もいる。それが私であり、それがせめてものプライドだ。

 
かつて女王のポジションを確立し、すべてを意のままにできた響子。しかし高校卒業後、彼女は地元地方局のアナウンサーとして満たされない毎日を送ることとなります。一方で、人気女優として東京で脚光を浴びるのは、同じ名前の今日子。今日子は高校時代、響子の陰に隠れるような人物でした。

クラス会で描かれるのは、地元に残った者が抱く、東京に出た者への嫉妬。地元でしか評価されない立場の響子は、東京で成功を収めた今日子に対して焦りを隠せません。

たしかに、プライドを傷つけられるのは怖いことでしょう。しかし響子には、自分から正々堂々と自分の至らない面を受け入れようとする強さがあります。自分の弱さを認めることもまた、強さであることを教えてくれる名言です。

 
tujimura-5
出典:http://amzn.asia/dCokxMM

【あらすじ】
小学五年生のトシとワタルは、クラスから孤立したことをきっかけに家出を決意する……誰もが感じる生きにくさや不器用さを描いた短編集。

【名言6】

「(略)いつか絶対に平気になる。僕たちは、どこにでも行けるし、変わっていく。僕には言える。いつか、絶対に平気になる日が来る。」

 
大学生活の傍ら、塾講師のアルバイトをする主人公。彼はそこで、優秀でわがままな生徒、千晶と出会います。千晶は講師の好き嫌いが激しく、気に入らない講師を何人も辞めさせた、いわゆる問題児。なぜか主人公は千晶に好かれ、授業以外でも会うようになります。

裕福な家に生まれ、塾でも一目置かれている千晶でしたが、彼女には将来に対する漠然とした不安がありました。その不安を紛らわせるかのように、他人を支配する千晶に対し、主人公は「絶対に平気になる日が来る」と諭します。

辻村深月が多く描くのは、不安や葛藤を抱えた思春期の少年少女たち。彼らを悩ませるものは、時が経てば「そんなこともあった」と懐かしむことができるものも多数。その思いが強く現れた名言です。

 
tujimura-6
出典:http://amzn.asia/e0zZztb

【あらすじ】
ある日、“ぼく”が通っている小学校で飼われていたうさぎが、大学生のいたずらにより命を落としてしまう。彼らはうさぎの命だけでなく、うさぎを誰よりも可愛がっていた“ぼく”の幼馴染み、ふみちゃんの心を傷つけた……“ぼく”は母の家系から受け継いだ、ある特別な能力を使った復讐を考えるのだった。

【名言7】

「自分のために一生懸命になってくれる誰かがいること。自分が誰かにとってのかけがえのない人間であることを思い出すことでしか、馬鹿にされて傷ついた心は修復されないと、僕の友達が言っていました。(略)」

 
『ぼくのメジャースプーン』は、ある特別な能力を持った“ぼく”が、幼馴染みのふみちゃんの心を取り戻すため、その能力を使って戦うことを決意する物語です。

“ぼく”の能力とは、「Aをしなければいけない。さもなくば、Bになってしまう」と呼びかけることで、相手の行動を強制的に制限できる「条件ゲーム提示能力」。過去、無意識のうちにふみちゃんへ能力を使ってしまった“ぼく”は、自分の持つ力の恐ろしさを知りつつも、同じ能力を持つ叔父の秋山から正しい力の使い方を教わることとなります。

痛ましい事件をきっかけに、学校へ来ることも難しくなってしまったふみちゃん。彼女を小馬鹿にした同級生を見た“ぼく”は、怒りのあまり思わず「もう二度と学校に来るな。そうしなければ、お前はもう二度とふみちゃんとは口がきけない」と叫んでしまいます。

感情に任せて能力を使ってしまったことを後悔する“ぼく”に対し、秋山はこう語りかけます。秋山は“ぼく”がふみちゃんのために一生懸命であること、そして馬鹿にされたふみちゃんを守るためにした行動であることを理解していたのです。

私たちは心が弱ったとき、「自分には何もない」「誰も自分のことを好きでいてくれない」と沈んでしまうことがあるかもしれません。そんなときこそ、秋山の言葉にあるように、かけがえのない誰かのことを思い出したいですね。

