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大人も子どもも夢中になる、『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』原作小説の魅力

2020年のアニメ放送開始以来、子どもたちに絶大な人気を得ている作品『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』。原作は、小説家の廣嶋玲子による児童文学作品シリーズです。今回はそんな『銭天堂』原作シリーズの魅力をご紹介します。

令和の小学生のあいだで大人気を博している『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』シリーズ。本シリーズは2013年から現在まで刊行が続いている、小説家の廣嶋玲子による児童文学作品です。発売当初からじわじわと子どもたちの話題を集めてきましたが、昨年9月のテレビアニメ化をきっかけに人気が爆発しました。

原作シリーズは、累計発行部数が350万部を突破(2021年8月現在)するなど、非常に多くの子どもたちに愛されています。今回は、そんな『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』シリーズの魅力をたっぷり解説します。

【魅力その1】美味しいけれど注意も必要。一風変わった「駄菓子」たち

本シリーズの舞台は、叶えたい望みがある人の前にだけ現れるふしぎな駄菓子屋・銭天堂。作中では毎回異なる人物がこの「銭天堂」に客として訪れ、叶えたい望みに応じた奇妙な駄菓子を、店主の紅子べにこから勧められます。

シリーズ1巻の第1話「型ぬき人魚グミ」は、泳げないことをコンプレックスに感じている主人公の真由美という小学生が、いつもの商店街を抜けた先にどこからともなく現れた銭天堂にたどり着くところから始まります。

だいたいにおいて、駄菓子屋というのはふしぎな魅力をもっているものだ。赤や緑の毒々しい色をしているゼリーやグミが、びんいっぱいにつめこまれているかと思えば、じみなせんべいや塩コンブ、黒々としたかりんとうなどが、ごちゃごちゃとならんでいたりして。
でも、真由美が見つけた駄菓子屋、「銭天堂」の品物たちは、そういうものとはちがっていた。(中略)ほかとはちがう、特別な力を秘めたもの。

よく見ると、商品の名前もいっぷう変わっていた。「猫目アメ」、「骨まで愛して・骨形カルシウムラムネ」、「兵糧キャラメル」、「闇のカクテルジュース」、「妖怪ガムガム」、「招き猫もち」、「虹色水アメ」、「ぶるぶる幽霊ゼリー」、「あかん棒」、「べっこう亀アメ」、「遠足缶」、「ツバメの卵まんじゅう」、「コウモリせんべい」などなど。

店主の紅子に望みを聞かれた真由美が思わず「泳げるようになりたいの」とつぶやくと、紅子は「型抜き人魚グミ」なるグミを勧めてきました。お代は10円。真由美はその商品を買い、入っていた説明書の通りに粉と水を混ぜて作ったグミを型から抜いて食べると、なんと翌日の学校のプールで、真由美はすいすいと泳げるようになっていました。

このように、銭天堂で売られている駄菓子には、目の前の客の悩みを解決し、望みを叶える力があります。たとえば、ライムソーダのような爽やかな味のアイスでありながら、食べかけを半分だけ残して冷凍庫に入れておくとたたりで家じゅうがおばけ屋敷になる「ホーンテッドハウス」(第1巻)や、付属のしょうゆペンで表面に願いごとを書き、神社に奉納すると願いがひとつ叶う「絵馬せんべい」(第3巻)、それを食べた人が触れたお湯に入ると途端に肩こりがよくなる「肩こり地蔵まんじゅう」(第9巻)など。

銭天堂の駄菓子を購入した客たちは、はじめは願いが叶って大喜びしますが、駄菓子の注意書きをきちんと読まずに中途半端な使い方をしたり傲慢になったりしてしまうと、悪いことも起こります。たとえば、「型抜き人魚グミ」を購入した真由美は説明書をきちんと最後まで読まなかったため、グミを食べたあとは必ず塩水を1杯飲むというルールを破ってしまい、危うく人魚になりかけてしまうというピンチに遭いました。

『銭天堂』シリーズで描かれる駄菓子はどれも、あったらいいなとワクワクするようなものでありながら、同時になにが起こるかわからない緊張感や恐ろしさも秘めているのです。この駄菓子のユニークさが、本シリーズの最大の魅力と言えるでしょう。

【魅力その2】女主人の紅子、飼い猫の墨丸──一癖も二癖もあるキャラクターたち

前述の通り、銭天堂の主人は紅子という名の女性です。毎回、銭天堂を訪れた幸運な人物が主人公となるオムニバス形式の本シリーズのなかで、紅子は唯一毎回登場する人物ですが、その素性は謎に包まれています。

