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抱いた女の数は光源氏超え?『好色一代男』の主人公、世之助からモテテクニックを学ぶ【文学恋愛講座#7】

作中で3,000人以上の女性を抱いたとされる『好色一代男』の主人公、世之介。驚くほど性に奔放な世之介の生き様から、モテるテクニックをご紹介します。

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あなたは「文学作品のキャラクターでモテる主人公」を聞かれたら、誰を想像しますか?

人によっては『源氏物語』の光源氏や、『ノルウェイの森』の“僕”をイメージするかもしれません。確かに光源氏も“僕”も、女性を強く魅了するキャラクターとして描かれています。しかし、3,742人の女性、725人の男性と関係を持った衝撃的なまでのモテ主人公がいることをご存知でしょうか。

その主人公とは、井原西鶴による『好色一代男』に登場する“世之介”です。

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出典:http://amzn.asia/4RL3ft3

この作品は世之介の性に奔放な人生を描いたものであり、出版された江戸時代前期には「自分もこんな人生が送りたい」と庶民男性からの支持を集めたとされています。

“世之介”という名前は、映画化もされた吉田修一『横道世之介』でも紹介されています。『横道世之介』の世之介は、自分の名前の由来が「昔の小説の主人公で理想の生き方を追い求めた男からの名前」と聞いていたものの、国語教師から『好色一代男』の破廉恥な話をされて教室が騒然とした……という場面があります。

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3,742人の女性、725人の男性と関係を持つほどだった世之介は、一体どんなテクニックをもっていたのでしょうか。今回は史上最高にモテた主人公、世之介の一生からモテテクニックを学びます。

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テクニック1 .あざとさを最大限に使う

『好色一代男』は、世之介が7歳の時から始まります。愛人として太夫を数人抱える伊達男の父と、自身も太夫を務めるほど美しい母親をもち、但馬国(現在の兵庫県)の銀山を所有する裕福な商家で生まれ育った世之介は7歳にして色恋沙汰に目覚めるおませな子どもでした。

そんな幼い世之介のターゲットになったのは、世話係の侍女でした。

あくれば七歳の夏の夜の、寝覚の枕をのけ、かけがねのひびき、あくびの音のみ。おつぎの間に宿直せし女、さし心得て、手燭てしゃくともして、遥なる廊下を轟かし、ひがし北の家陰に、南天の下葉しげりて、敷松葉に御しともれ行て、お手水のぬれ縁、ひしぎ竹のあらけなきに、かな釘のかしらも御こころもとなく、ひかりなを見せまいらすれば、「其火けして近くへ」と仰られける。「御あしもと大事がりて、かく奉るを、いかにして闇がりなしては」と、御言葉をかへし申せば、うちうなづかせ給ひ、「こいは闇といふ事をしらずや」と、仰られける程に、御まもりわきざしもちたる女、息ふき懸けて、御のぞみになしたてまつれば、左のふり袖を引たまひて、「乳母はいぬか」と仰らるここそおかし。

【現代語訳】
7歳の夏の夜、世之介はふと目を覚まして枕を押しのけ、起き出した。近くの部屋にいた侍女がそれと心得て、蝋燭を手にお供をした。厠の近くの廊下には竹が荒く張っている箇所があったため、「釘の頭が出ていたら危ない」と思って明かりをいっそう近づけてあげると、世之介は「その火を消して、もっとそばへ寄りなよ」と仰った。「お足元が心配で、こうしているのですよ」と返すと、世之介は頷きながら「恋は闇というでしょう?」と言う。お守り刀を持っていた侍女がお望み通りに蝋燭の火を吹き消すと、「そこらに乳母はいないか」と侍女の袖を引きながらおっしゃるのもおかしい。

「幼い男の子が暗い夜にトイレまで連れて行ってもらう場面」と聞くと微笑ましく思えるかもしれませんが、その途中で侍女を口説くというとんでもない状況です。また、「恋は闇」(恋は人の理性を失わせることの例え)と、ストレートな愛の言葉を幼い世之介は口にしていますが、これは7歳でもませた言葉を知っているというあざとさを武器にしていることでもあります。

この後も、性への目覚めが日増しにつのっていった世之介は侍女に鳥や花の折り紙細工を贈っては「比翼の鳥、連理の枝」(いずれも男女の深い契りのこと)と言ったり、達筆の法師に恋文を書かせたりと、7歳にしてはませた行動に出ます。しかし、これらも幼い男の子がやっているというギャップを相手に見せつけることでもあり、そこに侍女もつい魅了されてしまうのでした。

世之介は幼くして自分の持つ武器を分析し、最大限に使うテクニックを心得ていました。だからこそ、女の心を容易に動かすことができたのでしょう。

 