 

【名言8】

「(略)責任を感じるから、自分のためにその人間が必要だから、その人が悲しいことが嫌だから。そうやって、『自分のため』の気持ちで結びつき、相手に執着する。その気持ちを、人はそれでも愛と呼ぶんです。」

 
“ぼく”がふみちゃんを気にかけていたのは、事件当日に飼育当番を代わってもらったことで傷つけられたうさぎを見てしまったから。好意ではなく、ふみちゃんを傷つけたことに自分が関わっていた後ろめたさからくるものだと“ぼく”は秋山に吐露します。

かつてふみちゃんが言った「人間って、絶対に他人のために泣いたりできないんだって。誰かが死んで、それで悲しくなって泣いてても、それは結局、その人がいなくなっちゃった自分のことがかわいそうで泣いてるんだって。自分のためにしか涙が出ないんだって、そう書いてあった」という言葉の通り、“ぼく”はふみちゃんが身代わりになった責任に耐えられないから泣いているのではないかと考えますが、秋山はそれもひとつの愛の形だと認めます。

ときに人は、好きな人の側にいることをエゴだと言うこともあるでしょう。それを聞いて、「もしかして私は、あの人に求められていることに酔っているのでは?」「私はあの人に依存している」と罪悪感を持つかもしれません。それを否定するのではなく、「それもまた、ひとつの愛の形」だと認めてくれる秋山の言葉は、多くの人の心に響くこと間違いありません。

 
tujimura-7
出典:http://amzn.asia/dNUFJn5

【あらすじ】
クラスメートとの確執をきっかけに、家に閉じこもってしまったこころ。ある日突然輝きだした部屋の鏡をくぐり抜けた先にあったのは、不思議なお城だった。こころは自分と同じ境遇にある少年少女たちとともに、狼のお面をかぶった女の子“オオカミさま”に翻弄されながらも、成長していく。

【名言9】

「こころちゃんが頑張ってるの、お母さんも、私も、わかってる。闘わないで、自分のしたいことだけ考えてみて。もう闘わなくてもいいよ」

 
『かがみの孤城』の主人公、こころはクラスメートとのトラブルから不登校になった少女です。冒頭では不登校の生徒たちが通う“スクール”にも足が向かない自分を責めるこころでしたが、そのスクールで唯一心を開いたのは喜多嶋先生でした。

「学校には行かなければいけない」と思いながらも、学級担任の的外れな対応やトラブルのもととなったクラスメートの態度に疲弊するこころ。そんなこころに対し、喜多嶋先生は味方がいることを示します。「闘っていること」「頑張っていること」を認めると同時に、寄り添ってくれることを気づかせる言葉は、ひとりではないことに気づかせてくれるものではないでしょうか。

 

【名言10】

残るものが記憶だけ、なんてことはない。
この一年近く、ここで過ごしたこと。友達ができたことは、これから先もこころを支えてくれる。私は、友達がいないわけじゃない。この先一生、たとえ誰とも友達になれなかったとしても、私には友達がいたこともあるんだと、そう思って生きていくことができる。

 
こころが城で出会った仲間たちは、何かしらの理由で学校に行っていないことをなんとなく知っているくらいで、本名すらも知りません。それでも、同じものに立ち向かっているという境遇は、彼らの関係を強く結びつけるもの。こころは彼らとの出会いを胸に、生きていく勇気を得ます。

当然ながら、生きているうちに出会うことは良いことばかりではありません。それでも、こころのように自分の支えになるものがあれば、立ち向かえるもの。それがこころの場合は城でできた友達でした。あなたにもそんな支えになるものは、必ずあるはずです。

 

辻村深月の名言は、どれも優しいものばかり。

辻村深月の作品に見られるのは、普通なら目を背けたくなるような人間の醜い部分を認めてくれる言葉たち。それは今まさに思春期を迎えた読者はもちろん、かつて傷ついたことがある読者にも向けられた言葉であることは間違いありません。

ぜひ、作品を読んで、かつての自分を救ってくれる名言に出会ってみてはいかがでしょうか。

記事一覧
△ あの日の自分に届けたい、辻村深月の名言10選 | P+D MAGAZINE TOPへ