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一見ファンタジックでありながら涙の渦に引き込まれる美しさの物語 宇山佳佑おすすめ4選

宇山佳佑は、若い男女の切なくピュアな恋愛を描く、人気の小説家です。恋愛ファンタジーのベースに、お仕事小説の要素も絡めた、著者のおすすめ作品4選を紹介します。

『ひまわりは恋の形』近くにいるのに、彼女に会えるのは1年でたった7日間。その理由は


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 就職浪人中の日向ひなたは、ひょんなことから知り合った花屋の娘・しずくに一目ぼれ。しかし、雫は難病にかかっているため付き合えないと言います。高校生の時に倒れ、数か月間こんこんと眠り続けた雫。検査の結果、睡眠ホルモンが異常分泌されて止まらなくなる特異な体質で、起きていられるのは夏場のわずかなひとときだけだということが判明します。それでもずっと一緒にいたいと言う日向に、雫は告げます。

「ずっと傍にいて、寝ているわたしの面倒を看てくれる? 365日、毎日わたしのために生きてくれるの? 毎日身体を拭いて、髪を洗って、爪も切ってくれる? 筋肉が固まらないように1日3回、身体を動かしてくれる? どこにも行けないよ? そんな毎日を何年も、何十年も、続けていける?」

 
 日向にはもっと広い世界で生きてほしいと言いつつ、来年目覚めたときもそばに居てほしいと願う雫。一方、日向にも不安はあります。

僕は世界中のどこにでも行ける。アメリカにも、ヨーロッパにも、その気になれば南極にも行ける。でも、君の夢の中にだけは行けないんだ……。こんなに近くにいるのに、遭いに行くことができないんだ。あと5日。たったあと5日で、僕はまた夢が覚めたように孤独に戻る。

「近くて遠い」とはまさにこのこと。それでも日向は人を笑顔にできる花屋の仕事にやりがいを見出し、雫にプロポーズします。雫は、人生で残された短い時間で小説を書くという夢に前向きに取り組み始めます。やっと手に入れた幸せの形。けれど、今度は雫にではなく、日向にとってあまりに理不尽な出来事が訪れます。来年雫が目覚めたとき、日向はそばに居られないかもしれない、その試練とは。
 涙なしには読めない純愛小説であるとともに、自分の適性が分からなかった2人が、花屋と小説家という天職と出会う過程も綴られてあり、これから就職活動をする人にも参考になる1冊です。

『桜のような僕の恋人』桜のようにすぐに散りゆく君へ、僕は何ができるのか


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 晴人はるとは、カメラマンを目指す24歳。行きつけの美容院の美容師・美咲に片思い中。ある日、美咲がカットの途中で晴人の耳たぶをハサミで切ってしまうというミスをしてしまいます。晴人のためなら何でもするという美咲に、「僕とデートしてください」と言った晴人。衝撃的なきっかけで付き合いだした2人は、ぎこちなくもやがて互いへの愛情を確かめ合います。
 そんな矢先、美咲は白髪が急に多くなり、慢性的な疲労に悩まされ、大学病院で検査を受けます。

“人より早く年を取る病”。この病の原因は未だに解明されていない。遺伝子が欠損することが原因とも言われているし、染色体の遺伝子異常とも言われている。治療法も確立しておらず、発症すると食い止める術(すべ)はなく、常人の数十倍もの速度で老化が進行し筋力や免疫力が一気に低下する。それはまるで時間を早送りしているかのようで、その様子から『ファストフォワード(早送り)症候群』と呼ばれるようになった。

 発症から1年以内で老婆のようになり、死に至る――。そのことを知った美咲は、晴人を意図的に避けるようになります。美咲のことを傍で見ているお姉さん代わりの綾乃は思います。

好きな人の前ではいつまでも綺麗でいたいというのが女心だ。しかし美咲ちゃんはたった24歳でそのことが叶わなくなってしまった。すさまじい速度で年を取るということは、爪を一枚一枚がされるよりも苦痛なのだ。恋人に恨まれてでも年老いた姿は見せたくないと思っている。

 その後、美咲の真意を知った晴人は、おばあさんになった美咲と対面し、残された時間の中で自分がしてあげられることは何か考え始めます。それは、すべてのものが変わりゆく世界のなかで、たったひとつ変わらずに存在するもの、それを形にして美咲に差し出すことでした。晴人の考える「変わらないもの」とは。

『恋に焦がれたブルー』あなたと一緒にいたいのに、一緒にいると死んでしまう。不思議な病を抱えた少女の、恋の行方とは


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 あゆは靴職人を夢見る高校生。同じ学年の青緒あおがいつもボロボロの靴を履いているのを気にしており、手作りの靴を作ってあげようと思いつきます。「あなたの足に触らせてください」――「気持ち悪い……」。出会いは最悪でしたが、青緒の誤解も解け、2人は距離を縮めます。ある日、靴職人を目指すきっかけを聞かれた歩橙。