テクニック2. 一芸を身につける。

16歳になり、元服(成人を示す通過儀礼)を迎えた世之介は流行りの格好で街を颯爽と歩く色男に。家の金で女遊びを繰り返していたことはやがて両親の耳にも入り、江戸へ奉公に行くことを命じられます。

しかし世之介は真面目に働くどころか、相変わらず女遊びにふけっていた有様。世之介はついに勘当されてしまいますが、奉公先の店主が「気の毒だが、出家して1年ほど色事を禁じて仏の道を学べば良いだろう」と気を利かせます。

世之介は色事から離れることに苦痛を覚えて逃げ出し、道具売りの少年をつかまえては関係を持つ始末。女性だけでなく男性までもを魅了する世之介は、色事からどうしても離れられない身であったのです。

やがて世之介は謡うたいとして各地を放浪した後、巫女と親しくなったことをきっかけに神主となって女遊びを続けていくのでした。

そんな矢先、夫のいる巫女に手を出した世之介に天罰がくだります。巫女の夫から片小髷(左右側面の髪のこと。当時は強姦罪の刑罰として剃られていた)を落とされ、殺されそうになった世之介は、しばらく人目を避けて生きなければいけなくなってしまいます。

両親を騙し、数々の女を泣かせた罰がここで降りかかったのか、さらに世之介は片小髷が無いことを理由に賊と間違えられて牢屋へ投獄されます。

朝夕の暮らしも公儀のめしとは悲しく、はじめの程は目もくらみ、泪にしづみ、前後もしらずありしに、奥より十人ばかりの声して、「今入るの小男、籠屋ろうやの作法にまかせ、胴をうたす」と立かさなる。かたちは色くろく、髪ながく、両眼りょうがんにひかりあって、そのまま世界のに見し牛鬼嶋のごとし。左右に取つき、手玉につきて、あぐる時息はきれ、おろさるる時息つぎ、是でも死なれぬ命と起あがるを、又「なれこ舞、何にても藝をせよ」といじる。是非なく立て、花の都のぬべりぶし、長ひ刀に長脇差をぼつこんで、をせさ、よいさ」とうたへど、権興けんよもなひ顔して居る。これはと様子替て、「松原越て」と踊れば、一度に手をうつてよろこぶ。

【現代語訳】
朝食も夕食も牢獄の飯なのかと思うと悲しく、はじめのうちは涙ばかり流していた。そのうちに奥の方から10人ほどの声がして「新入りの男がやってきたぞ。ここの作法で胴上げしてやろうぜ」と、色黒で髪がぼうぼう、両眼がギラギラ光る鬼のようなやつらがやってきた。世之介の左右に来たかと思えば乱暴に胴上げをする。「こんなにされても人の命はあるものだ」と息も絶え絶えに起き上がると、「今度は芸でもやってもらおうか」と責め立ててくる。仕方なく立ち上がって、花の都で流行る踊りをしたがみんなぽかんとしている。これはまずいと「松原越えて」と踊って見せると一斉に手を叩いて喜んだ。

同じく牢屋に入れられた男たちから「芸でも見せてみろ」といじめに遭う世之介でしたが、謡うたいの経験が功を奏して難を逃れます。それどころか、亭主を嫌って逃げ出したところを捕まった女性を口説き始めるのでした。それどころではない状況であっても、女性を口説くのを忘れないのはさすが世之介といったところでしょう。

「芸は身を助ける」という言葉もありますが、世之介はまさに一芸を身につけていたことから窮地を脱することができました。さらにその芸で女性の心をつかみ、自由の身になった後はともに一緒になろうと誓い合うまでに。いつどんな無茶ぶりがされるかわからない時代。あなたにも何かしらの芸があれば、女性とお近づきになれるチャンスも手に入れるかもしれません。

 

テクニック3. 若き日の過ちを反省する。

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世之介もひとりひとりの女性に対し、誠実だったわけではありません。将来を誓った女性を放置して旅に出ることもしばしばでした。牢獄で出会った女も不注意から元亭主の仲間にさらわれ、殺されてしまいます。

「あの女が殺されたのは、俺のせいだ。もうどうなったっていい」と心を痛めた世之介は、かつて出家をした頃に男色の契りを結んだ男のもとを訪れます。男が自分のことを忘れていなかっただけでなく、親しかった頃に贈った仏像を肌身離さず持っていたことに感動した世之介。「ご馳走したいので、山で狸を狩ってきます」と出かけた男を見送って床についた世之介は、奇妙なものが2階から降りてくることに気づきます。

まだ身もぬくもらず、目もあはぬ内に、二階よりはしの子をつたひて、頭は女、あし鳥のごとし。胴体は魚にまぎれず、波の磯による声のして、「世之介様、我を忘れ給ふか。石垣町の鯉屋の小まんが執心、思ひしらせん」といふ。