ふいに、店の奥の暗がりから女の人があらわれた。
古銭の柄の入った、こい赤紫色の着物を着た人で、どっしりと太っていて、まるですもうとりのような迫力がある。
大きく結いあげてある髪は、真っ白だった。でも、おばあさんではない。顔にはしわ一つないし、赤い口紅をぬったところとか、色とりどりの大きなガラス玉のかんざしを何本もさしているところとか、はでな感じがする。でも、若いってわけでもないようだ。(中略)
おばさんは、にっと笑って声をかけてきた。ちょっとぞくりとするような、色っぽい声だった。
(──『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』「型ぬき人魚グミ」より)

紅子は非常に大きな体をした真っ白い髪の女性ですが、年齢は不詳。「~ござんす」という特徴的な語尾で喋り、その姿や声は、美しいけれどどこか怖くもある──という印象を多くの客に与えるようです。紅子は客の願いに応じたさまざまな“幸運の”駄菓子を売りますが、その人が実際に幸運になるか不運になるかは、あくまで買った客しだいです。

シリーズの第3巻からは、銭天堂に恨みを抱く駄菓子屋・たたりめ堂という店も登場します。店主はおかっぱ頭で黒い着物を着た少女のよどみで、彼女は黒い色の「不幸虫」を夜にたくさん集め、それを使って駄菓子を作っています。たたりめ堂は銭天堂とは反対で、客から集めた「悪意」をエネルギーとするのです。よどみは、銭天堂の「幸運になるか不運になるかは客しだい」という姿勢が気に入らないようで、紅子を強くライバル視しています。

「売るなら売るで、どっちかにしたらどうなのさ? うちのやり方を、すこしは見習ってほしいもんだね。うちは、はじめっから悪意ひとすじだからね」
「そういわれましてもねえ。……ところで、よどみさんは、なぜ悪意なんぞ売るんでござんすかえ?」
そりゃきまってると、よどみは答えた。
「楽しいからだよ。人間のべとべとした悪意が、大きくふくれあがるのを見るくらい、楽しいことはないのさぁ」
(──『ふしぎ駄菓子屋銭天堂3』エピローグより)

シリーズ中盤からは、このふたりの店主たち、そして銭天堂とたたりめ堂の対決も、本作の大きなポイントとなっていきます。単なる善意と悪意の対決──という一筋縄ではいかないところも、本シリーズのユニークさです。

【魅力その3】子ども騙しではない、「恐ろしさ」のあるストーリー

『銭天堂』シリーズのように「願いを叶える魔法のアイテム」が登場する児童文学は、古今東西たくさん存在します。たとえそのアイテムの使い方を誤ったり傲慢な心を持ったりしてしまっても、使った本人が改心することでハッピーエンドとなる──という作品がほとんどでしょう。しかし『銭天堂』シリーズでは、駄菓子を食べた人に容赦なく悪いことが訪れ、ゾッとするようなあと味でお話が終わることも少なくありません。

たとえば、孫に「お顔しわしわだね」と言われたことにショックを受け、適量を食べることでしわが減るという駄菓子「しわとり梅干し」を銭天堂で購入した主人公・雪江は、しだいにその効果に魅了され、しわとり梅干しを過剰摂取するようになってしまいます。副作用でしわが元の3倍になり、90歳の老人のような見た目になってしまった雪江。彼女は孫を誘拐しようとした男に無理やりしわとり梅干しを食べさせて退治したことでようやく元の顔を取り戻しますが、結果的にその男は自分の顔の変化にパニックを起こし、大事故を起こして入院するはめになってしまうのです。

その後、事故を起こした老人が「おれはまだ22歳だ!」とわめきたてたというニュースを見た雪江は、“ざまあみろとは、このことだ”とつぶやきます。

また、仕事ができて子煩悩な会社の同僚に常日頃から嫉妬していた綿貫という男は、その悪意を見抜かれ、たたりめ堂から「わら人形焼き」という駄菓子を購入します。綿貫はわら人形焼きを使って同僚の娘の真理恵を呪い、彼女が毎日悪夢しか見られないようにしてしまいます。ところが、銭天堂の駄菓子を買った同僚にその呪いを解かれたおかげで、今度は綿貫本人に恐ろしい幻想が見えるようになってしまい、彼はそのまま会社をやめることになるのです。

『銭天堂』シリーズは基本的には道徳的・教育的なストーリーであるものの、ときには人の悪意や嫉妬心を容赦なく浮かび上がらせる展開で、読者をゾッとさせます。このギャップも、間違いなく本シリーズの大きな魅力となっています。

おわりに

色とりどりのふしぎな駄菓子が登場する『銭天堂』シリーズ。子どもの心を掴んで離さないのはもちろん、本シリーズは大人が読んでも、その予想のつかない展開や謎めいたキャラクターたちの数々に魅了されるはずです。お子さんと一緒にアニメを見ていて気になったという方はぜひ原作小説にも手を伸ばし、親子で楽しんでみてください。

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