「僕の足、左右で長さが違うんです」
 彼女にローファーの靴底を見せてあげた。
「ほら、靴底の厚さがちょっとだけ違うでしょ? 生まれつき関節がずれていて、右足の方がちょっとだけ短いんです。子供の頃は歩くのが下手で笑われてばかりいて。いつもビクビク怯えて下ばかり見て生きていたんです。人の顔より人の靴を見る方が多かったくらいでした。そんなふうに靴ばっかり見ていたら、だんだん靴自体に興味が湧いてきたんです。靴って人間性がすごく出るんです。ズボラな人は靴だって汚いし、格好つけな人は靴も気取ってて。靴はその人の心を表すんだなぁって」

 歩橙に裸足を差し出して、採寸してもらう青緒。くすぐったく甘酸っぱい気持ちになるはずの場面で、青緒の身体に激痛が走ります。その後も歩橙と会うたびに焦げるような痛みがあり、その箇所は火傷のような跡になっているのでした。病院で調べたところ、それは『ブレイン・マルファンクション(脳の誤作動)』、すなわち、ある特定の刺激に対し、脳の信号が暴走し、痛みや痣の原因になっているということらしいのです。青緒にとっての「特定の刺激」とは、歩橙に他ならないのですが、根本的な治療法がない病だけに、今後一切接触を持たないこと以外、病気を抑える方法はないのです。
 歩橙のもとを一方的に去った青緒と、そのことが納得できない歩橙。共通の友人から本当の事情を知った歩橙は、絶望します。青緒と一緒にいることが、青緒の身体を傷つけることになるのだから。
 物語は、苦難を乗り越え2人が結ばれるというような、安易なハッピーエンドをたどりません。離れたままでも共に生きていくために彼らがした選択はどのようなものだったのでしょうか。

『この恋は世界でいちばん美しい雨』相手の幸せを願えば願うほど、あなたの命が目減りする。それでも幸せを願えますか?


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 建築家の卵である26歳のまことは、鎌倉のカフェで店員をする23歳の日菜ひなと同棲中。日菜は、雨の日が憂鬱だという誠に素敵なことを教えてくれました。

「雨って、誰かが大切な人を想って降らす“恋の雨”なんですよ。和泉式部いずみしきぶの和歌でこんなのがあるんです。
 おほかたに さみだるるとや 思ふらむ 君恋ひわたる 今日のながめを
 あなたはこの雨を普通の雨と変わらない五月雨さみだれと思っているのでしょうが、あなたを想う、私の“恋の涙”であるこの長雨を。わたし、この歌を知ってから雨がとっても好きになんたんです」
(中略)空から雨が落ちてきた。こんなに晴れているのに、太陽が輝いているのに、どうして雨が降るんだろう。こういう天気のことを空が泣いているって意味で“天泣てんきゅう”と言うらしい。
「恋の涙だね。今日も誰かがどこかで、大切な人のことを想っているんだろうね」

 将来は、誠の設計した家で共に暮らすことを夢見ている2人。ところが、彼らはバイクの事故で重体になります。意識不明の混濁した状態のなかで、2人に下ったお告げ。それは、1人10年、2人あわせて20年という期間限定で生き返らせてあげるというもの。ただし、それぞれの持ち時間は、つねに平等というわけではなく、日々のなかでより幸せを感じた方の余命時間が長くなり、その分相手の時間を目減りさせてしまうというのです。2人にはそれぞれ、今の自分の余命が何年かを測定する時計が渡されます。例えばある日、誠の時計が8年と表示されたら、日菜の時計は12年になるという仕組みです。日菜は小さなことにも幸せを感じられる性格のため、生来ネガティブな誠は、日菜にどんどん時間、すなわち命を吸い取られます。

日菜が笑うと怖い。喜ぶと怖い。あんなに好きだった彼女の笑顔は、今は僕を傷つける刃物だ。だから笑わないでほしい。喜ばないでほしい。そんな風に思ってしまう自分が世界で一番浅ましく思える。僕はなんていやらしい人間なんだ。

 恋人の幸せを願えない苦しみ。日菜は日菜で悩んでいます。平凡な自分と違って、建築家の夢を持つ誠へ少しでも多くの時間をあげたい、と。このシステムは、どちらかが継続を放棄すれば、自分の時間を相手へ与えることができるのですが、それと引き換えに、放棄して自死を選んだ者のことは、生き残ったもう片方の記憶からは抹消されてしまうという過酷なルールがあるのでした。つまり、自分が死んだ後、恋人が自分の存在自体を忘れてしまうということなのですが、その時、雨が2人をつなぐ役目を果たします。そして、読み終えたとき、「この恋は世界でいちばん美しい雨」の意味が心に響いてくるでしょう。

おわりに

 難病や非日常の事態など、宇山佳佑作品では、特殊な状況における恋愛が描かれます。しかし、どんなに突飛な設定でも読者が共感して涙できるのは、それらが普遍的な男女の愛を扱っているからと言えそうです。また、登場人物たちが自分の夢だった仕事にひたむきに取り組んでいるところも魅力です。そんな作品をぜひ味わってみてはいかがでしょうか。

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