【現代語訳】
世之介は床の中でまだ体も温まらず、寝付けないうちに二階から梯子を伝って頭は女、足は鳥、胴体は魚そっくりの化け物が降りてきた。磯に打ち寄せる波のような声で「世之介様、私をお忘れになりましたか。石垣町の鯉屋の小万が執念、ここで思い知らせてやる」と言う。

この他にも「俺たちは比翼の鳥だ」と言っておきながら見捨てた女、既婚者だったが世之介に恋焦がれるあまり夫を毒殺した女、尼だったが世之介と関係を持って再び煩悩の道に戻ってしまった女の怨念が化け物の姿となって襲いかかります。

観念して念仏を唱えていた世之介でしたが、朝になると化け物たちは消えてしまいます。気を取り直してから2階に行くと、そこには女たちに書かせた起請文(男女間の愛情が変わらないことを互いに誓い合って書いた文書)が切り裂かれて散らばっていました。これをきっかけに、世之介は女性に起請文を書かせることを辞め、これまでの行いを悔いるのでした。

いくらモテたとしても、女性との関係をおざなりにしては意味がありません。世之介は無闇に起請文を書かせて愛情を証明したにも関わらず、簡単に終わらせてしまうためにこのようなトラブルに発展しましたが、これをきっかけに「今後は簡単に起訴文を書かせまい」と反省しています。

あなたも世之介のように、女性への接し方を反省することも必要なのかもしれません。後腐れなく別れることで、過去の女性からの恨みを回避し、新たな出会いへ繋げられるはずです。

 

テクニック4. 年齢を言い訳にせず、異性への探究心を持ち続ける。

Fishing boat and island with mountains on vintage background. Traditional oriental ink painting sumi-e, u-sin, go-hua. Contains hieroglyphs - eternity, freedom, happiness, beauty

世之介は34歳で大きな転機を迎えます。父親が亡くなり、25,000両もの莫大な遺産を相続した世之介は日本各地の遊女と関係を持つために遊び歩き、遊里に詳しい人物を指す“粋人”と称されるまでの男となるのでした。

やがて60歳となった世之介は、遺産をもとに若者に家を買ったり、馴染みの女郎に金を与えて自由の身にしてやります。そんな世之介の胸中には、ある決意がありました。

それより世之介は、ひとつこころの友を七人誘引あはせ、難波江の小嶋にて、新しき舟つくらせて好色丸と名を記し、緋縮緬ちりめん吹貫ふきぬき、是はむかしの太夫吉野が名残の脇布也。

【現代語訳】
世之介は気の知れた7人の友人を誘い、難波の小島で新しい舟を作らせた。名を好色丸といい、かつて関係を持った吉野太夫の形見の腰巻を使った吹流しを立てた。

世之介が「好色丸」と名付けた舟には食料や着物、春画、大人の玩具をたくさん乗せていました。世之介は仲間たちに「この舟で日本を出よう。年をとったからといって“若い頃は良かった”と嘆くのではなく、最後に一花咲かせてみせよう」と遊女ばかりの島、女護島にょごがしまへ行こうと誘います。彼らは好色丸に乗って日本を旅立ちますが、結果として、その後の彼らの行方を知るものはいなかった……という形でこの物語は幕を閉じます。

60歳を迎えてもなお、女性への興味は尽きなかった世之介。親しかった女郎にも白髪が増え、小じわが多くなる姿を見ては自分の老いを再認識して気持ちがどんよりすることもあった世之介でしたが、最後には仲間たちと新たな場所へ向かいます。

世の中には、「若かった頃はこんなにモテた」と過去の栄光をもとに自慢話をする人もいるかもしれません。しかし、世之介のように老いても過去を振り返らず、変わらず女性への探究心を持つこともまた、モテる一生を過ごした人物ならではのテクニックなのでしょう。

 

史上最強のモテ男、世之介。

『好色一代男』は、同じくモテ男が主人公の『源氏物語』が54帖あることにならい、ひとりの男性の7歳から60歳までの54年間を描いています。かつては「あまりにも表現が官能的すぎる」と言われていた一方、人間の欲をありのままに描いている点は今も昔も高い評価を受けています。

それはやはり、性別に関わらず多くの人の心をつかんだ世之介という主人公の存在が大きいのでしょう。若い頃はさまざまな人を悲しませたかと思えば、自分の身に降りかかった不幸から行動を反省する。しかしさらに好色の道を突き進む世之介はどこか憎めないキャラクターです。

そんな世之介の生き様は、現代に生きる私たちにも「後悔しない生き方をする」という大切なことを教えてくれるのかもしれません。あなたもぜひ、世之介の自由な生き方を『好色一代男』という作品から学んでみてはいかがでしょうか。

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